真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 女が牝になる時」(2009/制作:ネクストワン/提供:Xces Film/監督・脚本:工藤雅典/企画:亀井戸粋人/プロデューサー:秋山兼定/撮影:井上明夫/照明:小川満/助監督:永井卓爾/監督助手:関谷和樹/撮影助手:橋本彩子/照明助手:八木徹/応援:広瀬寛巳・大西裕・高橋周一/スチール:MAYA/音楽:たつのすけ/編集:田辺賢治/出演:鈴木杏里・藍山みなみ・倖田李梨・柳之内たくま・なかみつせいじ・清水大敬・平川直大・甲斐太郎・岡田智宏・村上仁史)。出演者中、村上仁史は本篇クレジットのみ。なかみつせいじ(ex.杉本まこと)が、ポスターにはすぎもとまこと、フリーダムすぎる。
 心身とも草臥れた夜の通勤電車、内藤ミキオ(柳之内)は暖色のカーディガンを羽織つた、幸薄さうな藍山みなみに目を留める。すると一人の乗客(清水)が、あらうことか藍山みなみに痴漢を始めた。こゝでいきなり、ファースト・カットと痴漢スタート時とで、藍山みなみの位置が概ね車輌半分分左に移動してゐる。実車輌パートと、セットパートの繋ぎのぞんさいさによる粗忽と思はれる。ミキオは痴漢男の左腕を掴み制止するが、駅に着いた電車が停止し藍山みなみが降車した隙に、エルボーを受け清水大敬も取り逃がす。夜道をホテホテ歩くミキオの携帯に、叔母の玲子から電話が入る、ミキオを訪ね東京に出てきてゐるといふ。ミキオが帰宅すると、部屋の前にはトランクに腰掛けた、胸の谷間も思ひきり露な女が、玲子(鈴木)だつた。親戚中を敵に回し勘当同然に結婚した、藍原康治(一切登場せず)とは別れて来たとのこと。清水大敬に打たれた右の唇の端が切れてゐるのに気づき、不用意に距離を近づけて来る美しい叔母に、ミキオはどぎまぎする。後に改めて事の顛末を聞いた玲子は呟く、藍山みなみは「アタシが探してるコかも知れない・・・・」。人事部に勤務するミキオは、上司・石井健太郎(なかみつ)の小宮伸子(倖田)に対するリストラ宣告に、ナイーブな心を苦しめる。その夜泥酔した状態で電車に揺られるミキオは、再び清水大敬が藍山みなみに痴漢してゐる現場に遭遇。ミキオは清水大敬を再度取り押さへ何故か駅員には突き出さず駅の外へと連れ出すと、思ふがまゝ殴りつけついでに、男の正体が坂口淳之介といふ大学教授であるのを落とした身分証から知る。坂口の電車痴漢も兎も角、ミキオもそれでは少なくとも暴行罪でしかない。藍山みなみが痴女である、といふ坂口の言葉に動揺したミキオを突き飛ばし、坂口はまたしても逃げた。帰宅後諸々の鬱屈に箍の外れたミキオは酔ひの勢ひにも負け、相変らず露出過多でしかない格好の叔母を、玲子も玲子で大して抵抗もしないゆゑ衝動的に抱いてしまふ。翌日、通勤途中石井の隣に立つ玲子の、尻を坂口が撫でる。すると何がどう転んだのだか玲子は左から触られたのに右に立つ石井に痴漢されたと主張し、そこに唐突の火に油を注いで登場した伸子が、自分も目撃しただなどと追ひ討ちをかける。玲子と坂口に挙句に伸子、百歩譲つてもその時点まで全く接点のなかつた三者を並べての、石井陥落の件は幾ら何でも藪から棒どころの騒ぎではない。上司の不始末―勿論、冤罪である―に警察署に呼び出され、そこに玲子と伸子がゐるアメイジングに当然目を丸くするミキオに対し、広瀬寛巳と馬鹿に服装の軽いパーカ刑事に取調室に連れて行かれる石井が、お前もこいつらとグルなのかと叫ぶ。幾らリストラ役の冷血漢とはいへ、あまりに粗雑なシークエンスを前にすると石井が不憫としか精々思へない。最終的に、これでは以降の展開が観る側の心理としても満足には成立し得まい。直帰するつもりなのか、玲子と帰路に就くミキオの前で、藍山みなみが坂口に物陰に連れ込まれる。白昼堂々大胆にもほどがある破廉恥教授であるだとか、そもそもちやんと出勤してゐやがるのかこのオッサンはといふ以前に、頼むからこの煌かない展開の無造作さはどうにかならぬものか。段々と、一見したところの明示された差異は何ら見当たらないとはいへ、全く別の世界での出来事を描いたお話のやうにすら思へて来た。かうなるともつとルーズであつて呉れたなら、逆に救はれたのに。坂口を撃退し助け出した藍山みなみは、矢張りといふべきなのか正直何が何だかよく判らなくもなつて来るが、玲子が行方を探す、康治の妹で同じく家を飛び出してゐた清香であつた。三人で帰宅し、一旦酒を買ひに出たミキオは仰天する。戻つてみると、玲子と清香が情熱的に交はつてゐた。女同士でといふ以前に人の部屋だろ、少しは辛抱しろよ。
 失職後家族にも去られ、茫然自失と公園の一角に生活するホームレスの姿に目をやる可哀相な石井の前に現れる平川直大は、かつて石井から首を切られたのち、公園デビューを果たした山下。平川直大にも増した、超絶のリアル感を加速させる甲斐太郎と岡田智宏は山下の、都会の片隅でのアウトドア生活仲間。村上仁史は二度目のヒロポン刑事登場時、傍らに映り込むパッと見今野元志似の同僚刑事。劇中見切れるのは乗客要員のほか、復讐に燃える石井が伸子を犯す、コンビニエンスストア店員。因みにこのコンビニは、撮影用のセット物件。商品は普通に並んでゐるものの、什器が幾分安つぽい。
 一言で片づけてしまふと、最早工藤雅典の名前は忘れ腰から下でのみ観るのが、今作に対する最も相当な接し方であるのかも知れない。ゲリラ実車とセット撮影とを併用する電車痴漢、義理とはいへ姉妹百合、コンビニ強姦、雇つた山下らを引き連れた石井による、クライマックス怒涛の電車姉妹輪姦。表面的な煽情性の種には事欠かず、その限りに於いて下賤に楽しむ裸映画としては一定以上の水準をクリアしてもゐるものの、いざ劇映画としての検討を冷静に試みるや、実はともいはずまるで体を成してはゐない。ミキオのドロップアウトも、断片的な台詞でのみ語られる清香の罪と罰とやらも描き込みが感動的に足らず、物語に背骨が全く通らない。更には積み重ねられた適当極まりない場面場面の数々が、元より軸足の定まらない映画に止めを刺す。工藤雅典本来の硬質が、底の抜けた飛躍に対しては出鱈目さを際立たせる悪い方向にしか作用しない。劇中十全に描かれてあるのは、無体な運命にある意味大人しく壊れて行く石井と、坂口といふか要は清水大敬の粘着質な変質漢ぶりくらゐか。簡単に要約すれば好色で身勝手な叔母と叔母の義理の妹とに、無闇に振り回された末主人公が事実上人生を詰まされ、とばつちりで一人の男も完全に社会的に抹殺された風にしか映らない、両義的に悲劇のやうな一作。いつそのことワン・カットで振り逃げるオーラス、公園の隅に張られた薄汚れたテント、平川直大・甲斐太郎・岡田智宏をカメラが舐めるとその最後には新たに仲間入りした柳之内たくまが。さういふ無常観が爆裂するフィニッシュの方が、まだしも映画を据わらせ得たのでもなからうか。

 起承転結を一応は締め括る電車―セット―陵辱の直前に、時空が二度目に歪む。石井が陥れられる件も加へると、あるいは三度目か。ミキオ・玲子・清香、三人で乗る電車。玲子に清香と二人にして欲しいと乞はれ、ミキオは画面手前に、左右でいふと左から右に隣の車輌へと移る。直後のカットでは、ミキオが次の車輌内を右から左に歩いて来る。戻つて来たのか、玲子と清香は消滅してゐるが。最も単純な素人考へだと、そこは単に、カメラ位置を動かし柳之内たくまが左から歩いて来るのを撮れるやうにすれば済む話ではないのか。あからさまなルーチンワークであるといふ訳でもないのだが、斯様な次第で、工藤雅典らしからぬへべれけさが終始散見される。


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