真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「隠密濡物帳 熟れごろ嫁さがし」(2023/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/助監督:小関裕次郎/録音・整音:大塚学/選曲:友愛学園音楽部/編集:蛭田智子/スチール:本田あきら/監督助手:河野宗彦/撮影応援:夏之夢庭・髙木翔/演出部応援:広瀬寛巳/協力:植田浩行・郡司博史/出演:加藤あやの・なかみつせいじ・杉本まこと・天馬ゆい・安藤ヒロキオ・大浦真奈美)。何故か東ラボのクレジットが抜けてゐるのは、本篇ママ。
 タイトル開巻、何処ぞの深い山の中。外界と隔絶したまゝ数百年続く、忍者の霧ならぬ塵隠一族の里。忍び装束のカクゾウ(なかみつ)が、多分ポップな内容の淫夢に畳の上を七転八倒見悶える。別の間ではカクゾウの父親で、一族の頭領(杉本)がくノ一・ヒメコ(大浦)と睦事。忍者一族を束ねる御頭様の屋敷にしては、部屋の調度が思ひきりそこら辺の民家にしか見えない、ヤル気の欠片も感じられないプアな美術と、まるでドンキで買つて来たかのやうな、頭領のチンケな白髭に関してはこの際通り過ぎてしまへ。ヒメコが頭領に身を任せる条件は、次期頭領を目されるカクゾウとの祝言。ところが意外と開明的な部分も持ち合はせてゐるのか、一族に新しい血を入れる変革も摸索する頭領が、遂に決断。カクゾウに軍資金を与へ、嫁を連れて来るまで帰ること罷り成らん旨厳命した上で、里の外に出る許可を与へる。Ninja Goes Tokyo、喜び勇んでカクゾウが発つ一方、指を咥へて見てゐられないヒメコは、密使のイチカ(天馬)を放つ。
 花の都にひとまづ辿り着いた、はいゝものの。立ちんぼの要領でイチカのハニートラップに篭絡されたカクゾウは、忽ち所持金を巻き上げられ一文無しに、大丈夫なのか塵隠。腹を空かせたカクゾウは香ばしい匂ひに誘はれ、終に一軒の店の表で行き倒れる。配役残り、先にカクゾウを発見する安藤ヒロキオが、固有名詞も口頭に上らない夫が借金を残し女と出奔して以降、女手ひとつでカレー店を切り盛りするサユリ(加藤)の息子・ミツオ、幾星霜系の浪人生。正直前作の印象は既に覚えてゐない、加藤あやのは2017伊豆映画「湯けむりおつぱい注意報」(監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:篠田ゆう/二番手)以来、六年ぶりとなる二戦目。主演女優がトリを飾る形で俳優部が出揃つた、ビリングの彼方にエキストラ。カクゾウが撒くチラシを受け取る、KSUとひろぽん以下、カレー客要員で若干名が投入される。店内を一望する画の中で、男女が確かに向かひ合はせで座つてゐながら、銘々別個のタイミングで食事してゐる風の、地味なちぐはぐの真相や果たして如何に。観客ないし視聴者を、そんなにそはそはさせたい?
 昭和62年に本名でデビューした中満誠治が、1990年に改名した杉本まことと、2000年に再び改名したなかみつせいじが同一フレームに―生身で―納まる共演を果たすのは、流石に初めての気がする加藤義一2023年第一作。これも簡便に合成可能な、デジタルの果実を享受してのマジック、ないしミラクル。加藤義一的には当年ピンクは今作きりではあれ、歳末に薔薇族がもう一本ある。以前のなかみつせいじと杉本まことの共演作でいふと、なかみつせいじが支配人を務めるテアトル石和(山梨県笛吹市/2018年閉館)に、杉本まこと出演の劇中映画「北の梅守」のポスターが貼つてある加藤義一2017年第三作「悶絶上映 銀幕の巨乳」(脚本:筆鬼一・加藤義一/主演:神咲詩織)くらゐしか、ザッと見渡してみたところ見当たらない。共演してこそゐないけれど矢張り加藤義一で、記憶に新しくはない反面想ひ起こすのは容易いのが、代表作「野良犬地獄」の映画スター・杉本まことになかみつせいじが扮した、通算と同義の2002年第三作「スチュワーデス 腰振り逆噴射」(脚本:岡輝男/主演:沢木まゆみ)と、妹作たる2004年第一作「尻ふりスッチー 突き抜け淫乱気流」(脚本:岡輝男/主演:山口玲子)。その他、なかみつせいじがポスターではすぎもとまことにされてゐる工藤雅典の「痴漢電車 女が牝になる時」(2009/主演:鈴木杏里)や、デジエク第二弾と名義を違へるAV版「愛する貴方の目の前で… 女教師と教へ子」(2014/制作・販売・著作:アタッカーズ/脚本・監督:清水大敬/主演:香西咲)、とかいふバリエーションもなくはない。
 無闇にハイスペックな田舎者が、配偶者捜しで大都会にやつて来る。主人公が長の子息である点まで踏まへ、加藤義一とはタメの当サイトが世代的に脊髄で折り返すと「星の王子 ニューヨークへ行く」と、「ミラクル・ワールド ブッシュマン」を足して二で割つて、乳尻をてんこ盛りにした類の一篇。尤も、サユリの店にカクゾウが転がり込むまでは、全く以て順調であつた、とはいへ。塵隠一族跡継ぎの嫁騒動なんて、気がつくと何処吹く風。閑古鳥の鳴くカレー屋を盛り立てるべくサユリ母子とカクゾウが奮闘する、いはゆる細腕繁盛記的な下町家族劇に前半が完全にシフトする大胆といふか、大らかな構成に軽く驚、くのは実は全然早い。商売が軌道に乗り始めるや否や、ちやうど前後半の境目辺りでカクゾウがサクッとサユリに求婚。サユリもサユリでケロッと首を縦に振る、結部と見紛ふ起承転結の転部には本格的に度肝を抜かれた。この映画、こゝで終る訳でも終れる筈があるまいし、全体後ろ半分どうするのよ、と引つ繰り返りかけたのが、ベクトルはさて措き惹起された感興の最大値。
 心配しなくていゝ、信頼もしなくていゝ。サユリを塵隠の里に連れ帰るどころか、忍びの道すら捨てた要は町人の人生をカクゾウが選ぶ。事態の正しく急展開を受け、話の流れがカクゾウの嫁捜しからカクゾウ自身の強制帰郷へと華麗か豪快に移行。イチカがミツオも篭絡する、くびれが素晴らしい三番手の第二戦は天馬ゆい―と安藤ヒロキオ―クラスタ以外恐らく喜ばない、分水嶺を明白に跨ぐ冗長さで遮二無二尺を稼ぎつつ、背景に大星雲の広がる壮大か盛大な、兎に角クライマックスに足るカクゾウとヒメコの、忍術といふか淫術の大激突を経て。元々デキてゐたカクゾウとサユリに、頭領は案外簡単に倅を諦め、ヒメコとの間に後継者を新たに設けるフレキシブルな方針転換。単に、色香に負けたともいふ。そんなこんなの正しくどさくさに紛れ、イチカとミツオも何時の間にかくつゝいてゐたり。三者三様のカットバックが火花を散らす、締めの濡れ場・ストリーム・アタックで桃色に煮染めた大団円に捻じ込む、力尽くのラストは鉄板といへば鉄板。そもそもカクゾウとサユリの間に、ラブアフェアといふほどの付かず離れずも特に発生してをらず。カレーを旨くするのに忍術の使用を諫める以外、実はヒロインが進行上ほとんど全く何もしてゐないへべれけな作劇と、少しは録音部でどうにかしてやれなかつたのかとさへ思へかねない、力強く心許ない二番手の発声。と、更に。一欠片たりとて面白くも何ともない、派手な肩の力の抜け具合さへさて措くならば、鉄板といへば鉄板。何かもう、針の穴にモンケン通すみたいな無理難題に突入して来た。
 たゞし、素面の劇映画はいつそ捨ててしまひ、女の裸に、潔く全てを賭けるにせよ。いざ絡みの火蓋を切つた途端文字通り白々とした、なほかつ馬鹿の一つ覚えな一本調子でメリハリを欠く、徒にハイキーな画は些かならず考へもの。

 最後に、蛇に足を生やす与太を吹くと。密命を下す主君も別にゐなささうな現代の塵隠一族に、“濡物帳”と下の句は兎も角、“隠密”もへつたくれもないやうな野暮か根本的な疑問。


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