真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「スチュワーデス 腰振り逆噴射」(2002/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影・照明:小山田勝治/効果:中村半次郎/編集:フィルムクラフト/音楽:レインボーサウンド/挿入歌:「SheHerTonight」/助監督:田中康文/監督助手:下垣外純・笹木賢光/撮影助手:大江泰介・赤池登志貴/協力:佐藤吏/スチール:佐藤初太郎/メイク:NOZOMI/美術:阿佐ヶ谷兄弟舎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:沢木まゆみ・林由美香・佐々木基子・風間今日子・岡田智宏・村井智丸・丘尚輝・城定夫・なかみつせいじ)。
 飛行中のペガサス航空機最後部、映画スター・杉本まことを起用したハワイ旅行のポスターからカメラが下がると、喜悦に顔を歪める杉本まこと(なかみつ)本人が。更に視点が下がると、美人スチュワーデス・松嶋桃子(沢木)が杉本まことの股間に顔を埋め、尺八を吹いてゐる。そのまゝ盛り上がつた桃子は「もう好きにしてえ!」と後背座位で杉本まことに跨るや、後ろから乳を揉み込まれながらといふ、シンプルではあれ決定力のあるアングルで悶え狂ふ。沢木まゆみの痴態の邪魔にならない十分後方でなほかつさりげなく、「アァ~、オォ~」と呻くやうにまるで洋ピンの如く大仰で判り易い、演技ならぬ艶技に徹するなかみつせいじが渋く笑かせる。カット変り、杉本まこと主演映画「野良犬地獄」ポスターから再びカメラが下がると、桃子が目覚まし時計に起こされる。臆面もない夢オチながら堂々とポップな開巻に、デビュー第三作にして早くも確かな加藤義一の地力が光る。加藤義一デビュー年の快進撃については、こちらを参照されたし。
 金持ち男目当ての合コンに明け暮れる桃子は、けふもけふとて、同僚スチュワーデス・本上ますみ(風間)のセッティングによる合コンに出撃する。医師の後藤英明(岡田)をロック・オンした桃子は、英明と中座し、その夜はひとまづデートの約束を取りつける。も、友人に乞はれた員数稼ぎで出席してゐた英明が実は医師などではなく、親の零細工場を継いだ、決して金を持つてゐる訳でもない自動車整備士であつた。
 林由美香は、英明の同僚整備士で男勝りの江川遥。実は秘かに想ひを寄せる、英明と桃子との恋路の行方に気が気ではないものの、英明のことを思つて協力しようとする。佐々木基子は、こちらは女性陣の員数合はせで合コンに参加する、オールドミスの先輩スッチー・柴田理恵子。村井智丸はますみに捕まる本物の医師・梁井健一、英明を担ぎ出した友人でもある。丘尚輝は同じく合コン男性陣の中から、弁護士の堀田聡。何時でも大六法を小脇に抱へてゐる造形は、流石にどうにかならないものか。勢ひでといふか何といふか、理恵子と結婚する破目になる、破目とは何事か。ひとまづは二人幸せさうにハネムーンに旅立つ様子も描かれるので、それはそれで又良し。城定<>夫は、銀行員といふので一度は合コンで桃子と仲良くなりかけるも、勤務する銀行の破綻によりけんもほろゝに捨てられる藤本直人。未練を残し、ストーカーとして桃子に付き纏ふ。
 m@stervision大哥がリアルタイムで結論づけられてをられるやうに、今作は青春映画の傑作「恋しくて」(1987/監督:ハワード・ドゥイッチ/製作・脚本:ジョン・ヒューズ)の翻案である、らしい。“らしい”といふのは、例によつて当サイトが、「恋しくて」を未見であるからである。とかいふ次第で、「恋しくて」のストーリーをザッと調べてみると。成程、メインストリームの美女(今作では桃子)に恋をした地味男(英明)と、彼に近しく実は想ひを寄せつつも、複雑な心境を抱へながら地味男の恋の成就に協力しようとする、今でいふところのツンデレ(遥)との三角関係、といふプロットは全く同一である。加へて、地味男がツンデレの手を借りメインストリームの美女に贈らうとするプレゼント(『恋しくて』に於いては耳飾り)も、遥のサイズに合はせたから桃子には合はない指輪、といふより直線的な形にて現れる。尤も、翻案である点に関しては見てない以上大人しく通り過ぎると。英明から渡された指輪に指を通した桃子は、「素敵・・・でも私には大き過ぎ」、「本当はこのサイズに合つた人がゐるんぢやない?」。といふので近すぎてこれまでは判らなかつた自分にとつて本当は一番大切な、本当に自分を一番大切に想つて呉れてゐる人の存在に気づいた英明が、独り口を大きくへの字に不貞腐れてゐた遥に指輪を贈ると、「かういふの欲しかつたんだ」と遙が仏頂面を綻ばせるシークエンスはよしんばオリジナルでなくとも、林由美香のキュートな名演に支へられ完成度は頗る高い、ジーンと来る。そもそも沢木まゆみ×岡田智宏×林由美香といふ、恋のトライアングルのキャスティングが素晴らしく強力である。
 男漁り―但し富裕層限定―に明け暮れてゐた桃子が、英明の純真さや実は陰ながら英明を慕ふ遙の一途さに触れ一時的とはいへ改心し、結果英明は遙と結ばれる。といふのは勿論物語の着地点としては百点満点な訳ではあるが、それでは映画がキレイすぎるといふのかプロローグの夢オチに連なるエピローグとして、実際に勤務中の機内で乗客の杉本まことに遭遇した桃子が、ハチャメチャに過激な肉弾過剰サービスを展開するラストは、桃子の絶頂への到達を大空を飛び行くジェット機に重ね合はせるなどといふ、最早グルッと回つて大胆とすらいへるポップ・センスも鮮やかに決まり、実に愉快で、スマートに映画を畳む。快調に幕を開けると、すつたもんだで笑つて泣かせ、最後にもう一度笑はせてスカッと幕を引く。何かしらのエッジを求める鑑賞眼からは全くの凡庸な一作に映じるやも知れぬが、一点を除いて非常に洗練された、完成度の高い娯楽映画である。加藤義一の初期作の中でも、随一の傑作といへよう。
 少なくともピンクに於いては比較的シリアスな役柄の多かつたやうに見受ける沢木まゆみの、過剰にポジティブな行け行けどんどん演技は、なまじつか容姿が完璧であるだけに却つて人工的にさへ見えてしまふ部分もあれ、沢木まゆみが誇る超絶のオッパイを惜し気もなく放り出し、自ら男に跨り「もう好きにしてえ!」と腰を振り気をやる奔放な媚態には、ゴキゲンな突進力に富んだ幸福感が溢れる、全体この男は何をいつてゐるのだ。オープニングとラストを見事に映画スター・杉本まこととして堂々と飾る、なかみつせいじも正しく絶品。果たして人の眉毛といふものはここまで動くのか!と驚愕させられる、怒涛のマンガ芝居を披露する。

 一点非常にバランスを欠いて、奇異にも思へるのは。当初桃子は英明をイケメン医師と目して狙ひ定める。一方英明は英明で、過去の因縁から桃子に一目惚れする。その英明の過去といふのが、桃子ソックリなかつての恋人・ミキ(沢木まゆみの勿論二役)をストーカーによつて殺されてゐたといふのは、些か話が大仰ではあるまいか。桃子を庇つて英明が藤本に刺される件の背景に、別にそこまで重い話はどうしても必要ではなかつたやうにも思へる。
 最後に小ネタを一摘み、さういふ、濡れ場の恩恵にすら与れずまるでいゝところのない藤本に扮する城定夫といふのは、いふまでもなく城定秀夫その人である。確認出来てゐるだけで、城定夫名義は翌年の第五作と、「さびしい人妻 夜鳴く肉体」(2005/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典)とに。一方城秀夫名義では前作や、他にこんなところにも見かけられる。


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