真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「師匠の女将さん いぢりいぢられ」(2018/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:工藤雅典/共同脚本:橘満八/音楽:たつのすけ/撮影:井上明夫・村石直人/照明:小川満/録音:大塚学・武田太郎/整音:Pink-Noise/仕上げ:東映ラボ・テック/VFXスーパーバイザー:竹内英孝/助監督:永井卓爾/撮影助手:森田義勇・安藤昇児・丹野美穂/制作応援:小林康雄/演出部応援:山梨太郎/ポスター:MAYA/スチール:伊藤太・KIMIKO/協力:ネクスト・ワン、KOMOTO DUCT/出演:並木塔子・安藤ヒロキオ・水川スミレ・生田みく・折笠慎也・小滝正大・酒井あずさ《友情出演》・古本恭一・飯島大介)。出演者中酒井あずさのカメオ特記は、本篇クレジットのみ。それと、ネクストワンをネクストとワンで区切るのは初めて見た。
 積極的に味のないタイトル開巻、屋上を、清掃員が掃除するロング。手を止めた安藤ヒロキオが、「こんな街、消えてなくなればいい」と毒づく。万感の思ひを込めて同意する視座ながら、以降一切全く一欠片たりとて深化されるでなく、思はせぶりなばかり且つ、正直この期に手垢も避けて通る風呂敷なんて、無駄になら広げなければいいと最終的には匙を投げた。相原建一(安藤)の部屋を、荷物をまとめた鈴音那美(水川)が出て行く。ルックスの見覚えよりも、特徴しかない台詞回しに聞き覚えのあつた水川スミレが、今は亡き関根和美がらしい豪快な破壊力を振り抜いた2016年第二作「美人妻覚醒 破られた貞操」主演から二年空けて、ピンク二戦目となるex.水稀みり。この界隈とかくよくある、事務所移籍に伴ふ改名といふ次第。相原は那美と野間裕介(折笠)の三人でお笑ひトリオ「キッシンジャー」を組みそこそこ活躍してゐたものの、要は那美を野間に寝取られる形で解散。野間と那美がコンビで活動を継続する一方、足を洗つた相原は燻つてゐた。ある日、勤務先である清掃会社の社長(飯島)に相原は新人の並木和代(並木)を紹介される。和代は相原も尊敬する、酒と女好きで借金だけ残して死んだ大先輩芸人・並木貫太郎の未亡人であつた。貫太郎に関しては、遺影すら登場せず。何かまた気の利いたTシャツをキメた、広瀬寛巳の出番であつたやうな心も残らなくはない。
 配役残り小滝正大は、相原旧知の構成作家・田所はじめ。今作殆ど唯一正方向の評価に値するのが、安酒場でないと飲みきらない相原に対し、田所が「貧乏なのは政治の所為」。工藤雅典と橘満八、何れの筆による台詞なのかは当然知らないが、その認識は、令和が順調に平成を無駄死にさせてゐる目下に於いては極めて重要であるやうに思へる。それは、兎も角。誰か、小滝正大に大仰でない普通の芝居をさせられる、敏腕通り越した豪腕の演出家はゐないものか。山﨑邦紀2017年第一作「性器の大実験 発電しびれ腰」(主演:東凛)以来の酒井あずさは相原が劇中判で捺したやうに常用する、今やステージ・ドアーと並ぶ大定番物件、居酒屋「馬力」の女将。そこそこ大所帯を構へた馬力隊に、視認出来ただけで西村太一・国沢実・鎌田一利。後頭部しか見切れないが、高橋祐太もゐたやうな気がするのは半信半疑。「馬力」が出て来る度に、馬力隊も使ひ回す、何時も何時でも常連客で賑はふ店なんだね。映画製作団体「KOMOTO DUCT」主宰の古本恭一と生田みくは、往来の片隅にも関らず―照明をキッチリ当てた―乳も露に尺八を吹かせようとするサラリーマンと、助けに入つたつもりの相原を、罵倒して立ち去る女・静香。相原は距離を近づけた和代と一点張りか馬鹿の一つ覚えの「馬力」を経て、大雑把な繋ぎでラブホテルに入る。和代を家まで送り届けた相原は、貫太郎の連れ子で後妻の和代と血の繋がりはないとはいへ、静香が和代の娘であるのに驚く。ありがちを超えた、凶暴な世間の狭さではある。
 映画通算第十七作となるデジエク第三弾「連れ込み妻 夫よりも…激しく、淫靡に。」(2014/主演:江波りゅう)から気づくと早四年、工藤雅典驚天動地の大蔵電撃上陸作。なほ今年に入つてオーピー三作目も発表、工藤雅典は普通に継戦してゐる模様。同じ出自でも早々に離れた後藤大輔―齢もひとつ違ひ―とは異なり、にっかつ入社で以降も日活のVシネでデビュー後エクセスを主戦場として来たいはば生え抜き中の生え抜きである工藤雅典の、大蔵移籍には本当に度肝を抜かれた。映画以前の衝撃に霞みつつ、外堀的には佐藤吏2009年第一作「本番オーディション やられつぱなし」(2009/脚本:金村英明/主演:夏井亜美・日高ゆりあ)ぶりとなる本格芸人ピンクでもある、本格?一点忘れてゐたのが飯島大介のピンク参戦も、「連れ込み妻」以来。
 筆の根も乾かぬ内に前言を翻すと、超口跡の水川スミレを連れて来た時点で、芸人ピンクだなどと所詮は悪い冗談未然。そもそもネタが悪いのか演出に足を引かれてか、安藤ヒロキオも元職にしては、ピクリともクスリとも輝かず。相原と“師匠の女将さん”といふ訳でもない和代の恋路も恋路で、和代の手酌に相原が慌てた弾みで指先が触れた馬力から、カット跨ぐとラブホのネオン、とかいふ即席やうでは情感もへつたくれもあつたものではない。重ねて処遇に窮したのか単にトチ狂つたか、静香が貫太郎の死以来、色情狂だなどといふのは木に竹も接ぎ損なふバーホーベン、もとい魔方便。如何にもなギミックにせよ、せめてコメディなりファンタに片足突つ込んだ物語にでもして呉れないと、裸映画ナメてんのかと呆れ果てた。挙句百歩譲つて相原を主役と見做すとしても、締めの濡れ場を三番手に委ねる駄構成には唖然とする以外に何が出来ようか。順番的に最後の絡みが相原の保身を図つて野間に手篭めにされ、たのに罵られた相原を、終には義理であれ娘に寝取られる。和代の扱ひが余りにも酷過ぎて、涙も枯れた代りに屁が出る。廊下奥の闇に沈む静香を除けば、画的にも見応へのあるショットは特に見当たらず、ラストしんしんと降らせてみせた―CGの―雪も、精々白々しさを増すのが関の山。詰まるところが、第二作「美人取立て屋 恥づかしい行為」(1999/主演:青山実樹)と、第四作「美人おしやぶり教官 肉体《秘》教習」(2001/主演:岩下由里香/二作とも橘満八との共同脚本)が紛れ当りか何かの間違ひで、所詮工藤雅典なんぞこの程度。といつてしまへば実も蓋もなくなるほかなく別にそれで構はないが、枯れ木ほども山を賑はせないストレートな凡作。わざわざ工藤雅典をエクセスから連れて来るくらゐなら、もつと撮らせるべき人間がオーピーは身近に幾らもゐるのではなからうかだなんて、無粋か下衆なツッコミを禁じ得ない。


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