偏屈


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偏屈のすすめ。 自分を信じ切ることで唯一無二のものが生まれる。
フランソワ-ポール・ジュルヌ
幻冬舎


本の紹介をする。
御徒町の本屋の時計に関する本のコーナーでみつけた。
これは実に面白い本であった。
あまりに面白くて、一気に読んでしまった。

天才的な時計師であるフランソワ・ポール・ジュルヌ氏が、自身の生い立ちと考え方を綴った本。
短い一遍ごとに、ライターの高木教雄氏が解説を加え、非常に読みやすい本になっている。
ジュルヌ氏の作る時計は、一般への知名度こそ低いが、世界中に熱狂的なファンを持つという。

天才的なのは確かなのだが、それよりも氏の生き方が凄い。
子供の頃、落ちこぼれだったと述べているが、その理由がはっきりしており、自分の興味の無いことに頭を使うこと自体が嫌だった・・というのだ。
何かを強要されるのは、もちろん大抵の人が好まないだろうが、氏の場合、興味の無いことに時間を費やすという無駄を、子供の頃から一貫して拒否している。

しかも大人になっても、その姿勢を一切崩さない。
氏が常に望んでいるのは、自分がひらめいたアイディアの実現に、誰からも邪魔されず没頭する・・ということだけなのだ。
氏は自分の作りたい時計を、それを理解してくれる顧客のためだけに作る。
氏のブランドは、利益を優先していない・・という点で、他のブランドと決定的に異なる。

お金には興味は無く、給与は必要以上取らず、売り上げの多くは高性能な工作機械の導入や、凝りに凝った内装のブティックの維持に回してしまう。
仕事場も、時計を作るのに最良の、美しく静かな環境であることだけを考え、利便性は無視して選ぶ。
氏の才能に目を付けた高級ブランドからのコラボレーションの申し入れも、自分の思うようにやれないことがわかってから、すべて断っている。

革新的な時計の仕組みを考え、その構造を頭の中ですべて構築し、自分自身の手で組み上げる。
人の真似は一切しないし、何度失敗しても完成するまで諦めない。

ところが一度作ってしまうと、急速に興味を失い、同じものをもうひとつ作るのは苦痛になる。
クリエーターとはそういうものだ。
そのためブランドを立ち上げてからは、人を数人雇い、販売する分は彼らに作ってもらう。
それには図面が必要なので、頭の中で作り上げた構想を、図面に起こす専門スタッフも雇う。
経理や経営に関することには興味が無いので、それも専門家を雇い会社の業務の一切を任せる。
自分が好きなことに没頭できる環境・・が、すべてに優先されるのだ。

氏は直観力に優れていて、若い頃から自分の直感を信じて方向を決める。
特に時計に関しては、人のアドバイスを一切聞き入れず、自分の思った通りにしか動かない。
こういう人が現実にいて、こういう人生が送れるのだという、新鮮な驚きがあった。
また、同じく物を作る人間として、共通した部分、共感できる部分が、少なからずあった。
お勧めの本である。
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