真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「飢ゑた痴女 汚らはしい穴」(1993『本番露出狂ひ』の2006年旧作改題版/製作:シネマアイランド/提供:Xces Film/監督:松岡邦彦/脚本:山岡隆資/撮影:村石直人/照明:佐久間優/編集:菊池純一/音楽:村山竜二/助監督:山岡隆資/出演:原田ひかり・高木杏子・渡辺綾伽・小林節彦・ピチリK・伊藤猛)。冒頭、松岡邦彦以下スタッフは、一切の職務の別なく一纏めにクレジットされ、当然目視は振り切られる。よつて今回の記述は、新日本映像(エクセス母体)公式サイトの記載に拠るものである。キャストの中にあるピチリKなる見慣れぬ名前は、さういふ次第で何を担当してゐたものかは不明ながら、スタッフの中に名前のあつた七里圭の変名か?ピチリKでも検索をかけてみたところ、さう考へてまづ間違ひないやうにも思はれる。因みに製作はエクセス公式にはフィルムキッズとあるが、本篇ポスターともシネマアイランドとある、シネマアイランドの方が正解なのであらう。
 トットットットッ、川面を船が走る。赤いコートを着た女のモノローグ、「1993年。一人の女と、三人の男の物語」。“エクセスの黒い彗星”松岡邦彦の、1993年のデビュー作である。恐らく、松岡邦彦作が新版公開されるのは初めての筈ではないか。
 エロ事師の倉持(小林)は、ストリップ嬢のみゆき(原田)や若い四郎(ピチリK)と組み、ダイヤルQ2用のエロテープを作つてゐる。昭和といふ時代の残滓を未だ濃厚に残すロケーションと並び、基本設定が時代を感じさせる。今回新機軸として、みゆきの紹介で調達した風俗嬢を四郎が実際に擬似強姦する、よりハードな内容のテープを録音することとなつた。倉持の根城の、今はもう使はれてゐないらしき小屋―映画館―に現れた女を、四郎は倉持にせかされ犯す。ところがその赤いコートを着た女・マリ(高木)は、間違へてその場に現れただけであつた。倉持は謝罪し誠意を見せようとするが、マリは拒む。どういふ訳でだか行く当てのないマリは、倉持らの周囲をフラフラするやうになる。四郎は何時しか、マリに若い恋心を寄せる。
 全うな市民社会からは、片足はみ出し気味のやさぐれたエロ事師達の前に現れた、赤いコートの可憐な女。ドロップアウトのドロップアウトなりの温もりと、若く不器用な恋模様。一応描きたかつたであらうところは酌めぬではないものの、正直なところ、瑞々しさといへば聞こえもいいが、その実は青さや、気負ひ過ぎた頑なさとまではいはぬが硬さが目立つ。殆ど凝り過ぎのロケーションに、前のめりの気負ひが大いに感じられつつ、その癖に、一方脚本に開いた穴は決して小さくはない。倉持とみゆき、四郎や後述する中島絡みのシーンは少々詰め込み過ぎ気味のところに目を瞑れば悪くはない反面、肝心の、マリに関する描き込みが弱い、あるいは薄い。マリが何処からやつて来て、何故に倉持の周囲に留まり、最終的には倉持に惚れるまでに至るのかがよく判らない。印象的なシーンを幾つも押さへながらも、終には微妙に映画の足が地に着かぬところに、如何にもデビュー作然とした若さも感じられる。街を捨て逃げることを決意した倉持が、普通に出て行けばいいものを便所の壁にある小さな扉を開けて消えて行くところなど、些か狙ひ過ぎ。加へて少なくとも、現在折に触れ破壊的に狂ひ咲く松岡邦彦の暗黒面は、今作に於いては欠片すら窺へない。
 渡辺綾伽は、女の気持ちが判らないと、マリに詰られた四郎がそれならば女の気持ちを知らうと、セーラ服を着て犯されようと呼んだヘルス嬢・リカ。伝はつてゐないかも知れないので重ねて注釈すると、この際、セーラ服を着てゐるのは四郎である。一度きりの出番の濡れ場要員とはいへ、なかなかに手慣れた芝居で更に後のシーンに繋ぐ。伊藤猛は、みゆきの昔の男で、現在は倉持らのクライアントでもある中島。仕事と私情の別を説く一方で、内心みゆきを奪つた倉持に対し、忸怩たる思ひを抱く。小林節彦も確かに若いことは若いのだが、伊藤猛は更に、恐ろしく若い、今とは顔が違ふ。
 何れ菖蒲か杜若、原田ひかりと高木杏子は、どちらも首から上も下も抜群のズバ抜けた美しさを誇るのだが。その割に、村石直人のカメラは引いた画が多過ぎる。ロング・ショットでカッコいい画を押さへるのもいいとして、特に高木杏子の内に秘めたものの豊かさと強さとを感じさせる表情は、おとなしくアップで捉へた方が、順当な映画的エモーションへの確実な最短距離であつたらうにと思へる。美人女優は時に、優れた脚本にも必殺の演出にも勝る、映画のリーサル・ウェポンである筈だ。倉持に抱かれるみゆきを、マリが座して見詰めるシーンの、マリの穏やかでありつつも何とも形容のし難い内情を感じさせる表情などは超絶的に素晴らしく、この表情を、もつと全く別の形で活かせなかつたものかとも悔やまれる。

 最後に協力として、計八人の名前が挙がる。井川耕一郎、永井卓爾、広瀬寛巳、黒川幸則、瀬々敬久らの名前があつた。みゆき―源氏名はリンダ―の客や、中島の若い衆らであらうか。中島の若い衆に関しては、拉致したマリ相手に本格的な濡れ場も展開するのだが、素晴らしく祝福された役得ではある。よくよく調べてみると松岡邦彦と瀬々敬久とは、瀬々敬久昭和60年の監督デビュー作「ギャングよ 向うは晴れてゐるか」(16ミリ)の撮影を、松岡邦彦が務めたといふ縁にもある。


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