真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻妊婦の告白 蟷螂(かまきり)の契り」(2007/製作:松岡プロダクション/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:今西守/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:村石直人/照明:鳥越正夫/編集:酒井正次/助監督:小川隆史/監督助手:藤田賢美/撮影助手:橋本彩子/照明助手:越阪部珠生/音楽:山口貴子/出演:伊藤香苗・青山えりな・小川はるみ・小林節彦・サーモン鮭山・本田唯一・吉岡睦雄)。 
 ポルノグラフィーとして、蛙腹の何処に喰ひつけばよいものやら個人的には全く理解出来ぬが、臨月間近の中井朝子(伊藤香苗/里見瑤子のアテレコ)は正真正銘臨月間際の妊婦である。経過は順調なものの、夫・喬(本田)の女性問題が、朝子の唯一の気懸りではあつた。家に遊びに来てゐた妹の篠原夏美(青山)が、何故か喬の出張の予定を知つてゐたことに、朝子は微かな猜疑心を抱く。出張と称した京都のホテルにて睦み合ふ喬と夏美の幻影を、朝子は見る。青山えりなと本田唯一の濡れ場から、そのまゝカメラが引くと居間に一人の朝子、といふカットには正当な衝撃力が溢れてもゐたのだが。
 当サイト2006年ピンク映画ナンバーワンの前作、「ド・有頂天ラブホテル 今夜も、満員御礼」で遂にど真ん中の娯楽映画を堂々モノにした、“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦の2007年は二月初頭に封切られた本作を皮切りに、五月末時点で早くも三作を量産してゐる。尤もその点は、昨年九月公開の「有頂天ラブホテル」から間が開いてゐる点も、考慮に入れなくてはならないのかも知れないが。前作から自らの名前を冠した製作プロダクションを立ち上げ、脚本も「有頂天ラブホテル」の俊英・今西守。いよいよ松岡邦彦が天下取りに乗り出したものかと、俄然大期待して小屋の敷居を跨いだものである。果たして、結論からいふと何時もの松岡邦彦であつた。逆の意味で、とまではいはないが、別の意味で健在。何時もの松岡邦彦の、何時もの無茶振り暗黒映画であつた。
 今作の現象論レベルでの終末兵器は、ガチ妊婦の伊藤香苗。最早何処から手をつけたものか、サイボーグ戦士でいふと004感覚で、あちらこちらに殺傷力の高い飛び道具を満載してゐる。見事に膨らんだ蛙腹以前に見てはならないものを見たやうな気分にさせられるのは、最早乳首も俄かには識別出来ないほどの、チョコレート・ケーキのやうなドス黒い乳輪、大きさも(火暴。首から上は首から上で、ボサボサ頭の、これ、誰に譬へたらいいのかなあ・・・・?よくいへばオバサンになつた、『早春賦』(1987/白夜書房)で一世を風靡した伝説の巨乳ロリータ・五月なみ。直截にいふと、元広島の正田耕三(現阪神打撃コーチ)か。止めを刺すのは、濡れ場にあつても終始素の目が戦慄を覚えさせる恐怖演技。エクセス主演女優を捕まへて、「一体何処からこんな女連れて来たんだ!?」といふのも最早些かならず芸に欠けるやうな気がしないでもないが、流石に松岡邦彦の仕出かすことは破壊力の桁が違ふ。
 吉岡睦雄は、定期検診に朝子が訪れた産婦人科、に忍び込んでゐたコソ泥・宮川京介。朝子の来訪に慌てた京介は咄嗟に医者になりすまし、検診と称して朝子を犯す。何時もの開業医の息子を偽り親爺は死んだだの、女陰に指を挿し込まれ快感に戸惑ふ朝子に対し、「大丈夫ですよ。これは、最新の医学ですから」。岡輝男でもあるまいに、雑な脚本である。今西守といふ人の脚本映画を観るのはこれで二作目でしかないが、このまま期待を預けてゐていいものやら如何なものやら、俄かに不安に駆られて来た。
 サーモン鮭山は、産婦人科を後にフラフラと彷徨ふ朝子が公園で遭遇する、今将に首を吊らんとしてゐた上条明夫。だ、か、ら。朝子に助けられるや否や、横領がバレて云々と自らの境遇をベラベラ喋り始めるお手軽なエクスキューズは何とかならないものか。朝子が臨月間近の妊婦であることを看て取ると驚喜に目を輝かせ、ラブホにて怒涛の幼児プレイに突入する。又この安ホテルでの、ガチ妊婦と赤ちやんサーモンの濡れ場の破壊力。魚を与へられた猫の如く吹き荒れる松岡邦彦節に、ここで覚悟を極める。普通の映画を、求めたら負けだ。上条は救はれたと、お布施として百万(推定)を朝子に残す。小林節彦は、ラブホを後に体調を崩し玄関先で行き倒れてしまつた、朝子を助ける宮川辰夫。妻には逃げられ、かつて経営してゐた町工場も失ひ、何時までもフラフラしてゐる息子の拵へた借金に頭を抱へてゐた。小川はるみは、辰夫がバイトするコンビニの店長・正木サト。辰夫はサトのバター犬扱ひで、サトに命ぜられ上へ下へと奉仕させられる。無理矢理勃たせてサトが上から跨るものの、どうにも使ひ物にならない。苦悶の果てに終に辰夫は叫ぶ、「勃たないんだよ、あんたぢや!」、「何ですつてwwwww!」。松岡邦彦縦横無尽、黒い彗星は更なる加速を見せる。
 疲れ果てた辰夫を、朝子はすき焼きで迎へる。絆される辰夫、二人は結ばれる。消耗時に伊藤香苗、通常人には正に致命傷となりかねないやうにしか思へないのだが。事が済んだタイミングで、放蕩息子が帰宅。何と辰夫の息子とは、京介であつた。とそこに、喬そつくりの借金取り(本田唯一の二役)も登場。チンコを手で隠したままの小林節彦が笑かせる修羅場を後に、朝子は上条から貰つた金を辰夫に託し帰宅する。
 導入部の再現たる、出張から戻つた喬と、何故だか再登場の夏美も交へた、土産の京豆腐を使つた湯豆腐の夕餉。あちらこちらでの波乱万丈の末に再び表面的には穏やかな日常に立ち戻つて来た、朝子のモノローグ「まるで夢みたいだけど、これホントにあつた話なんです」。と、したところで、最終松岡邦彦起動。瀧島弘義の、桃色ニューシネマの傑作たり得たことを拒み投げ放された怪作、「人妻スチュワーデス 制服昇天」(1998)の衝撃すら超える驚愕の結末へと、映画は無理からにもほどがあるハード・ランディングを炸裂させる。ここまでするか松岡邦彦、ここまでして、それでも映画が壊れてしまはない不可思議にこそ、松岡邦彦映画の醍醐味があるといふことなのかも知れないが。

 最早喜べばいいものやらどうなのかよく判らないが、松岡邦彦は少なくとも今作に触れる限り、矢張り松岡邦彦であるらしい。

 以下は再見時の付記< 辰夫がバイトするコンビニにまで、本田唯一の借金取りが取り立てにやつて来る。殆ど持ち合はせもない辰夫に対し、激昂した借金取りは下手糞な関西弁でお定まりの恫喝。「コンクリ詰めにして、東京湾に浮かべたるぞ!」。浮かべてどうするんだ、発泡スチロールかよ。
 再々見時の備忘録< モノローグ後、検診の途中で寝落ちてしまつたところを看護婦(微妙に特定不能、医師は吉岡睦雄)に起こされる


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« ド・有頂天ラ... 馬と後妻と令嬢 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。