真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「お葬式の義母 トイレで情事」(2007/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:亀井戸粋人/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/助監督:金沢勇大/監督助手:古館勝彦/撮影助手:松宮学/応援:中川大資/音楽:山口貴子/出演:樹翔子・しのざきさとみ・青山えりな・小林節彦・那波隆史・久保田泰也)。
 引越し間際なのか、箱詰めの荷物が未だ片付かない室内。「俺も二十歳だから、そろそろ義母さんとしたいんだよ!」と無茶苦茶な方便で言ひ寄る義理の息子・広矢(久保田)に対し、有賀素子(樹)は手洗ひの個室へと逃げ込む。そこに父・朗(那波)が帰宅。経営する会社の資金繰りに苦しむ朗はバイト代を当て込み広矢にすら無心し、一蹴される。そんな折、素子の実家より電話がかゝつて来る。矢張り借金に苦しむ素子の父・良夫(小林節彦、遺影のみ登場)が、自殺したといふのだ。朗は臆面もなく、良夫の保険金も当てにする。実家に向かふ素子と朗は、良夫の弟・牧夫の娘・エミ(青山)と一緒になる。父親のことを悪し様にいふエミに対し、「どんな親でも、死なれたら寂しいものよ」と素子が諭すと、エミは冷然といひ放つ「ふうん、鬼畜でも」。このカットは青山えりなの強度で決然と締められるのだが、以降映画がその硬質を取り戻すことはない。
 素子の実家・石川家。参列者(二名登場、スタッフの何れかか)が口にする良夫の悪い噂にいたゝまれなくなつた素子の母・富江(しのざき)が、亡夫の遺影を手にトイレに逃げ込まうとしたところへ、牧夫登場。色眼鏡を掛けてはゐるものの堂々と小林節彦の二役である、双子かよ。牧夫は良夫の生前から、富江とは関係を持つてゐた。素子到着、すると今度は牧夫は素子に、良夫の古い日記を見せる。良夫が会社を興した際、富江は取引先の人間複数と関係を持つ。実は自分の娘ではない素子に、良夫は許されない欲望を抱いてゐた。両親の暗い過去に衝撃を受ける素子に対し、牧夫は「俺が兄貴の想ひを遂げてやる」と襲ひかかる。正しく、実の娘に鬼畜と罵られる所以である。
 といふ訳で、未亡人である富江×亡夫実弟の牧夫、素子×この場合は叔父に当たる牧夫、遅れて来た広矢×広矢とは幼馴染のエミ、朗×この場合は義母に当たる富江。そして、勢ひに乗り終に突入する素子×広矢。五つの組み合はせの多彩な濡れ場が、葬式中の筈の一家を舞台に怒涛の勢ひで繰り広げられる。素子と朗の、劇中殆ど唯一関係性としては順当な濡れ場は、冒頭父死去の報せに触れ葬式の支度をする途中で消化済み。諸々の欲望と複雑な愛想とが力強く錯綜する濡れ場濡れ場のつるべ撃ちは、正しく“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦十八番の暗黒喜劇、といひたいところではあるのだが。さうともいひ切れずどうにも弱いのは、二度死にかける牧夫の扱ひに明確に表れる、お話の畳み処が必ずしも判然としない点。更に大きいのは、キャスト中に開いた大穴。しのざきさとみと小林節彦は最強に磐石。一見不幸な寡婦を演じつつ、最終的には逞しい女の性をも表現するしのざきさとみ、憎々しい邪欲の権化を貫禄の馬力で体現する小林節彦、何れも文句のつけどころがない。青山えりなの役はもう少し大きくても良かつたやうな気がしないでもないが、持ち前の、メリハリの中で得意な方の“ハリ”で物語のポイントを締め、適宜にアクセントをばら撒く。久保田泰也のところは他の可能性もないとはいへないが、まあこんなものとしても。主演の筈の樹翔子と、夫役の那波隆史にどうにもかうにも厳しさが際立つ。樹翔子はお芝居の方はある程度まではカバーが効く―後述する―とはいへ、容姿が首から下は兎も角、兎にも角にも上が苦しい。悪役専門の某俳優にソックリなのだが、どうしても名前が出て来ないのが口惜しい。要するにオバサンですらなく、オッサンの顔である、しかも人相の悪い。那波隆史に関しては、濡れ場濡れ場のつるべ撃ちの中で、牧夫との関係をダシに義父の保険金目当てに言ひ寄る朗と、富江の絡みが起承転結でいふと転部の要所を担ふ、展開上最重要な絡みと思しきところなのだが、そこでの突進力不足が大きく響く。お話を強引に畳む段に入つても、ただでさへガチャガチャとしたコメディの中で、別の意味で綺麗に上滑りしてしまふ様も興醒めする。タイトルを律儀に回収する節度は買へるものの、連戦連勝を誇る松岡邦彦&今西守コンビにしては初黒星、とまでいふのは酷やも知れぬが、何れにせよ、期待出来る範囲の完成度を具へてゐるとはいひ難い。

 素子宅と富江宅とは、それなりに(?)撮り分けられた同じ一軒家を用ゐて撮影されてゐるのだが。どうでもいいが調度品、といふか要は動産の数々に、差押へられた旨を示す赤い札々が貼られてある。一体どんな物件で映画を撮影したといふのか。
 樹翔子のアフレコは持田さつきがアテてゐることは、実際に映画を観てゐれば特徴ある声で容易に看て取れる。聞こえて来る台詞と、樹翔子の口の動きとが平然と合致しないカットも文字通り散見される。ものの、クレジットその他公式にはその旨を明示した記載はとりあへず見当たらないのだが、シネロマン池袋のWEB上番組表にのみ、何故だかそのことが書き添へてある。


コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (鬱メイト)
2008-05-20 18:55:37
新作の「中川准教授の淫びな日々」が良かったので、ちょっと松岡監督に注目してます。

那波の「生きてる奴の方を優先(要約)」ってのは笑っちゃいました。
青山エリナも親父を嫌ってるくせに、やる事はしっかりやってるしなあ。

それだけにヒロインと義理の息子が弱いのが残念ですねえ。

黒星でこれだけ面白いのだから、他の旧作も期待してます。
 
 
 
Re:Unknown (ドロップアウト@管理人)
2008-05-20 21:08:02
 鬱メイト様コメント有難う御座います。

>新作の「中川准教授の淫びな日々」が良かったので、ちょっと松岡監督に注目してます

 以前から独特のエグ味に惹かれて追ひかけてゐたのですが、
 個人的には「有頂天ラブホテル」が決定的でした。
 グランド・ホテルのど真ん中を正攻法で驀進する、弩級の娯楽映画です。
 「ノーパンパンスト痴女」もお薦めです。クライマックスのグルーヴ感は圧巻!

 「中川准教授の淫びな日々」もこちらではまだまだ
 当分先になりさうですが、早く観たいものです。
 ところで、何でだかウィキペディアに「中川准教授~」の項目がある。誰が入れたんだろ?
 
 
 
Unknown (鬱メイト)
2008-05-20 21:17:16
すぐに返事が返ってくるとは。ありがtぷございます。

なかなかピンク映画の情報が入手できないため、このサイトをよく利用させてもらっています。これからもよろしくお願い致します。
 
 
 
いえいえこちらこそ (ドロップアウト@管理人)
2008-05-20 21:54:37
>なかなかピンク映画の情報が入手できないため、このサイトをよく利用させてもらっています

 いやはや恐縮です><
 新作は呆れるくらゐ遅れもしますが、これからも頑強に虚空を撃ち続けます。
 ヨロシクで、お願ひ致します@(内田)裕也文体
 
 
 
久保田泰也さんの (キネマ怪人カマニア)
2012-05-18 20:46:05
ピンク映画デビュー作だったんですね。
 
 
 
>久保田泰也さんの (ドロップアウト@管理人)
2012-05-18 23:19:14
 ああ、でしたかねえ。
 
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