酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

醒めた焔が立ち昇る~広瀬隆緊急講演会に参加して

2012-07-07 23:03:55 | 社会、政治
 福島原発を検証した国会事故調の報告書が提出され、<地震による電源喪失>と<事故=人災>が公に認められた。とはいえ、野田政権が真摯に受け止め、大飯原発をストップする可能性はゼロである。

 金曜夜の官邸前デモには仕事の関係でなかなか参加できないが、熱気の幾許かに触れようと広瀬隆緊急講演会(4日、文京区民センター)に足を運んだ。急きょ開催が決まった同会に、主催者の予想を上回る参加者(400人弱)が集まった。    

 講演内容を正確に伝えるには、俺はアバウト過ぎる。ユーストリームのサイトで「終焉に向かう原子力」(主催者名)と検索すれば、当日の映像に行き当たるので、ぜひご覧になってほしい。
 
 広瀬氏はサイエンティスト、アジテーター、オルガナイザーの三つの貌を持つ。経産省、東電、関電、各自治体などが公表したデータを分析して反転させ、<反原発の根拠>に変えていく。知と理に則った上で情念を爆発させる広瀬氏の背後に、醒めた焔が立ち昇っていた。

 3・11以前は集まりが悪い講演会が多かったが、広瀬氏は開場時、必ず場内にいた。今回も同様で、69歳の広瀬氏は講演終了まで3時間、立ちっ放しである。その姿に重なるのは、谷川雁の著書に登場する「工作者」だ。常に相手と膝を突き合わせ、同じ目線で同志的結合を形成していく。

 広瀬氏は国会事故調にかかわった田中三彦氏をはじめ、様々な分野の研究者や技術者に教えを請い、論拠を積み上げていく。小出裕章氏や広河隆一氏とは長年、強固な信頼関係を築いてきた。<原発こそ改革のスタートライン>と説く古賀茂明氏とは官邸前のデモで出会い、交流が始まった。

 前稿で<多くの企業が脱原発に舵を切りつつある>と記したが、広瀬氏には企業からの講演依頼がいくつも来ている。名古屋では300人以上の経営者が集まったが、居合わせた民主党幹部の秘書たちに愕然としたという。主催者が発言を求めても、口を閉ざしたままだったからである。〝もの言えば唇寒し秋の風〟が民主党の体質なのだろう。

 脱原発を支持する吉原毅氏(城南信用金庫理事長)と意気投合した広瀬氏は、吉原氏の命名による基金「正しい報道ヘリの会」を同金庫に開設した。反原発デモを黙殺するメディアに対抗するためだが、カンパは数日で700万円(一回の飛行に必要なのは100万円強)を超えた。その殆どが、広瀬氏が知らない個人や企業から寄せられたものという。

 経産省のデータでは今年3月までの15カ月間、一般用発電機の生産量は全国で原発9基分の880万㌔㍗に達した。近畿経済産業局の同時期の統計では236万㌔㍗で、くしくも大飯原発2基分と同じ数値だ。4月以降、この動きは加速しており、関西では大企業が続々と自家発電機を導入している。節電とは想定不要の仮説の上に成立した中小零細企業いじめの愚策なのだ。

 関電は一昨年の偏西風蛇行による猛暑をベースに、15%の節電を要請しているが、昨年程度の気温なら必要ない。猛暑だったとしても、午後2~4時に企業や個人が発電機を起動させれば、ピーク電力をクリアできる。公的機関のデータを示した広瀬氏は、<原発ゼロでも電力供給は十分可能で、地域を問わず節電は一切不要>と断言する。

 野田首相は「原発が稼働しなければ病院も停電する」と脅しをかけたが、病院や学校など一定の規模を持つ建物は、送電が途絶えても混乱を来さないよう非常用電源の設置を義務付けられている。一国の首相が堂々と嘘をつき、メディアが追認する。まさに〝国家的詐欺〟といえるだろう。

 原発は地震時、原子炉に制御棒が突っ込まれ、運転を停止する。冷却用の外部電源が必要になるが、福島では送電塔も地震と津波によって倒壊した。危険性を認識した関電は昨年、図解入りで大飯原発の安全対策を公表したが、背後の斜面が崩落する可能性が指摘されている。 

 真夏のピーク時、若狭湾で地震が起きれば、大飯原発は崩壊熱の除去を開始する。福島のように送電不能の状況に至れば、どうなるか。関電は<大飯3・4号機では外部電源喪失⇒全電源喪失に至る確率は60%>という数値を発表している。研究者の学説、地震史を援用しながら、広瀬氏は大飯3号機直下の活断層の存在、地表のズレが起きる危険性を提示した。野田首相の「安全宣言」の根拠はどこにも見当たらない。

 衝撃的だったのは、TBSが先月末に放映した、福島原発から廃棄物が放出される映像だ。結果として周辺地域で空間線量が一気に上昇する。福島4号機のプールに入っているセシウム量は、1940~70年代に行われたすべての核実験で大気中に放出された量を上回る。広瀬氏と対談したガンダーセン氏は、<4号機が倒壊したら地球規模の巨大汚染が起こる>と警告している。

 電力会社の株主総会で脱原発の提案がことごとく否決されたのは、委任状を提出した銀行の意向が大きい。一蓮托生の電力会社を潰したくない銀行だが、東電や関電が原発以外のエネルギーを志向して生き残る方策があれば了承するかもしれない。脱原発側が目指すのは東電崩壊ではなく原発停止だ。ならば、その道を探ってみよう……。こう考えた広瀬氏は、上記の古賀氏に知恵を拝借する予定という。

 今回の講演会で最も心に響いた言葉は、「広瀬を信じるな」だ。「私の言うことはまず疑い、自力で調べ、考えろ」と続けた。受け売りはやがて忘れる。俺も当ブログで「節電は不要」と記してきたが、いつしかメディアに洗脳され、あやふやになっていた。「○○信者」になってはいけない……。これも当講演会の教訓だった。
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