真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「爛れた関係 猫股のオンナ」(2019/制作:ネクストワン/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:工藤雅典/脚本:橘満八/プロデューサー:秋山兼定/音楽:たつのすけ/撮影:村石直人/照明:小川満/録音・整音:大塚学/VFXスーパーバイザー:竹内英孝/助監督:永井卓爾/撮影助手:加藤育/照明助手:広瀬寛巳/制作応援:小林康雄/演出部応援:天野裕充・渡辺慎司/ポスター:MAYA/スチール:伊藤太・KIMIKO/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/協力:KOMOTO DUCT/出演:並木塔子・竹本泰志・相沢みなみ・長谷川千紗・佐々木麻由子・深澤和明・古本恭一・森羅万象・飯島大介《友情出演》・なかみつせいじ・ヒメ・ココ)。出演者中ヒメとココに、飯島大介のカメオ特記は本篇クレジットのみ。
 謎の単身赴任も五年目の浅倉雄一(竹本)が、田圃端のバス停で分厚いノートを叩いてゐるとスマホが鳴る。ど頭からイズイズム爆裂するスッ惚けた画はどうにかならんのかと苦言を呈したくもならうところではあれ、ここは一旦さて措く。首尾よく契約をまとめて来た浅倉に対する主たる用件は、本社帰還の報。喜び勇んで浅倉がかけた電話に、妻は出ず。“私には、鈴(りん)といふ名の、妻がゐる。”とか、わざわざ勿体つけて打つ意味の疑はしい漠然としたクレジット。開巻早々、工藤雅典が一昨日に絶好調、それは正方向の徴候なのか。ところで浅倉の電話に出もしない当の鈴(並木)はといふと、課長昇進も伝へるライン画面越しに、浅倉とは社の同期である砥部光和(深澤和明/ex.暴威)と見た感じ別に楽しさうでもない逢瀬。轟然と火を噴き、損ねる初戦にもいひたいことは深澤和明の弛緩した体躯から山の如くあるが、それも後に回す、キリがない。兎も角、事後ヘアピン別離を切りだしさつさと一人でタクシーに乗らうとする鈴と、無様か惰弱に食ひ下がる砥部が横断歩道際にて一悶着。どう見ても砥部が鈴を車道側に引き戻さうとしてゐるやうにしか見えない、頓珍漢な修羅場にトラックが突つ込んで来て、外見推定で多分ヒメの方(猫セルフ)にタイトル・イン。あのさ、工藤雅典て監督デビューして何年になるんだつけ。まあ、自問自答すると2019年時点で、二十年なんだけど。
 タイトル明け帰京した浅倉が、雨の中慌てて病院に駆けつける。砥部が無理心中を図つた形に解釈された事件で砥部は無事死亡、一方掠り傷で済んだ鈴は、待合室で浅倉を出迎へた常務の水木(飯島)が三十分前に様子を見に行つたところ、コートとポケットのスマホを残し忽然と姿を消してゐた。スマホのロックも突破出来ず、浅倉は途方に暮れる。
 配役残りビリング順に相沢みなみと佐々木麻由子は、砥部の娘で女子大生の茜と、未亡人なりたてのまなみ。流石に首から上は不用意に寄ると厳しさも感じさせる、佐々木麻由子は浜野佐知のデジエク自身四作目となる第八弾「黒い過去帳 私を責めないで」(2017/原案:山﨑邦紀/脚本:浜野佐知/主演:卯水咲流)以来で、ついでに深澤和明は工藤雅典二作前のデジエク第三弾「連れ込み妻 夫よりも…激しく、淫靡に。」(2014/主演:江波りゅう)ぶり。小屋に遠征する事前予習段階、相沢みなみの名前に、2011年に完全引退した筈の藍山みなみが超電撃大復帰を遂げたのかと度肝を抜かれかけたのは、純然たる極私的な粗忽、齢かいな。閑話休題、目下継戦する気配の窺へない相沢みなみが如何にも今時のゆるふはなギャルギャルした容姿に見せて、会話の間合の最適解にズバンズバン間断なく飛び込み続ける、切れ味鋭いソリッドな台詞回しが何気に出色。長谷川千紗に古本恭一は、新課長―前任は砥部―として浅倉が凱旋した課の今井美和と、美和に岡惚れする菅原。早速の戦果を挙げた本社再初日―に於いても、豪快にイマジナリ線を跨いでみたりする―の帰途、浅倉は鈴そつくりの女が、男とホテル街に消えるのを目撃する。二度目のコンタクトで捕獲した女は、鈴の身体的特徴であつた左太股の三角形を成す黒子がない、要は単なる瓜二つの街娼・和佳奈(当然並木塔子の二役)であつた。なかみつせいじは休日の浅倉が近所に発見した、昼間から開いてゐるバー「HIROSHI」のマスター・岩田。ヒメ同様ココも物理招き猫に「HIROSHI」で飼はれてゐる、もう一匹の猫セルフ、置物でも物理は物理だろ。浅倉の休日に話を戻すと、ハードカバーを裸で持ち歩く、鼻の腐りさうな造形も途切れ知らずのワン・ノブ・ダウツ、工藤雅典は仕出かした映画を撮るのが楽しくて楽しくて仕方ないらしい。止まらんぞ、だからキリがない。再度兎も角、そして最初は茜が所謂パパ活してゐる現場を目撃される、森羅万象は浅倉らが勤務する会社の取引先「三紅商事」の部長・瀧口孝三。なほ、茜にはアパレル会社「タキグチ・テキスタイル」の社長を名乗つてゐる模様。その他院内と社内、二人とも不明の和佳奈顧客、木に竹を接いで浅倉とまなみが密会するレストランに、総勢十五人前後見切れる。ついででレストランもレストラン、演劇の舞台を客席から撮影したライブビューイング感覚で、こんな風にあつらへてみましたとでもいはんばかりに、平板な画角と距離感で一同を抜く間抜けな最初のロングには欠片の覇気も窺へない。
 生え抜き中の生え抜きであるエクセスを離れた、王子亡命自体は衝撃の初上陸作「師匠の女将さん いぢりいぢられ」(2018/共同脚本:橘満八/主演:並木塔子)に続く、工藤雅典大蔵第二作。妻に蒸発された男が、家路となると思ひきり普段の生活圏で、妻と同じ姿形の女と出会ふ。如何にもありがちな導入を経てゐながら、二度目の邂逅で女はあつさり別人確定。蒔いた種が芽吹く暇もなくドラマを摘み取る、破壊的な作劇には明後日なベクトルで吃驚した。全体何をしようとしたのか、全く以て理解に苦しむ。それ以前、あるいは以下に。唯一、もしくは何故か。まるで別人のやうな入念さで始終を十全に撃ち抜く長谷川千紗の休日オフィス戦と、百歩譲つて一応それなりな締めを除けば、吹きかけた尺八を満足に吹かせても貰へない佐々木麻由子を象徴的に、前戯は極めて手短に端折つた上でなほかつ、いざ挿入後も単調に体位を羅列する程度の杜撰な濡れ場は甚だしく不誠実極まりない、国映か。最も酷いのは、画期的にお美しい御々尻をしてゐるにも関らず、瞬間的なイマジンと食はずの据膳とで事済まされる二番手。お芝居には確かに光るサムシングも感じさせつつ、何のために連れて来た。その癖、妙に執拗な手数を費やす割に、総じて他愛ない「HIROSHI」絡みの件を逆向きの筆頭に、決定力不足の情緒ばかり徒に積み重ねる無駄のてんこ盛りには苦笑も凍りつく。女の裸に割く尺に優先するほどの、代物にも特にも何も全く見えず、呆れ果てて屁も出ない。挙句最悪の大問題が、母との内通を察知してゐた茜は、浅倉の急襲を瀧口離脱後に受けた際、迎撃気味に「夫を亡くした傷心の未亡人垂らし込むなんて」と毒づく。するとそれを受けた浅倉が言葉を濁して、「安手のピンク映画ぢやあるまいし」。あの、な。軽く話を戻すと浅倉の本社再初日、美和と菅原は新課長の凱旋を、屋上缶ビールで言祝ぐ。面白くない詰まらないは個々の琴線の張り具合に無理から収斂させるとしてまだしも、冒頭の田圃端バス停ノート同様、満足なロケーションの一つ二つ用立てられなくて何が“安手のピンク映画”なら、こんならの映画が一番安いんぢや。気取つた自虐にせよ、斯くも逆の意味で見事に天に唾吐く映画撮つてゐて、工藤雅典は恥づかしくないのかと傾げた首がヘシ折れるかと思つた、寧ろ観てゐるこつちが赤面する。そもそもクライマックスでは出し抜けに別離と絆をフィーチャーしてみせるにしては、二人に子供はをらず。鈴が仕事を持つてゐる風にも、たとへば本宅同居人を介護してゐる風でもない点に躓くと、浅倉の単身赴任がそもそもなミステリー。ちぐはぐばかりな基本出来損なひの裸映画の隙を突いて、大概な暴投をドカーンと放り込んで来る。ともに外様の工藤雅典が、髙原秀和を猛追する構図は如何なものか、暗澹とする心持ちを抑へきれない一作。それ以上の憎まれ口は、もう叩かない。

 最後にもう一つよく判らないのが、今回何処にVFXを使つてゐたのか誰か俺に教へて呉れ。あと救出した茜を一人で風呂に入らせればいいのに、わざわざシャワーを浴びせかける意味、二つやがな。


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