寿司屋


SIGMA DP2 Merrill

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知人が郊外に家を新築している時のこと。
休日になると、知人は車で建築中の自宅を見にでかけた。
計画通り進められているか、チェックするためである。

程なく建築現場というところで、左手に「○○寿し」と書かれた看板が目に入った。
ああ、こんなところに寿司屋がある・・そう思いながら知人は前を通り過ぎた。
「家にお客さんを呼ぶ時は、このお店に出前を頼めばいいな」
自分が住むことになる町の、近所の環境をチェックしながら、知人は車を進めた。

建築現場を一通り視察し、棟梁と世間話をして、知人は帰路についた。
行きにも通った道を、今度は逆方向に進む。
すると右手に、今度は中華料理屋を見つけた。
赤い暖簾が見える。

中華料理屋というより、ラーメン屋と言ったほうがいい小さい店だ。
「案外こういうお店が美味しいんだ」
暖簾の隙間から中をちらりと覗きながら、知人の車は店を通り過ぎた。

寿司屋にラーメン屋か・・・
「何もない田舎だと思っていたが、一杯飲めて食べ物を出すくらいのお店は、どこにでもあるものなんだな」
新しい町での生活を思い浮かべながら、知人は車を進めた。

家を建てている最中、知人は何度となく、その道を行き来した。
その度に、道沿いにある寿司屋とラーメン屋が目に入った。

そのうちに、知人は不思議なことに気付いた。
行きには必ず寿司屋の看板が目に入る。
帰りにはラーメン屋の店先が見える。

ラーメン屋の前を通り過ぎた時、知人は思った。
「はて、行きに見た寿司屋はどこだったろう? たしかこの辺だったはずだが・・・」
いつも帰り道になると、寿司屋の場所がわからなくなるのだ。

ある日知人は車を止めて、寿司屋の看板の下まで行ってみた。
看板の立っているお店を見ると、それは例のラーメン屋であった。
行きは生垣の陰になって看板しか見えなかったが、帰りにはラーメン屋の赤い暖簾が見えて、それに気をとられて看板が目に入らない。

あろうことか、そこにあったのは、「○○寿し」という名前の「ラーメン屋」だったのだ。
知人は混乱し、しばらく理解不能の状態に陥った。
こんな訳の判らない話があるのだろうか。

後になってわかったのだが、その店は当初は寿司屋であったが、オーナーが急逝したのだという。
息子が継ぐことになったが、突然のことで寿司を握る技術はないため、代わりに中華料理を出す店を開いた。
しかしその土地で名の通っていた屋号は変えず、○○寿しのまま店を続けた。
そのため、外部から来た人が混乱するような、ややこしい事態になったらしい。

あの店に寿司の注文が入ったら、昔の知り合いの寿司屋に頼んで出前してもらうのだ。
別に驚くほどのことではない・・という顔で、近所の人が教えてくれたという。
土地には土地のルールがあることを知った知人は、初っ端から面食らうことになったと話していた。
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爽やかな日


SIGMA DP1 Merrill

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穏やかに晴れた。
睡眠を多めにとったせいか、大分調子が回復した。
青空が広がり、気圧が戻ったことも大きいと思う。
爽やかな一日で、幾度となく事務所から出て、外の空気を味わった。

朝会社に来ると、壁のカエルはいなくなっていた。
しかし今日の暖かい気候のせいか、どこかからカエルの鳴く声が聞こえた。
久しぶりの陽射しを喜んでいるのだろう。
まだ冬眠するには早いので、また壁に戻ってくるかもしれない。

草むらを歩くと、小さな虫たちが驚いて飛び立つ。
寒くなったとはいえ、すぐに消えてしまうわけでもなく、草の陰などでじっと堪えて過ごしていたのだ。
ほどなく失われる命ではあるが、精一杯の力で羽を広げて、朝の光の中に消えていった。



今日の時計ベルト。
ボーム&メルシエのアンティークに、ジャン・クロード・ペランのグレーヌカーフのチョコレートをつけた。

だいぶ以前にペランで作ってもらったベルトだ。
20mmのベルトをいろいろと組み合わせているうちに、グレーヌカーフの色合いがこの時計にしっくりくることに気付いた。
時計のカン幅は19mmであるが、少し無理をすれば20mm幅のベルトをつけることができるのだ。

J.C.ペランはカーフ系のラインナップが充実しており、その中でグレーヌカーフは表面にシボの入ったタイプ。
2色染めされており、シボの山の部分の色が少し濃くなっている。
なかなか品のいい革であるが、見ようによっては表面の黒ずみが汚れているようにも映り、評価が分かれるところかもしれない。

ボーム&メルシエのアンティークは、文字盤のクラシカルな字体が好きで落札した。
懐中時計の時代から定番の字体のようで、オメガやロンジンなどからも同じ雰囲気の時計が出ている。
このボーム&メルシエは、今でも時折腕につけてみる、お気に入りの時計のひとつだ。
そのためマッチするベルトを、常に気にして探していた。

光を反射するブラウンのアラビア数字が、角度によって銅色に輝く。
数字とベルトの色が非常によく合っており、違和感がほとんどない。
裏面ラバーのアンチスエット仕様のため実用性も高く、ペランだからクオリティは申し分ない。
この時計用として、決定版のベルトかもしれない。

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寝過ごし


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今日はもう、何だか眠くて眠くて・・・
朝早く家を出たが、電車で立っているのが辛くて、空いたシートに座ったところ、すぐに爆睡・・・
気付くと目的の駅を、数駅通り越している。

しまったと思ったが、逆戻りするのも嫌なので、次の駅まで行ってしまい、別のコースで戻ることにした。
ところがそうしているうちに、また寝入ってしまう。
はっと気付くとまたも寝過ごして、目的の駅を通り過ぎている。

目を瞑るとすぐに睡眠に入ってしまい、4、5駅先まで起きない。
その間、まったく記憶がないほど深く寝入ってしまう。

こうなったら仕方がないので、そのまま椅子で寝て、終点まで行ってしまうことにした。
そこから別の線に乗って、大回りして目的の駅に行く。
えらい遠回りであるが、ゆっくり眠れる(笑)

都内を行ったり来たりしたが、通常の何倍もかけてやっと目的地に到着した。
しかし体がだるくて歩くのも億劫だ。
混雑する街を少しうろついてみたが、何だか疲れ果ててしまい、結局大した事もせずに帰途についた。
家で寝ていたほうがよかったか?

帰宅してMrs.COLKIDに長時間肩を揉んでもらった。
これでだいぶ回復して、少し体が軽くなった。
肩がガチガチになっていた。
かなり酷い肩こりだったようだ。
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ちょっとグロッキー


SIGMA DP2 Merrill

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一日中仕事でかなり疲れた。
その状態で久しぶりに寿司を食べに行き、ビールを飲んだら酔いが回ってしまった。
帰宅して、ソファーで横になったらそのまま熟睡・・・
夜中に目が覚めたが、明日があるので今日はこのまま寝ることにする。
寿司はネタが良かったのか美味しかった(笑)
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シートヒーター


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歴代のBMWに、必ずシートヒーターをつけている。
個人的には、優先度のもっとも高いオプションのひとつだ。
革フェチなので、当然レザーシートも大好きだが、ヒーターとセットで選べる場合が多い。

自動車評論家の徳大寺氏が、非常に有効と書かれているのを読んだのがきっかけであった。
もう十数年も前のことだ。
実際に選んでみると、極めて快適なことがわかり、以降外せないオプションとなった。
今はシートヒーターやレザーシートの選べない車は、候補から外すほどだ。

毎年この季節になると、その有難さを実感する。
朝の寒い時間帯に車を運転する際、エンジンをかけたら、まずはシートヒーターをオンにする。
ほどなく腰の部分が包まれるように暖かくなってくる。
それが全身に伝わり、身体がほぐされていくような感覚を味わえる。

僕の母親などは、シートヒーターが大好きで、車に乗るたびに勝手に自分でスイッチを入れてしまう。
こんなに快適なものは他にないと言う。
まるで専門の医院で治療を受けているような気分である。
何しろ車に乗らないより乗ったほうが、体調が良くなるのだから(笑)
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小道具


SIGMA DP1 Merrill

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いろいろな時計を持っているが、実際に普段腕に付けるものは、三つくらいに絞られている。
オメガ・シーマスター・アクアテラと、ジャガー・ルクルトの2針、それにバセロン・コンスタンチンの2針だ。
時折気が向くと、オーヴァーシーズやジラール・ペルゴをつけることもある。
グランドセイコーもつけることがあるが、途中でデザインに飽きて他のものに替えてしまう。
他の時計はまず出番はなく、事実上の撮影用小道具といっていい。



今日の時計ベルト。
GSXのSMART no.83にモレラートのランのブラックをつけた。

ランは日本では見かけないモデルである。
表面にはカナディアン・カーフが使われており、立体的な造形の凝った作りになっている。
なかなかスポーティで面白いデザインだ。
グレー系の糸を使ったステッチも、バランスよくマッチしている。

一方で裏側は、人が変わったかのように派手な配色である。
貼り合せた3色のロリカを大胆に配している。
その思い切った色使いが、普段は見えないところがまたいいのだろう。

ところでこの3色は、イタリアの国旗を意味しているのだろうが、それにしてもどういう訳で?
いや、イタリアの会社だから別におかしくはないのだが、どのような謂れなのか、その辺の事情がよくわからない。
同社にはフランス国旗のトリコロール・カラーを、同じく裏側に使ったカヤックというモデルもある。
三色旗が好きなのだろうか?(笑)

同じく3つの色をモチーフにした、GSXのSMART no.83と合うかと思って組み合わせてみた。
一見オリジナルのベルトかと思うほど、よく合っている。
しかしよく見てみると、その選んだ3色がまるで違う。
こういうでたらめなことをすると、デザイナーに怒られるのだ(笑)

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進歩


SIGMA DP1 Merrill

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国家間の問題に対して、国は徹底して損得勘定で動く。
正義に基づいて動くわけではない。
普通の感性では理不尽と思われることでも、国のためになるなら、平気でやってのける。

どんなに汚いと言われようと、蔑んだ目で見られようと、国益を守るためには土下座でも何でもしてのけるのが政治家である。
あいつらは嫌いだとか、正義に反するとか、感情に基づいた発言をするのは民衆である。
それを政治家が口にしたとしたら、それなりの計算の上での発言であろう。

太平洋戦争勃発の直前、米国には日本は開戦するわけがないと分析する研究家もいたという。
国益を守るのが国家の務めであり、プライドや感情のために、勝てる見込みがないとわかっている戦争に突入するという、国家レベルでの自殺行為に走るなんて、常識では考えられなかったのだ。
引っ込みの付かなくなった日本のために、うまく治まるよう道を作ろうとさえした。

中には、日本が子供に近い行動をとる可能性があると指摘したアナリストもいたという。
長い鎖国の影響がいつまでも残り、国際的なルールを理解しておらず、空気も読めない。
また無理矢理開国させられたことで、精神的に傷を負い、不安定なまま成長してしまった・・という分析だ。
そして結果としてその通り、自滅的な戦争に突入してしまった。

民衆は、本質的には当時からあまり進歩していないように思う。
政治家のほうはどうなのだろう?
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擬態


D2X + Ai AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D

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壁のアマガエルの冬眠前の栄養補給にも、そろそろ終わりが近づいている。
エサになる虫は少なく、腹いっぱい食べられたとは思えない夜が続く。
寒い朝に壁を見上げると、カエルがそこにいないことも多い。
冬眠に入ったのかな・・と思うと、翌日にはまた戻っていたりする。

観察していると、いくつかのことに気付く。
壁は真っ白なのだが、体色も白くなっているものは少ない。
白くなるのは苦手なのか、本来の鮮やかな緑色のままのため、壁面で非常に目立っている。

カエルにとっても、擬態に技術を伴う、困難な色というのがあるのだろう。
薄茶色の延長で白に近づくのならともかく、いきなり真っ白な壁を見せられても、対応しきれないのかもしれない。
あるいは秋に体を白くすると寒くていられないとか、まったく他の理由も考えられる(笑)

アマガエルが強い縄張り意識を持つことは、以前にも書いたことがある。
自分の選んだエリアから、なかなか離れようとはしない。
エサを捕るときは遠征もするようだが、翌朝には元の場所に帰っていることが多い。

しかし縄張りの中に進入した他者に対し攻撃的かというと、そうでもないようだ。
大きなカエルのすぐ横を、新参者の小さなカエルが上っていくのを見ていたが、体をかすめていっても、何もせずに黙っていた。
怒って追い返すかと思ったが、意外に性格は大人しいのかもしれない。

カエルを生理的に嫌っている人が案外多い。
カエルの話を聞くのさえ嫌だという人もいる。
しかしこのちょっと素っ頓狂な生き物は、なかなか愛嬌があって可愛い。
個人的にはカエルは大好きな生き物である。
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見分け


SIGMA DP2 Merrill

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奈良には2台のシグマを持っていった。
言わずと知れたDP1 MerrillとDP2 Merrillだ。
軽くてこういう時には特に重宝する。

35mm換算で、DP1Mが28mm相当、DP2Mが45mm相当になる。
なぜ35mm相当のレンズ搭載機を出さないのだろう。
そうすれば1台で済んだのに・・と個人的には思う。
これでは両方揃えるしかない。
まあ軽いから、両方持って行ってもそれほど負担にはならないが・・・

外観が似すぎていて見分けが付かないのは、以前のDP1とDP2の時と一緒だ。
思い切って片方を、シルバーか何か、別の色にしてほしかった。
以前はストラップやレンズフードの色を変えて区別していたが、それでもいつも一瞬迷った。
今回は何もしていないので、じっくり見てもわからなくて非常に困った。
ペンキで片方を塗ってしまいたい気分であった。

しかし途中から簡単な見分け方に気付いた。
以前にも書いたが、僕のDP2Mは何かにぶつけて裏面のモニターのガラスが割れているのだ。
裏面を見れば、即座に見分けが付くことがわかった(笑)
少々危険ではあるが、指でその部分を探れば、カバンの中に入っていても、どちらだかわかってしまう。
このまま修理せずに使ったほうが便利かもしれない(笑)
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奈良より帰宅


SIGMA DP1 Merrill

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帰宅した。
奈良に一泊してきた。
日光と同じで、同じところに泊まり、同じところに行く。
具体的には奈良ホテルに泊まり、飛鳥大仏に挨拶に行く・・というコースだ。
それに多少アレンジを加え、今回は新薬師寺も訪れてみた。

奈良でもひとつのパターンが出来上がりつつある。
あちこちを観光して回るのより、余裕があってずっといい。
歴史のある町なので、それでも毎回新しい発見に出会える。
食べ物に関しても、美味しいところがいっぱいある。

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奈良にて


SIGMA DP1 Merrill

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朝早く家を出て、家族で奈良に来ている。
今はホテルの一室でこれを書いている。

旅行・・とは言っても、あちこちを観光して回るものではない。
飛鳥まで行き、飛鳥大仏に会ってきた。
前回来た時とまったく同じ。
それが目的で来たのだ。



今日の時計ベルト。
バセロン・コンスタンチンにヒルシュのデュークのブラックをつけた。

デュークは型押しカーフの比較的安価な製品。
世界でもっともポピュラーなベルトのひとつだという。
確かにヒルシュの製品群の中では中核的存在で、世界中でかなりの数が販売されていると思われる。

ただし現在日本で売られているデュークはちょっと特殊だ。
同じデュークでも海外で売られているモデルや、ヒルシュ社のウエブサイトで見られるものと、形状が違うのだ。
海外のものが少しボテッとした標準的な時計ベルトの形状なのに対し、日本のデュークは小股が切れ上がったようなスマートなデザインである。

実際この17mmに関して言えば、海外のものが17-16なのに対し、日本のものは17-14というように、バックルサイズまで変わってくる。
アンティーク時計と組み合わせる場合は、日本のディークの方がずっとカッコいい。
サイズに関しても、日本のものは20mm以下に限定して小刻みに揃えてあり、小型の時計やアンティークとの組み合わせを意識しているのがわかる。



バセロン用の黒いベルトを探していたが、皮肉なことに本物のワニより、型押しカーフであるデュークの方がよく見える。
バセロンに安価な型押しでは失礼かと思い、今まで組み合わせるのを遠慮していたのだが、これまで購入した黒いベルトの中ではベストといっていいほど、しっくりくる組み合わせになった。

ヒルシュのアリゲーター型押しベルトは、なかなかリアルに出来ていて、遠目では本物と見分けがつかない。
しかも型押しだから斑が揃っていて、いかにもいい革を使っているように見えるのだ(笑)
特にブラックの場合は、本物との区別がつきにくい。
本物の方が偽物っぽく見えることさえある。

フォーマルでの使用を意識して、バセロン用の黒いベルトを探してきた。
しかしそういう場面が年中あるわけでもない。
そう考えると、これで十分かな・・という気になってきた。

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忌わしい記憶


SIGMA DP2 Merrill

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小学生の頃、扁桃腺の手術を受けた。
小さい頃の僕は、すぐに高熱を出し、体温が40度を超えることもしばしばあった。
狼狽した母親が、ぐんぐんと上がっていく体温計を思わず手で押さえたという。
高熱で腎臓がやられる可能性があったため、扁桃腺の除去手術を受けることになったのだ。

広尾の日赤の小児病棟に入院した。
囲まれた中庭にある、そこだけ別世界のような、木造の古い平屋建ての建物であった。
何ともいえない異様な雰囲気が漂っていたが、かつては伝染病患者の隔離病棟として使われていたと聞いて納得した。

野戦病院のように、横一列に並べられたベッドの上で生活しながら、子供たちは自分の手術の順番を待っていた。
まるで死刑執行を待つ囚人のようで、部屋の中では独特の人間関係が形成された。
手術が終わりぐったりとした仲間が、台に乗せられたまま帰ってくると、子供たちははしゃぐのを止め、室内が静まり返った。
次は自分の番か・・という恐怖に、みな複雑な表情をしている。

この手術というのが、非常に恐ろしいものであった。
部分麻酔だけで口からメスを突っ込まれる。
椅子に座らされたまま、喉から扁桃腺を切り取られるのだ。
僕には拷問に近い暴力的な行為に思えた。

手術の時、僕は泣きわめいて大暴れした。
普通の子供なら、程なく観念してしまうのだろうが、僕の抵抗は尋常ではなかった。
口にメスを突っ込まれるなんて、とても受け入れられる行為ではなかった。
大人たちから静かにしなさいと怒鳴られても、はいと素直に聞くわけにはいかない。
最後まで諦めることなく、暴れまくった。

先生や看護婦さん数人が集り、みなで僕の四肢や首を掴み、椅子に固定しようとした。
暴れる僕を、大人たちが必死になって押さえつけた。
長い時間をかけて、僕の口をこじ開けた。
そしてメスを突っ込み、ついに扁桃腺を切除した。
口から大量の血とともに肉の塊が引っ張りだされたのを覚えている。
暴れる相手に対し、それだけのことをしようというだから、さぞや大変だったろうと思う。

後から聞いた話では、日赤はじまって以来の大暴れをした子供だと、院内で噂になったという。
顔に血の付いた包帯をぐるぐると巻かれて、身動きできない状態で病室に運ばれてきた僕を見て、他の子供たちは恐怖に凍りついた。
暴れた代償が、交通事故の重症患者のような、包帯まみれの姿であった。
僕は話すことも出来ないまま、包帯の隙間から、彼らのひきつった表情を見ていた。

先日喉が痛くて、いつもの医院に行った。
先生は僕の体温を測定した後、木製のへらで舌を押さえて喉を見た。
「ああ、腫れているね」
僕は、子供の頃扁桃腺の手術を受けたことを話した。

「それで熱が出ないんだね。これだけ赤ければ、普通高熱が出ているよ」
と先生が言われた。
そういえば、僕は自分が滅多に高熱が出ない体質であることに気付いた。
たぶんあの手術以降だ。
風邪をひいてフラフラしていても、測ってみると大した熱ではない。

「その手術を受けてよかったと思うよ」
先生にそう言われて、僕ははっとなった。
あの手術の記憶は、僕にとってずっと忌わしいものであった。
しかし、もしかしたら僕はあの手術に救われたのかもしれない。
40年以上経って、初めてそう気付いた。
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見学


SIGMA DP2 Merrill

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今日はビッグサイトに展示会を見に行った。
たまには見学する側で参加するのも面白い。
喉が痛かったのも忘れて、会場を夢中になって歩き回った。
抗生物質で抑えていることもあり、けっこう元気であった(笑)



今日の時計ベルト。
ジャガー・ルクルトにジャン・クロード・ペランのバッファローのブラックをつけた。

前回20mm幅で作り、非常に気に入っていたバッファローのふたコブを、ルクルト用に18mmで作った。
素材はバッファローのブラックPB23、型はD型のドーム(二コブ)、糸は手縫いのシングルステッチにして、色は前回より少し明るいNo.495のシルバーグレーを選んだ。
ステッチを強調して、スポーティな雰囲気を出したのだ。

前回通常の牛革を選んで失敗した裏材は、今回はアンチスエットのラバーを選び実用性を上げた。
ふたコブという立体的な形状を生かすために、サイズは18-16にして、あえて細くはしなかった。
前回同様、つや消しでしわの多いところを使って欲しいという注釈をつけた。

コブの形状は、前回とまったく違い彫が深い。
気紛れで形を変えたように見えるが、それもまたペランらしいところ(笑)



このタイプは2回目ということもあるが、非常にいい。
ルクルトが精悍さを増し、抜群にカッコよく見える。

やはりJ.C.ペランのオーダー品は、特有の品質感がある。
手縫いのステッチに多少の乱れはあるのだが、見た瞬間に欲しくなるような不思議なオーラを放っている。
シャープな形状にも、ペランならではの品のよさがある。

これは予想だにしなかったのだが、何と1ヶ月と数日で出来上がってしまった。
3ヶ月以上は覚悟していたのだが、暇なシーズンだったのだろうか?
それともたまたま気が向いて、すぐに作ってくれたのか・・・(笑)

早ければ文句はあるまいと言われそうだが、この不安定さがペランらしいところで、一体どうなっているんだと言いたくなる。
腕はいいのだが、なかなか言うことを聞いてくれない頑固な職人・・という感じで、実に面白い(笑)

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SIGMA DP2 Merrill

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少し喉が痛い。
週末に旅行も控えているので、今日は早めに休む。



今日の時計ベルト。
ロンジンのクオーツに石国ロコッテの「雅(みやび)」をつけた。

同社はソラマチ内にウォッチェルト1492というちょっとモダンな店舗を出している。
東京スカイツリーのお膝元である墨田区に本社がある関係もあるだろう。

スカイツリーに因んだ商品がいくつか売られているが、そのひとつがこの紫色の時計ベルトである雅(みやび)。
いわずと知れたスカイツリーのライトアップイメージである粋(いき)と雅(みやび)に合わせて作られたもので、当然これ以外にライトブルーの粋もある。
ごく普通の牛革であるが、あまり見かけない色のベルトである。
同店では、オリジナルの時計と好きな色のベルトを、購入者が自由に選べるという、ベルトのプロならではの面白い企画も行っている。

純日本製のベルトということで、最初はグランドセイコー・クォーツとの組み合わせを考えていた。
しかし生真面目なデザインで、淡いブラウンの混ざるGSの文字盤と相性が悪く、何となくしっくりこない。
カン幅18mmの時計でいくつか試してみたら、意外にもゴールド系の時計とマッチすることがわかった。
ゴールド(濃厚な黄色?)というカラーを構成する要素の中に、ベルトの色と何か共通項目があるのだろう。

父親の愛用していたこのロンジンは、クォーツとはいえデザインはモダンで洗練されている。
それゆえに、こいった遊び心もスムースに受け入れてくれる。
エレガントさの中にポップな要素も加わった、なかなか大胆で素敵な組み合わせになったと思う。

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見解3


SIGMA DP1 Merrill

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例の「Dバックル装着時ベルト方向正逆問題」。
「国内ナンバー1のベルトメーカーであるB社から回答をいただいた。
B社ではシングル(片開き式または三つ折式)は逆方向、ダブル(両開き式または観音式)は正方向で取り付けた写真を、自社サイトに載せている。
その点に関して、B社としての見解をお聞きした。
(以下例によって要約したもの)

「ご質問の通り、ベルトの方向は、三つ折式が通常の逆、観音式が通常通りが多いですね。
これといった決まりはなく、「慣れ」に配慮して設定していると思います。
私見ですが、お好みでお使いいただければ、それでよいと考えております。
三つ折バックルは、ブレスレットと同様の開閉感覚を優先し、6時側にバックルを付けることが多いようです。
「左手首につけ、身体側に向けてバックルを閉じる」この習慣と逆にすると違和感を覚える方がおられるのではないか?という考えです。
観音式は駆動部分が短く両側にあるため、ベルト先端をループに通す感覚や、平に置いた場合の見た目の「慣れ」を優先し、通常と同様にすることが多いようです。
革ベルトにバックルを付けるモデルは、ブレスレットの後発と思います。
それがこのような設定を生むことになったのではないでしょうか。
ご参考になれば幸いです」

さすがにベルトの専門家の意見である。
納得できる論理性を感じる。
これで大体意見は出揃ったが、基本的には「お好きなほうでどうぞ」ということのようだ(笑)
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