真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「罰当たり親子 義父も娘も下品で結構。」(2011/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:亀井戸粋人/撮影・照明:村石直人/編集:酒井正次/助監督:江尻大/監督助手:布施直輔・松林淳/撮影助手:橋本彩子・武井隆太郎・小川健太・三輪亮達/選曲:梅沢身知子/応援:関谷和樹・北川帯寛/出演:舞野まや・若林美保・酒井あずさ・柳東史・真田幹也・津田篤・サーモン鮭山・小林節彦)。
 開口もとい開巻一番のモノローグは、「物事の始めは何時でもいい加減」。厳密には口を滑らせたともいへるのか、ツイッター上で自ら半分明らかにした、主演女優は佐倉萌のアテレコ。聞き分けるメソッドを依然手中に出来てはゐないが、佐倉萌は、他人の声をアテる仕事が実は結構多いらしい。古い話にもなるが、小林悟作で何かとアテレコを相当数務めた―「性犯罪ファイル 闇で泣く女たち」(2001)では、若林美保の別名義である小室優奈の声を佐倉萌がアテてゐる―割には、終に素の出演者として呼ばれることはなかつたと、御本人様より伺つたことがある。話を戻して、「浮気が止められないママ」と、「浮気されないと我慢出来ないパパ」の物語であることが、ひとまづ宣言される。
 十八になる一人娘・優里(舞野)が一応不安げに―直截にいふと、心許ない表情は常に所在ないばかり―見やる中、初老の父・黒田卓(柳)はポップに打ちひしがれる。美しい妻・真矢(酒井)が、インフルエンザで急死したのだ。遺物の携帯電話が鳴る気配に、雑多な、といふかより正確には多宗派の宗教画が入り乱れる真矢の部屋に入り、バージョンまでは見抜けぬがiPhoneを手に取つた黒田は愕然とする。かゝつて来た電話の主は、真矢の死を知らないことは無理からぬとしても、かなりの深さとエグさの、肉体関係を持つと思しき男(何者の声であるのかは不明)であつた。慌てて着信履歴を確認した黒田は、火に油を注いだ衝撃を受ける。真矢には“奴隷”と登録する不倫相手が、少なくとも九人も居た。黒田は、優里が生まれる直前、湾岸戦争開戦当時の過去を想起する。地方と国家の別は明示されないが、地方で公務員の職に就く黒田の役所に、キャリア組の村上隆敏(真田)が赴任する。自宅での夕食に招いた村上に真矢が明確な性的関心を持つたことに、迂闊な黒田は不自然なまでに全く気がつかなかつた。早速にもほどがあるその夜、しかも傍らには酔ひ潰れた黒田が寝呆けるといふのに村上を要は喰つた真矢は、以降も恣に逢瀬を重ねた末、優里を妊娠する。藪から棒的に敬虔なクリスチャンであつた真矢は、奔放などとポジティブな用語では最早片付かぬ自身の色情症を、天賦の聖母性であると当人は本気で認識してゐた、随分も通り越して箆棒な方便ではある。ところで村上の現況はといふと、現在の役職は四十台の若さにして東京都行政局局長―実際には東京都には行政局なる部局は存在せず、総務局以下の各事業所に細分される―にまで登り詰めたものの、ある意味因果応報ともいふべきか、職務の多忙も兎も角前妻の上司との不貞から精神に不調を来たし、医師(小林)によるカウンセリングと投薬の治療を受けてゐた。真矢との結婚生活の全てが信じられなくなつた卓は、優里が自分の娘であることにも激越な猜疑を抱く。時期的にも辻褄の合ふ、村上が優里の父親なのではないかと薮蛇な目星をつけた黒田は、事の真偽を明らかにせんと優里を強制的に伴なひ上京する。一方で、母親を反面教師に未だ処女も守つてゐた優里は、実は生前の真矢から自分の本当の父親について聞かされてゐた。娘をプラザホテルの3211号室に半ば軟禁し村上の下に向かつた黒田に対して、優里は連絡を試みた真父親氏の留守番電話に位置情報を残し、会ひに来て呉れることを求める。
 撮らせなかつたのか撮れなかつたものかは兎も角、新版畑では今なほ圧倒的な小屋の番線占拠率を誇りもする新田栄の名前すら終に消えた、新作製作本数僅か四本の2010年エクセスは、かといつて少数精鋭といふ訳にも必ずしも行かず、山内大輔が三年ぶりの本篇帰還作「色恋沙汰貞子の冒険 私の愛した性具たちよ…」(主演:北谷静香)で一人気を吐いたに止(とど)まつた。その唯一人の気の吐きぶりが、凄まじいといへば確かに満更でもないのだが。因みに明けた本年も、ゴールデン・ウィークの今作とお盆に工藤雅典がもう一本公開されたのみで、正月映画に撃ち込んで来る弾の気配は、地方在住の情弱ピンクスには今のところ感じられない。さういふ状況下にあつて、エクセスとの一蓮托生スメルを強く感じさせた「義母と郵便配達人 ‐禁欲‐」(主演:佐々木麻由子)に続く松岡邦彦最新作は、前作の傾向に引き続かなくともよいのに更に加速させてしまつたかのやうな、力ないのも通り越し、最早ちんぷんかんぷんに覚束ないちぐはぐな一作。今村昌平が重喜劇であるならば、暗黒喜劇とでもいふべき、人間性の邪なるダークサイドを見据ゑた上でのグルーヴ感溢れる悲喜こもごもといふのが、かつての松岡邦彦の持ち味だつたのではないか。ところが今回はといふと、共に箍の外れた、妻の淫蕩とその死後に夫が拗らせる正しく疑心暗鬼。娘の男親に関する疑惑と、疑はれた男の人格乖離。諸々バラ撒かれた物騒なモチーフは、何れも非感動的に消化不足であれば当然の帰結として、全体的な求心力ないしは訴求力にも全然欠く。以降の上面をなぞつてみると、黒田の襲撃に近い、といふかそのものの来訪を受けた村上は、自爆気味の間抜けさにも乗じ撃退。返す刀で自らの娘ではないかといふ思ひを逆に強く持つ、優里を訪ねる。そこから、初物である以上最初であることはいふまでもないとして同時に最後でもある、舞野まやの絡み―他にシャワーを一度浴びる―を通過後の、バタバタと二人死んでサーモン鮭山がチョイと顔を見せる粗雑なクライマックスを経ての、若林美保のアグレッシブな裸だけは潤沢なラスト・シーンに際しては、役を作つたのか従来知る細身マッシブからマッシブのみ抜いた、柳東史の痩躯ばかりが印象に残る。これは、純然たる偶さかな個人的感触に過ぎないのかも知れないが、畳むどころか風呂敷が拡げ終つてさへゐない内に構はずエンド・クレジットが訪れた瞬間には、逆の意味で衝撃的な物足りなさもあつてか、尺が未だ四十分前後ではないのかと誤認し呆気にとられた。同時に、結果的には木に竹も接ぎ損なつたやうにしか思へない、徒な宗教風味がそもそも何処で何の意味があつたのかといふ点に関しても、小生の憚ることもなく貧しい悟性ではある意味画期的に理解出来なかつた。ここで通り過ぎた配役を整理すると、サーモン鮭山は、本来優里にプラザホテルの3211号室に招かれた男・島田郁夫。若林美保は、一年後の黒田の再婚相手・真矢ならぬ摩耶。津田篤は、黒田公認の摩耶間男・木村拓也もとい達也。
 そんなこんなで、空き過ぎた登板間隔に感覚が掴めないのか、二作連続で神通力を失した松岡邦彦のことは一旦さて措くとして、質的にも量的にも酒井あずさを先頭とする女の裸以外で一際目を引いたのは、村上のパーソナリティーが動揺する際に披露される、小林節彦も柳東史も圧倒してみせた真田幹也の思はぬ芝居の強さ。今後の話としては上手く顔が老ければ、この人化けるのでは?但し今作に限定すると、老年には至らぬ中年といふ半端さも禍したのか、「後妻と息子 淫ら尻なぐさめて」(2007/監督:渡邊元嗣)では意外と有効であつた老けメイクは不発。周囲を取り巻くのが小林節彦や柳東史は髪を派手に白くしたこともあり、二十年前と2011年劇中現在時制とで、村上の印象は殆ど変らない。

 作業中に改めて気付いたことだが、タイトルから清々しくへべれけである。罰当たり云々以前に、優里は別にどころか全く下品ではないし、卓も卓で、優里にとつて“義父”といふのとは違ふ―強ひていふならば“偽父”か―ぞ。エクセスだなあ、あるいは、エクセスだもの。


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