真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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東京秘密ホテル けものの戯れ/DMM TV戦
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東京秘密ホテル けものの戯れ
」(昭和51/製作:日活株式会社/監督:藤浦敦/脚本:芦沢俊郎/プロデューサー:樋口弘美/撮影:山崎善弘/照明:高島正博/録音:神保小四郎/美術:渡辺平八郎/編集:鍋島惇/音楽:高田信/助監督:山口友三/色彩計測:野田悌男/現像:東洋現像所/製作担当者:青木勝彦/出演:宮下順子、八城夏子、丘奈保美、井上博一、水乃麻希、五條博、絵沢萠子、織田俊彦、三川裕之、小泉郁之助、飯田紅子、伊豆見英輔、小見山玉樹、影山英俊、谷文太、ロバート・マックレー)。出演者中、ロバート・マックレーは本篇クレジットのみ。
件の“東京秘密ホテル”の外観に、固茹で風味の劇伴を鳴らす。唐突すれすれの、案外淡白なタイトル・イン。男優部の個別的具体性を排した、宮下順子の濡れ場がタイトルバック。
ほてほて歩く和装の宮順を、車が追ひ抜く。「あたしの名前は立花春枝、二十六歳」と、火の玉ストレートな自己紹介モノローグ起動。流石に二十六歳、“なんです”とまではいはんけど。閑話休題、立花書店を夫婦で営む、正確には現状一人で営む妻の春枝(宮下)が、心臓を患ふ夫・良介(五條)を愛誠会総合病院に見舞ふ。尤も五條博が普段通りの健康的な福々しさで、凡そ重病人に見えないのは御愛嬌。兎も角完全に成立した流れで、臥せたまゝの良介に春枝が顔面騎乗。挿しつ挿されつでなく、ハモニカを吹く吹かれるのが、二人に残された夫婦生活の形だつた。一方トラトラトラならぬ、オダオダオダ。小田急小田原線の成城学園前駅に、織田俊彦が降り立つ。立花書店に現れた黒田(織田)は、『ノーベル賞文学全集』(近代社)の、第十二巻『ヘミングウェイ』を一冊売りして呉れるやう乞ふ。揃ひでないとと拒む春枝に、弁護士・ツツミから紹介された旨黒田は告げる。合点した春枝と、黒田が交す目配せ。さりげないしたり顔が、オダトシこゝにありをコソッと撃ち抜く慎ましやかな十八番メソッド。春枝が踏台に乗り取つた十二巻の、巻頭には丘奈保美のポートレイトが挿み込まれてゐた。
配役残り、ネームド女優部唯一不脱の飯田紅子は、立花書店の店員・友子。改めてジェームス・パーディを構へる丘奈保美が、春枝が組織した売春団の一員・原田桃江、射撃の名手。要は立花書店を窓口に、“T·M·G事務所 立花モデルグループ”を謳ふか騙る表札のかゝつた、東京秘密ホテル―実際の屋号不詳―401号室で桃江と黒田が合流、事に及ぶといふ次第。射撃場にて百恵の傍らに佇むばかりの影山英俊は、親爺に貰つた名銃を持て余す、ボンボンぶりを濃厚に漂はせる色男。水乃麻希も、T·M·G事務所の桃井典子、表向きの職業は貿易会社の社長(小泉)秘書。ロバート・マックレーが典子を買ふ顧客、典子の巻数は不明。木に百合を接ぐ絵沢萠子は典子のパートナー且つ、買春で稼いだ金の援助を受け、保育園を経営する輝代。即ち、典子が女パトロンも兼ねる格好。パイプを咥へたまゝ書店の敷居を跨ぐ、幾ら昭和とはいへ、清々しい通り越し凄まじい自由度の高さに軽く度肝を抜かれる三川裕之は、ノベ文全集第一巻『ロマン・ロラン』を所望、春枝を指名する男・杉山。事後、401号から杉山を送り出した春枝は、これ見よがしに不審な風情で非常口に消える西沢(谷)を目撃。春枝もホテルを辞さうと再びドアを開けたところ、背にナイフのブッ刺さつた商事会社社長・フジカワ(ほとんど面相抜かれないものの近江大介?)が室内に転がり込み絶命する、ぞんざいなショッキング。井上博一と伊豆見英輔は、フジカワ殺害事件を担当する刑事の大友雄一と雨宮。そして大友が良介と三人同郷の、春枝元カレといふのが火にニトロを焚べるアメイジングな急展開、ないしパラノーマルな世間の狭さ。破天荒なドラマツルギとは対照的に、捜査自体は拍子を抜くほどサクッと進行。偶さか桃江が先に向かつてゐる長野―実際ロケを張るのは大久野駅周辺につき西多摩―に、西沢のいはゆる首検分で春枝も赴かうと慌ただしい立花書店を訪ねる、小見山玉樹はパール・バックの第三巻を求める板野。ビリング上は二番手にして四十分近く温存される八城夏子が、板野と寝る笹原ゆかり、小学校の体操教師。と、ころで。国鉄五日市線の大久野駅(昭和57年廃止)は、昭和46年の時点で既に乗客を乗せた営業運転を終了、撮影当時は確実に貨物駅である。となるとわざわざ駅舎―が映り込む―カットを入れた、意味が実は判らない。それらしき田舎の往来を歩く画で、別に事済むのではあるまいか。
アメリカのテレビ畑を主戦場としてゐたロバート・マックレーが、博く知られるキャリア(1977~2011)に一年先んじて、日本で―十月中旬封切の―ロマポに出てゐたのが何気に謎を呼ぶ藤浦敦通算第二作、一般込みだと第三作。
顔ぶれ豊かな立モデの面々が次々登場する活劇調の前半から、春枝と大友の再会で如何にも宮下順子的な、徒に湿つぽいエロメロドラマに大転調。したかと思へば、ゆかりが噴かすライカミングでスペクタクルを再加速してみたり。ととかく、よくいへば一筋縄で行かない、直截にいふと右往左往と紙一重の一作。たゞでさへ出し抜けな典子の両刀を遥か彼方に凌駕する、弟の命を奪つた仇の大熊を、執拗に追ひ狙ふ桃江の超造形に畏れ入りつつ、そこで打ち止まらないんだな、これが。ゆかりもゆかりで板野との二回戦に際しては、ライダーもとい
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の荒業をも繰り出してのける、パイパー PA-28の操縦が趣味とかいふ闇雲極まりないギミックには引つ繰り返つた。藪だらうと蛇だらうと、そんなに盛るのが楽しいか。それでゐて、山の中に生まれ育ち、海に憧れたのか。船乗りを夢見て春枝―と郷里―を捨てた筈の大友が、何の因果かマッポの手先、どころかそのものに。乾物屋の倅と村の者同士で結婚した春枝も、何時の間にか世田谷で本屋を開業。そもそも、一介もしくは市井の書店主に過ぎない春枝が自身含め、劇中に登場するだけで少なくとも四人の女を擁する、高級―さうな―コールガール組織を築き上げるに至る盛大な顛末。ガッバガバに開けたまゝ、終ぞ埋められない外堀もそこかしこ。女傑譚と、大友に一度は捨てられた春枝が矢張り良介を選ぶ、最終的には他愛ない三角関係。変則的な二兎を逆の意味で見事に、勿論二匹とも逃がす。確かに取つかゝりには事欠かないにせよ、正直木端微塵の劇映画に対し、裸映画的には質的にも量的にも手堅い出来。殊に二番手とコミタマの一回戦が一番酷い、ブッツブツ絡みが無造作に飛び散らかす、へべれけな繋ぎには目を瞑るならば。世辞にも褒められた代物ではないのと同時に、過積載の見所といふより寧ろツッコミ処と、奇想天外な珍機軸は盛沢山な分、詰まらなくてどうしやうもなくはない、不思議か素頓狂な触感は味はへる。
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