真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「レンタルお姉さん 欲望家政婦」(2006/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:山内大輔/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/プロデューサー:五代俊介/撮影監督:創優和/助監督:加藤義一/照明助手:原伸也/撮影助手:柴田潤/監督助手:小山悟/出演:姫川りな・日高ゆりあ・倖田李梨・坂入正三・牧村耕次・柳之内たくま・柳東史)。フと気付いたのがフィルムハウスには、以前は中点が入つてゐなかつたやうな気がするのだが。
 千夏(姫川)が買ひ物袋を提げ颯爽と家路を急ぐ、山内大輔映画はヒロインが、颯爽と画面を横断する画が多い。稗田三蔵(坂入)の待つ家政婦先のマンションに到着すると、三蔵が間をもたせる目的かバナナを摘み喰ひなどしてゐる内に、何事もないかのやうに裸エプロン姿で再登場。鮮やかな清々しさを振り撒きつつ、半裸の千夏は三蔵の好物である鴨南蛮の調理を始める。夕食後は、息子嫁といふ当初設定など何処吹く風、三蔵に求められるまゝ体を任せる。“男性のあらゆる欲望を否定せず、全て受け容れる”ことを宗とする、全能デリヘルならぬスーパー家政婦「レンタルお姉さん」の物語である。
 一年前、OLであつた千夏は上司との不倫に煮詰まつてゐた。ヒゲにパンチ気味の頭と、まるで『自虐の詩』に於けるイサオのやうな造形の柳東史は、千夏の不倫相手・ヤザキ、どうスッ転んでも堅気には見えない。歩道橋の上で黄昏る千夏に、七年ぶりに再会した高校時代の同級生・トモミ(日高)が声をかける。千夏はトモミから、レンタルお姉さんの仕事を紹介されたものだつた。倖田李梨は、事務所は事務所でちやんとあるにも関らず、初めて会ふ千夏と河辺で待ち合はせする、レンタルお姉さんを主管するNPO法人「ドリームライフ」代表の冴子。雨を降らせるのが大好きなリドリー・スコットに、白い鳩を飛ばすショットを好むジョン・ウー。この期にのんびりするにもほどがあるやうに我ながら思へるが、山内大輔といふ人は、ヒロインを颯爽と歩かせるのに加へて、とりあへず河辺でドラマを撮るのが好きな人であるのかも知れない。
 牧村耕次は妻に先立たれた村上直樹、柳之内たくまは、母を亡くしたのち引きこもりになつた直樹の息子・直人。トモミは直人には母として、直樹には妻代りに体を任せる。母親が何故息子とセックスするのか、といふ疑問を抱くのは禁物の方向で。
 スーパー家政婦だかレンタルお姉さんだか知らないが、要は家事全般を完璧にこなした上で、セクロスも好きなだけさせて呉れる。男の他愛もない欲望に100パーセント即した都合の良い世界観をあつらへると、後はアクセル全開。女優を綺麗に撮ることと全般的な画作りには心を砕きながらも、ドラマの深化に余計な骨を折るでなく、エロスエロスエロス。とりあへずエロス、何はなくともエロス。映画にとつて必要なものを三つだけ挙げるとするならば、アクションと特撮、あともう一つは何だ。さうだ、女の裸ぢやないか。濡れ場濡れ場の畳みかけで観客を陶酔させる、これぞエクセス本流といはんばかりの純正エロ映画。山内大輔を評して洗練度の高い坂本太、といふと無茶苦茶な筆を滑らせてゐるやうな気もしないではないが、いはんとするところは当たらずとも遠からん自信もある。
 付け鼻のやうに大きな鼻にはすぐ慣れる、デルモ並にスタイル抜群な主演の姫川りな。滲み出て来るいやらしさは、現有戦力の中でもトップ・クラスの倖田李梨。ドリームライフ代表室での面接時、「レンタルお姉さん」の職務を全うするためには、奉仕の精神だけでなく男性の気持ちも理解しておかなければならない。とかいふ方便でペニパンを装着した千夏と冴子が、交互に尺八を吹いてみたり、突いたり突かれたりするシークエンスの破壊力は絶大。ダミーなので修正の要はなく、なほかつダミーであることのドラマ的要請も兼ね備へてある。ピンク映画を手中にした山内大輔が更なる冴えを見せるのが、日高ゆりあの起用法。初登場から、一貫してメガネ着用。寝てゐたところを直樹に求められての絡みに際しては、わざわざ外してゐたメガネをかけ直す律儀さを見せる。しばしば、折角メガネをかけて出て来た女が、情交に及ぶやメガネを外してしまふ凡庸が散見される。半端なリアリティなんて要らないんだよ、銀幕の中だけは夢を見続けさせてゐて欲しい。今作に於ける山内大輔の、意識的あるいは意欲的な姿勢は最大限に評価したい。狙ひ撃たれた小生は、まんまと諸手を挙げた。山内大輔、と日高ゆりあとに完敗である。

 ドラマの深化に余計な骨を折るでなく、と先に述べた。が、妻子に逃げられたヤザキと寿退社する運びになつた千夏に、気を遣はせまいと三蔵が嘘をつく件は、さりげなく短い一幕ながら心に染みる。合格点に達した娯楽映画が、そこから先後々まで心に残るより上質なものとなり得るか否かの分岐点は、さういふ何気なエモーションのあるやなしやにあるやうにも思へる。


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