既製品


D800E + AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G

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服や靴をオーダーメイドすることをビスポークという。
一般に靴の場合は、足に合わせて専用の木型から作る場合にそう呼ぶようだ。
be spokenが語源だと言われている。
一方的に作られた既成の靴ではなく、製造者と話し合いながら作るという意味だ。

いわゆる「誂え(あつらえ)」の靴であるが、木を加工する作業も入るので、当然のことながら、価格もそうとう高くなる。
大体20万円くらいが相場のようだ。
僕が普段買っている靴の5~10倍くらいかかる(笑)

ビスポークこそ靴の終着点と言われる。
いつかはビスポーク、というわけだ。
ところが、誂えに対する否定的な意見も無いわけではない。
自分で持ってもいないのに、書くのも何なのだが、そういう意見を読んでみると、へえ、そうなのかと感心する。

以前何足か作ってもらった宮城興業の謹製誂靴は、あえて木型から作る方法はとっていない。
計測用のゲージ靴が何種類も用意されており、その中から自分の足に合う大きさのものを選択する。
その大きさをベースに、デザイン、素材を選んで、カスタムメイドするのだ。
幅を広げるなどの部分的な修正にも応じてくれる。
木型を作らないので、価格もずっと安くあがる。

同社のサイトによれば、木型からおこして作っても、現実にはなかなか思ったようなフィッティングは得られないのが実情であるという。
計測からでは足の立体的な構造までもとらえるのは難しく、顧客の履き方の好みまでもが反映しづらいからだという。
それならば、むしろ既成のゲージ靴から合うものを選ぶほうがいい・・という考え方から生まれたのが、同社の誂え靴であることが書かれている。

先日読んだ雑誌にも、興味深いことが書かれていた。
英国ではビスポーク反対派が意外に多いという。
その理由というのが面白かった。
ビスポークは、靴が小さく見えてしまうというのだ。
自分の足に、ピッタリ合うように作られた靴は、アンバランスなほど小さく見えるようだ。

もともとの足の大きさとは、そういうものなのだろう。
さらには高価なビスポークの場合、どうしてもフォーマルな形状の靴が選ばれ易く、内羽根式になる場合が多い。
その結果さらに小さく見えてしまうというのだ。

どうやら靴は、少し大きめの方が、バランスがよく見えるものらしい。
外観を意識して、あえて自分の足のサイズより大きい靴を選ぶ人もいるほどである。
その方が体型とのバランスがとり易く、安定感も高まり、見ていてカッコがいいのだ。

母親が似たような事を言っていた。
過去に何度か服を誂えたことがあるが、必ずどこか気に入らないところが出たという。
服においても、体型にピタリと合わせると、カッコ悪いものになるらしい。
作る方も、体に完璧に合わせようとするから、よけいにその傾向が強まる。
恐らくモデルのようなスマートな体型の人でも、そうなのではないかという。

そもそもしばらく履いた後の靴は、最初とは履き味が変わってくる。
内部に敷かれているコルクなどが変形し、使い出すと足の形に沈み、フィット感が高まるのだ。
しかも肝心の足自体が、朝と日中では大きさが変わってくる。
その分を計算に入れて作ったとしても、個人差もあるし、なかなか上手くはいかないだろう。

既製品には既製品のよさがある・・という事ではないだろうか。
見た目のバランス・・という項目の優先度を高くして作ることが出来る。
既製靴が、足に完全に合うことは滅多に無いが、どこかに不満を持ちながらも、何とか履きこなすことが重要なのだろう。
特に僕の場合、ゆるめに履くのが好きで、よくお店で本来の履き方ではないと注意されるが、見た目のバランスを優先させるなら、あれもひとつの正解なのかもしれない。
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