真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ザッツ変態テインメント 異常SEX大全集」(1991/製作:アウトキャストプロデュース/配給:新東宝映画/第1話脚本監督・ストリートドレイ《1話》・タイトル作成:中野貴雄/第2話脚本監督・走る男《3話》:上野俊哉/第3話脚本・監督、見合ひ写真の男《1話》:サトウトシキ/監修:サトウトシキ/企画:田中岩夫/プロデューサー・父親《1話》:岩田治樹/撮影監督・ダンボールをひきずる男《3話》:西川卓はPUNKなオヤジ/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/助監督&踊る男《3話》:森田高之/音楽:ISAO YAMADA/演出助手:荒川栄二/撮影助手:福島佳紀・米山浩吉/現像:東映化学工業/録音スタヂオ:銀座サウンド/ソウニュウ曲:THE NEWS 『DO!DO!DO!DO!DO!』より『ドラム・ダンシィズ』作詞・作曲:内山朋子/協力:チキンシャック《福生》・桜花子 まりの声《2話》・スノビッシュプロダクツ・ラッシュ・辻オプチカル・ニューハーフレディ《五反田》3495 6529・エリザベス神田店・勝山茂雄・ジュネ女王様にぶつとばされた通行人の方/第1話出演:小川真実・ジュネ女王さま・藤木TDC・ブラボー川上・佐々木正則《UHB》・仁村仁/SPECIAL THANKS:GOLDMAN/第2話:秋山まり子・牧村耕治/第3話:ニューハーフ絵美・石井基正・中根徹・山科薫・プレジャー後藤・勝山茂雄・三上ルカ)。jmdbが石井基正を石井徹と記載してゐるのは、中根徹に引き摺られたにさうゐない。
 多分新宿公園ら辺、他に名前の残らない三上ルカが下手糞にクシュンとして、「今年の花粉症何か酷いんぢやない?」。その後方では黒い功夫服の中根徹がチャチい套路を適当に披露し、カメラが進むその先には寝てるのか死んでるのかどうでもいゝ勝山茂雄が横たはり、上野俊哉が、何を叫んだのか判らない凄い速さで駆け抜けて行く。手前で西川卓!がウダウダするタギング塗れの段ボールの中では、金髪ソバージュのウィッグを被つた途轍もないオカマ(山科)が、カメラが中を覗き込むと逃げる男(不明)の尺八を吹き、二千円取り損ねる。小汚いアバンに二分回して、矢張り段ボールに描き散らかしたタイトル・インと、黒板書きの第1話タイトル「百人町風呂なし5.2万」。
 サトウトシキ前作に引き続き登場のライブハウス「チキンシャック」にて、キャットファイトを見せる真実ならぬ小川マナミ(ほぼハーセルフ)とジュネ(ハーセルフ)は、私生活では同棲する仲。父親の吾一(岩田治樹)から見合写真(サトウトシキ)の入つた手紙の届いたマナミは、何時までも続かない生活に終止符を打つ腹を固める。配役残り何とか辿り着けるのは、ボックス席リーマン三人連れの一番手前で、店員に金を渡す藤木TDC。軽く薄く安くおまけに詰まらなく喚き倒して、初篇から映画に止めを刺す糞MCは全体誰なんだ。中野貴雄を往来で調教する、ジュネ女王様が放つインテリジェントな名台詞が、自ら犬を卑称する中野貴雄に対し「お前なんか哺乳類名乗る資格あると思つてんのか」、畳みかけて「無脊椎動物で沢山だよ」。こゝは激しく面白かつた、こゝだけは。
 第2話「1991.4.8 彼女は半年ぶりに、彼に会つた」。息を吐くやうに女の頬を張る中島(牧村)に半年ぶりで買はれたコールガールのまり(秋山まり子/桜花子のアテレコ)は、更にその一年後偶然中島と再会する。
 第3話「趣味」、晃生(石井)は女の家に忍び込み、女装したまではいゝものの、サイズの合ふ靴まではなく外に出られず一旦途方に暮れる。帰宅した絵美(ハーセルフだかヒムセルフ)はニューハーフで、晃生の“趣味”に理解を示す。誰を指すのかが不明なプレジャー後藤をさて措くと、三上ルカを除く第2話は素通りしたアバン隊が、晃生・絵美とは殆ど全く関り合はない程度の再登場を勝手に果たす。
 一応中野貴雄の映画デビュー作ともいへ、この時アウトキャストが何をしたかつたのか全く以て理解に苦しむオムニバス作。兎にも角にも、全篇通して1mmほどしか面白くも何ともないのがグルッと一周して凄まじい。ガチのマジで救ひやうもなく完膚なきまでに酷い、純然たる積つたまゝの塵。「どんな映画にも、何処かひとつチャーミングなところがある」とは淀川長治が遺した、これまで映画に関して星の数より多く語られて来た中、個人的に最も好きな至言ではあれ、流石に今作から何某かよかつたの欠片を探し出すのは、当サイトの甚だ未熟なポリアニズムには些かならず難い。
 小川真実に勝るとも劣らないどころか、明確に凌駕する超絶巨乳のジュネ女王様をも擁してゐながら、第1話は兎に角ゴミMCに爆砕されるチキンシャックのパートが木端微塵で凡そ映画の体を成してゐない、35mmフィルムの無駄遣ひ。第2話は雰囲気ばかり勿体ぶつて、徒に難渋な牧村耕治が女に平手を呉れ―ては髪をかきあげ―るばかり。尤も、頬を張られる女に琴線を激弾きされる御仁にとつては、却つて純度の高い至福たり得るのか。上野俊哉が、さういふフェティッシュに脇目も振らず突つ込む真似をするのかどうかは知らないが。まともな女さへ出て来ない第3話も第3話で、異常なクオリティを爆裂させる石井基正の女装と、最終的にくたびれたのかもしかするとシンプルに酔つ払つたのか、所作もへつたくれもなく見るからぐでんぐでんにグダる西川卓くらゐしか見所らしい見所も見当たらない。百合×サディズム×薔薇.feat.女装といつた、異常SEX大全集は単純な羅列に止まり迫力にも踏み込みにも欠き、マナミとジュネ、まりと中島に、絵美と晃生。第3話ラストでは三組を形だけ交錯させてみせるにせよ、所詮は木に接いだ竹。闇雲に走り抜ける上野俊哉が、所詮上澄みほどもない全てをカッ浚つて行く。少なくとも政治的と経済的には三十年をドブに捨てた、今なほ潮目の変る気配すら窺へない。平成の悪夢の方がまだマシな現実の絶望をよしんば予感してゐたものだとするならば、何某かの卓見とも思へつつ、こちらもサトウトシキ前作を踏襲する、現都庁舎竣工直後の新宿に向けられた敵意に近い違和感は、匂はせるのが関の山の、精々二三本毛を生やした気分に止(とど)まる。


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