真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「少女の微熱 甘酸つぱい匂ひ」(2002『桜井風花 淫乱堕天使』の2005年旧作改題版/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督・脚本:森山茂雄/プロデューサー:池島ゆたか/企画協力:五代暁子/撮影・照明:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:高田宝重・松岡誠/ダンス指導:真央はじめ/協力:小林徹哉、他/出演:桜井風花・河村栞・水原香菜恵・石河剣・山名和俊・千葉誠樹・樹かず・林由美香・神戸顕一・荒木太郎・里見瑤子・若宮弥咲・池島ゆたか、他)。女優の名前が多いので予めお断りしておくと、脱ぐのは普通に、水原香菜恵までの三人のみ。
 大学生―四年?疑問点に関しては後述する―の佐藤勇作(石川)は、そろそろ就職活動も始めないといけない時期ではありながら、これといつた目標も目的も見付けられず、学校にも行つたり行かなかつたりとモラトリアムにプラプラしてゐる。合鍵を渡してある彼女・仁科みゆき(河村)も居るが、今ではもう特段好きだといふ訳でもなく、ただ何となく付き合つてゐるだけだつた。ある夜、勇作は友人の田代(山名)と飲みに行く。田代は酒が過ぎ、すつかり足下も覚束ない。田代をどうにかおとなしく、連れて帰らうと勇作は苦心する。羽目を外しおどけた田代が、少女(桜井)にぶつかり突き飛ばしてしまふ。慌てて少女に駆け寄る勇作は、口が不自由さうな少女の可憐さに、一目で心を奪はれる。何ともない、とボディ・ランゲージで告げ、足早に立ち去らうとする少女を、勇作は目で追ふ。何時の間にか、田代のことなどまるで放たらかしである。遠目に、人を探してゐる風の少女は、ヤクザ者に写真を見せて尋ねてゐる。そのヤクザ者に連れて行かれさうになる少女を、勇作は慌てて追ひ駆ける。も、ヤクザ者・押田務(千葉)に一発でノサれ、結局少女は連れて行かれる。翌々日、就活の足しにでもならぬかと、ボンヤリ新聞を眺めてゐた勇作は仰天する、押田が殺されてゐたのだ。少女のことが改めて心配になつた勇作は、慌てて警察に向かふ。少女は、その夜を押田と過ごしただけで、事件とは全く無関係であつた。身元引受人の俊子(水原)に連れられ出て来た少女に、勇作は再び声をがける。が、面倒事を嫌ふ俊子からは、邪険に突つ撥ねられる。
 他に浜野佐知た荒木太郎、主に今作のプロデューサーを務める池島ゆたかの助監督を経て、森山茂雄のデビュー作は、何時までも少女、といふ齢でもない危なつかしい元少女女未満と、何時までも少年、といふ齢でもない更に輪をかけて心許ない元少年男未満との、ボーイ・ミーツ・ガールものである。
 少女役の桜井風花、今作は兎にも角にも主演女優に尽きる。率直なところ、かなりの線まで善戦しつつも、それでもどんなに青くとも臭くともダサいながらに、それでもそれでも今作が人の心に何かを残すものになつたとしたら、その所以は、殆ど全て桜井風花が持つて来た、とすらいつてしまへるのかも知れない。強度の吃音で、殆ど満足に日常会話もままならぬといふ人物造型。まるで卵の殻から出て来るのが早過ぎた、といつた風すら漂はせる、庇護願望をくすぐられずにはゐられない可憐さ。それでゐて、衣服を一枚脱がせてみるや、全体的にか細い肢体とは不釣合ひに乳房も尻も、十二分に大人の女のそれである。何といふか、何といへばよいのか判らないからそのままに筆を滑らせてしまへば、もう、堪らない。正味な話、一般的な起承転結でいふと転、辺りで映画が終つてしまふ脚本にも殊に、森山茂雄の初陣には至らないところや足らないところが山とあつたとしても、この役に桜井風花を持つて来れた時点で、最早少々どのやうに撮つたとて、とりあへずはどうにか成立し得るやうな思ひすらして来る。
 少女は、東京の人間ではなく、沖縄から出て来てゐたものだつた。祖母と母親との三人暮らしの少女は母の死後、母からは死んだと聞かされてゐた父親が、実は今でも生きてゐることを祖母に知らされる。少女は、東京に住むらしい父親を探しに上京して来てゐたのだ。郷里で隣に住んでゐた、俊子の下に厄介になるものの、俊子には森田(樹)といふ同居人が居た。美しい少女に森田も関心を持ち始める、何時までも置いてはおけない。少女は俊子の家から、半ば追ひ出されるかのやうに出て行かなくてはならなくなる。探偵・江戸(荒木)を尋ねた少女は、人探しの料金の思ひのほかの高さに驚かされる。アルバイトを探さうにも、言葉は不自由で、住む場所も持たない少女を雇つて呉れるところなど無い。そこで少女は街頭で踊り、金を集めようとする。
 何はともあれ今作の映画としてのピークは、この、街頭で桜井風花が日銭稼ぎにダンスをするシーン。最短距離で、青く、臭く、ダサい。だが然し、その上でなほ、決然と美しい 。何度観ても、ダンス―ダンス指導:真央はじめ―を踊り始めるところまでは映画を観てゐるだけで無性に恥づかしくなつて来るのが禁じ難く、どうにも座席の上でモジモジと、黙つて座つて観てゐられなくすらなるのだが、一度(ひとたび)桜井風花が踊り始めた途端、ハッと思はず息を呑む。心を撃ち抜かれる。劇伴も綺麗に親和し、少女の儚くも真摯な美しさが、束の間とはいへ、銀幕に永遠の支配を刻み込む。青からうと、臭からうと、ダサからうと、臆することなく森山茂雄はここぞと演出のギアを目一杯前に押し入れる。そこが素晴らしい、何遍観ても素晴らしい。青臭い愚直さがピリオドの向かう側に到達する、如何にもいい意味でのデビュー作らしいデビュー作である。

 林由美香と神戸顕一は刑事。林由美香は、少女の調書を取る女性刑事。調書を取り辛い少女に業を煮やし、戯れに漂はせる指先の演技が地味に光る。神戸顕一は、少女が取調べを受ける警察署の門番、どう呼称したらいいのか判らない。里見瑤子と若宮弥咲、更に他、は勇作同級生の皆さん。勇作が少女と一夜を過ごした次の朝、不意にみゆきが合鍵を使つて部屋に現れる。みゆきは愕然とする。「矢張り、かういふことだつたんだ・・・」、「何よ、それならさうと―他に好きな女が出来た、と―いつて呉れたら良かつたぢやない!」と、みゆきは勇作を詰る。すると何処から何処まで、徹頭徹尾いい加減な勇作は、「何だよ、さういふ義務があるのかよ」(幾ら何でもそれはないだらう・・・>森山茂雄)。「バカ!」、と部屋を飛び出したみゆきは、実はみゆきに想ひを寄せる田代を肴に、ヤケ酒をあふる。池島ゆたかは、居酒屋でのみゆきと田代の背後で、興味ありげに二人を何度も振り返つては不自然に見切れる他の客。
 言葉の不自由な少女に、勇作は庇護願望をくすぐられる。そんな勇作に、少女はたどたどしくも何度も繰り返す。「あ・・・あなたは、・・・な、何も・・・判つて、ない・・」。勇作には少女の言葉を理解出来ない、だが、全く少女のいふ通りなのである。少女には、父親を探すといふ目的があつた。踊りと、そして若く美しい女である、といふ手段もある。だが果たして、勇作には何も無かつた。少女が勇作の前から姿を消した後も、勇作はその少女の言葉を理解せずに、理解せぬままに映画は幕を閉ぢる。脚本の不備と、演出の稚拙、演技力の欠如までもが却つて、勇作といふ登場人物の不全ぶりを補完する感さへ漂ふ。これで勇作がもう少ししつかりしてゐて呉れたなら、最終的には少しでも成長してゐて呉れたならば、どうにも覚束ないまま仕舞ひの映画の足が、少しは地に着いて呉れてゐたやうな気もする。
 ラストは踊る少女の、手の甲を前に高く突き上げた右手を、顔の前にまで畳む動作のスローモーション。ストップモーションがフィニッシュ。大変美しいショットなのだが、続くクレジットが、品もセンスも欠片も無い、頂けないビデオ画面であつたりするのには如何せん興が醒める。

 もう一つ。 少女が俊子の下を去るシーン。トボトボと歩いて行く少女に続いて、通り過ぎて行く勇作と、見送りに出てゐた俊子の目が合ふ。そこで俊子は、「これで少女も―勇作が面倒を見て呉れるので―安心だ♪」とばかりにニンマリとするのだが、それも猛烈におかしくはないか?仕方のないことともいへ、追ひ出すやうな形で送り出した少女を、何処の馬の骨とも判らない男がフラフラ後をつけて行くのである。当然心配する、といふか少女を保護しようとしなくては駄目だらう。

 最後に、勇作の学年もしくは年齢に関して。劇中、少女・まりのにより、勇作はまりのと同い年の二十歳であることが語られる。とはいへ一方、ラストでは勇作の同級生がちらほら内定のひとつふたつも取つたり取らなかつたりしてゐる。勇作が通つてゐるのが短大でなければ、少々ちぐはぐではないか。


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