真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「超過激本番失神」(1992/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:中野貴雄/プロデューサー:プレジャー後藤/撮影:下元哲/照明:多摩新町/音楽:藪中博章/編集:フィルムクラフト/助監督:高田宝重/監督助手:山西勝/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:林信一/メイク:木下浩美/スチール:つくね二郎/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/効果:鴇泉宗正/出演:水鳥川彩・風見怜香・伊藤舞・中村京子・三上ルカ・ジャンク斉藤・西条承太郎・ラッキイ鈴木・ダーティー工藤・ブラボー川上・大橋竜太郎・藤木TDC・松隈健・サトウトシキ・平賀勘一・山本竜二)。出演者中、ジャンク斉藤がポスターにはジャンク斎藤で、ダーティー工藤からサトウトシキまでは本篇クレジットのみ。公開題の、煽情的な単語を適当に繋げた結果、却つて何もかも喪失してしまふニュートラルさが清々しい。
 タイトル開巻、そのまゝクレジット起動。社名に“映画”がつかない方の新東宝が昭和三十年代に狂ひ咲かせた、エログロ映画のポスターでタイトルバックをおどろおどろしく飾る。その毒々しい絵巻で、この映画のコンセプトはほゞ完成してゐる感もそこはかとなく漂ふ。本篇蛇足かよ、せめて惰走といへ。閑話休題、いゝ機会にザックリ振り返ると、オーピーの正確には親会社たる、大蔵映画(ex.富士映画/昭和37年設立)を興した大蔵貢が旧・新東宝(昭和36年倒産)を事実上潰したのち、関西の残党が旗揚げしたのが、細々と現存する新東宝映画(昭和39年に社名変更)の前身、新東宝興業(昭和36年設立)といふ沿革。
 ど頭にスーパーで片付けもとい掲げられる、“帝都の一角に出現した東洋の魔窟”こと“女体渦巻地帯”。雰囲気的には昭和中期の港湾都市、女レスリングのショーが売り物のキャバレー「カスパ」。まづマダムの星影銀子(風見)が、妖艶な踊りを披露する。全盛期を思はせる風見怜香の、パキッとした美貌のみならず、正しくグラマラスな肢体はやゝもすると抜けかねない、劇中世界の底を柔肌一枚繋ぎ止める命綱。店に顔を出した銀子の情夫で、周囲からはボスと呼ばれるカスパの経営者・蛇沼耀一(平賀)を、手下のテツ(西条)とラッキイ鈴木が出迎へる。こゝで西条承太郎といふのは二村ヒトシが男優部時代に使つてゐた名義で、ラッキイ鈴木を適当に譬へると、禿げた中根徹、あるいはうじきつよし。
 配役残り、主人公残すのかよ。水鳥川彩は「カスパ」の新人レスラー・赤城マリ、銛を得物に海女造形。中村京子がこちらははじめ人間造形の、マリの対戦相手・モガンボお千代。伊藤舞はマリと仲良くなる、三ヶ月パイセンの歌川鈴子。そして山本竜二の一役目は、二人の楽屋に何時も通りのメソッドでワチャワチャ闖入する、呆けた雑用係その名もアラカンさん。ところが強い衝撃を加へられるや、アラカンさんは明治天皇にフォームチェンジ、何て自由な映画なんだ。三上ルカは、鈴子と女相撲を取るネームレスレスラー。二人の取組中「カスパ」に現れる、山本竜二の三役目はペン回し感覚で自動式拳銃を回転させるマドロス・ハリケーンの政。どうスッ転んでも山本竜二が小林旭には見えないけれど、一応もしくは無理矢理、ギターを持つた渡り鳥的なキャラクター。それをいふてはアラカンにも見えないが、そこは親族特権―ないし免責―といふ奴だ。ジャンク斉藤は大物の取引を蛇沼に持ちかける、謎の東洋人密輸業者・玄海竜。平賀勘一の戯画的な悪党ぶりと、ジャンク斉藤の絶妙な胡散臭さ。羽目の外し具合が上手いことハマッたのか、この二人の2ショットが見た覚えのない強度で画になる。風見怜香同様、とかく不安定な一作の安全装置として機能する。玄海竜のアジトにて、テツに撃たれて死ぬ照明助手は、林信一のヒムセルフ?そしてまんま多羅尾伴内式に、ハリケーンの政からアラカンさん、明治天皇と三段変身の末行き着く山本竜二の四役目が、正直正体不明の鞍馬天狗。この際いはずもがなながら触れておくと、明治天皇にせよ鞍馬天狗にせよ山本竜二の叔父で、アラカンの愛称で親しまれた嵐寛寿郎の当たり役。といふか、山本竜二が嵐寛寿郎の甥である以外に、アラカンさんとハリ政はまだしも、この物語に明治天皇や鞍馬天狗が出て来る意味なり理由は特にも何も全くない。忘れてた、本クレのみ隊は「カスパ」の客その他、蛇沼と玄海竜それぞれの配下、第三世界のバイヤー等々。カスパの客席に、女が一人ゐるのは誰なのか本当に謎。
 五十音順に上野俊哉・サトウトシキとのオムニバス作「ザッツ変態テインメント 異常SEX大全集」(1991)を経ての、中野貴雄単独第一回監督作品。何時の間にか、あの中野貴雄が―どの中野貴雄だ―ウルトラシリーズでメインライター格を務めてゐる、何気に界隈トップ級の大出世を窺ふに。全体中野貴雄と、恐らく資質的にはより優れてゐた筈と思しき、友松直之は何処で差がついたのか。明後日か一昨日な感慨が、脊髄で折り返して胸を過(よぎ)るきのふけふ。放り投げるだけ放り投げてみた与太はさて措き、第五回ピンク大賞に於ける三人連名での新人監督賞受賞は兎も角、“1996年度リール国際トラッシュ映画祭グランプリ受賞作品”である旨、新版ポスターでは賑々しく謳はれる。と、はいへ。さりげなく疑問なのが、件のリール国際トラッシュ映画祭。試しにググッてみたところで出て来るのは今作と、「恋はシリアルキラー」(1994)のフライヤー画像くらゐしか見当たらない。掴み処を欠いたミステリーの真相や、果たして如何に。
 暗黒街を彩る、女達の死闘。潜伏したアンダーカバー、ソビエトから流出した核弾頭。威勢よくオッ広げてはみせた大風呂敷を、満足に畳む気なんぞどうせ端からない風情は、茶を濁し続けるメタ的な小ネタと、木に竹を接ぎ続ける山本竜二の四変化で白状してゐるも同然。マリが出し抜けに平塚らいてうを持ち出す真意は、流石に測りかねるものの。尤も、一見チンケな活劇をへべれけに垂れ流してゐるかに見せ、実際その通りにほかならない気もしつつ、案外さうでなくもない。とりあへず考証的に配慮したのか、キャットファイトの用語は使はれない女の裸的には疑似百合を除き、ビリング頭は拘束された状態で犯される平勘と、締めの山竜。二番手は当然平勘、三番手は藪から棒も厭はずカット跨ぎで檻の中、二村ヒトシに競り落とされてゐる。三本柱には各々男女の絡みが設けられる上、女同士の取つ組み合ひに関しても、主演女優は四番手と戦はされる三番手に、女優部ラスボスの二番手と激突する三戦。三番手は五番手とビリング頭の二戦に、二番手はビリング頭と、コンタクト程度の初戦を半分に扱ふと計1.5戦。ビリング頭が下位を優先する点まで含め実は完璧な濡れ場の配分に加へ、テツに凌辱された鈴子をマリが鼓舞する流れで、共闘関係が成立する地味に堅実な展開。裸映画として全体の構成は、思ひのほかしつかりしてゐる。さうは、いふてもだな。児戯じみた争奪戦と、コント以下―何せ片方は鞍馬天狗―の起爆解除サスペンスが大人の娯楽映画、のしかも佳境には些かどころでなく割と全力でキツいものもある。いつそ思ひ切つて、DEAD OR ALIVEなオチでボガーンと振り逃げてみせれば。作家性未満の他愛ない趣味性が、観客を呆然とさせるか奈落に突き落とす、抜ける抜けない以前に元々底なしの虚無に、グルッと一周してゐたかも知れないものを。

 何れにしても、それともそもそも。天皇だ原爆だ、斯くもセンシティブ且つキナ臭い題材を、無造作にブン回す映画が小屋で普通に上映されてゐる状況こそ、ある意味一番興が深いともいへようか。だから「ハレ君」も、シレッと封切つてのける訳には行かなかつたのかだなどと、この期に及んで性懲りもなくか往生際の悪く、ジャンクされた映画の尺を数へてみたり。


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