真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「嫁の寝床 恥知らずな疼き」(2013/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/脚本・監督:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/撮影助手:桑原正祀・矢澤直子/編集助手:鷹野朋子/ポスター:本田あきら/協力:花道プロ・スナックぷあぷあ・新風料理出世・新宿ベルク/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/タイミング:安斎公一/出演:美泉咲《新人》・里見瑤子・姫野未来《新人》・淡島小鞠・伊達由佳里・岡田智宏・久保田泰也・佐々木基子・牧村耕次)。出演者中伊達由佳里は、本篇クレジットのみ。
 ウエディングドレス姿の主演女優に、牧村耕次が顔をよく見せるやう乞ふ。応へた美泉咲が、ニンマリと微笑んでタイトル・イン。絵本作家か、何か文筆業らしき家長・周平(牧村)、長男嫁の紀子(美泉)、呑気なパラサイト無職の次男・和夫(久保田)が表面的には朗らかに暮らす戸田家。一人陰鬱な役所勤めの長男・幸一(岡田)と紀子の不仲に、周平と和夫は気を揉む。三十年来の旧知・百合子(佐々木)に雰囲気のいい店(ぷあぷあか出世の何れかか)を紹介された周平は、その店で亡妻に似た従業員・岸田アヤ(里見)と出会ふ。
 配役残り淡島小鞠(=三上紗恵子)は、周平即ち牧村耕次が修繕してゐた屋根から落ち足を怪我したため慌てて実家に戻りまた直ぐに出て行く、周平の長女・秋子。例によつて連れてゐる子供が、短い間に凄く大きくなつてゐるのには驚いた、生命力の強い御子だ。姫野未来は和夫の、小さくて丸くて変つてゐる彼女・マミ。顔だけパンッパンなので脱ぐと痩せて見える、器用な離れ業を披露する。演劇畑からの動員らしい伊達由佳里は周平が侘びを入れに向かふ、幸一の子供を妊娠したやさぐれ女。美泉咲や姫野未来がさうであるならば、伊達由佳里も少なくとも映画的には新人ではないのか。戸田家に出入りする三河屋と、アヤが勤め、てゐた店の恰幅のいいマスターは不明。
 外堀の中に見所がなくはない、荒木太郎2013年第二作。幸一は伊達由佳里ですらなくアヤと駆け落ちし、就職より先に結婚の決まつた和夫も家を出て行く。にも関らず依然戸田家に留まる紀子に、周平は再婚しての新しい人生を促す。一絡げるところの義父と息子嫁ものにしてはよくある話でもありつつ、逐一はことごとく出し抜けで、ちぐはぐな印象ばかりが残る一作。アヤ登場後カット跨ぐと、いきなり屋根もスッ飛ばし周平が足を怪我した戸田家に、秋子が騒々しく弾丸帰省してゐる。どうしても淡島小鞠を子連れで捻じ込みたいのならば、後にスナップで回想される周平の還暦祝ひで事足りる筈で、紀子の背中を押す周平と百合子の嘘再婚話の出汁にせよ、結果的に尾を引く怪我でもない以上必ずしも不要であらう。序盤の昭和ホームドラマ風の演出は牧村耕次は兎も角、美泉咲と久保田泰也の面子でその選択ないしは戦略は無謀といふほかない。美泉咲が見せる不自然にニッコニコな笑顔は、幸一との不仲を押し隠した偽りの幸福と思へば仮面じみて悪くはないものの、後に自堕落な意味で如何にもピンク映画的な和夫との情交に際しても見せるのは、さうなると不用意。要は美泉咲の、抽斗の数の問題でしかあるまい。結果的に伊達由佳里は何しに出て来たのか判らず、演者の地力と安定感とで丸め込めなくないともいへ、幸一とアヤの絡みは薮からにもほどがある。その画自体は素晴らしい反面、森の中でフルートを練習してゐるかに見えた紀子が、電話が鳴るやサクッと家の―固定―電話に出るのも描写としては大概ストレンジ、戸田家は何処の別荘だ。唯一といふか正確には二つ映画が求心力を取り戻すのは、開巻に連なる紀子の再婚前夜。周平が過去に安住することなく、未来を切り開くことを紀子に説く件は牧村耕次の孤軍奮闘で力を帯び、締めの紀子と周平の濡れ場を、その夜の出来事ではなく一人戸田家に取り残された周平の、イマジンで処理してみせたのは荒木太郎らしからぬ賢慮。接木だらけで覚束ない幹に対し、枝葉は妙に豊かに生ひ茂る。エキセントリックな造形の百合子が、異常に浜野佐知に酷似して見えるのは可笑しくて可笑しくて仕方がない。昨今加齢に伴ひ顔が少し伸びた里見瑤子も、初めて気付いたが浜野佐知の盟友・吉行和子に微かに掠つてゐる。最もシークエンスが輝くのは、古きよき浅草の終焉を嘆く一方周平は、“最後の聖地”と称へる新宿ベルクに紀子を誘ふ。ここでウェイトレス役で飛び込んで来るのが、現代ピンク最強の美人―名女優とはいつてゐない―まさかの愛田奈々!主観風のカメラに何故か驚いた様子を見せる愛田奈々が、そゝくさと奥に入りチョコンとお辞儀する姿は超絶。そのワン・カットだけで、木戸銭の元は十三分に取れる。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 愛欲霊女 潮... 若奥様の生下... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。