酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「スペシャルズ」~スクリーンに迸る血の通ったリアリティー

2020-10-13 20:09:14 | 映画、ドラマ
 飢餓救済が評価され、世界食糧計画(WFP)にノーベル平和賞が授与された。その活動に敬意を表したいが、WFPを傘下に置く国連は、飢餓の原因といえる紛争、グローバル企業による簒奪に抑止力を発揮しているのだろうか。常任理事国5カ国は大量の武器を輸出する〝紛争創出装置〟、グローバル企業の〝伴走者〟であることは否めないからだ。

 飢餓とまでいわないが、米国の現状も深刻だ。前稿の枕で、コロナ禍による失業者、困窮家族救済を軸とした共和・民主両党の協議を打ち切ったトランプを批判したが、CNNやNHK・BS1を見ていると、同国の貧困がコロナ禍で臨界点に達していることが窺える。公平な社会(≒社会主義)を訴えるバーニー・サンダース、その影響を受けた<民主党プログレッシヴ>への支持が拡大しているのは当然だ。

 「デモクラシーNOW!」のHPには、貧困問題に取り組むウィリアム・バーバー師の言葉が紹介されている。いわく「米国人の半分近くは貧困で,コロナ禍以降、生活苦に喘ぐ人は数百万増えている。それにもかかわらず、大統領選では格差と貧困が無視されている」(趣旨)……。多くの弱者が喘いでいるのは米国だけではない。

 新宿で先日、仏映画「スペシャルズ」(19年)を見た。監督・脚本は「最強のふたり」(11年)で全世界の注目を浴びたエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュのコンビだ。「最強のふたり」は人生の意味を問う至高のエンターテインメントだった。本作もその延長線上かと想像していたが、同じく愛をメインテーマに据えながら、全編シリアスなトーンに貫かれていた。

 本作の主人公は2人の男だ。自閉症の青少年のための介護施設「正義の声」代表のブリュノ(ヴァンサン・カッセル)と、ドロップアウトした問題児と向き合う「寄港」運営者のマリク(レダ・カテブ)である。両者は親友で、二つの組織は一心同体なのは、「寄港」で更正したディラン(ブライアン・ミアロンサマ)が「正義の声」スタッフになったことに表れている。

 「正義の声」は未認可で赤字経営。働く者の多くは無資格で、仕事はハードで低賃金というのは、日本の介護の現場と変わらない。厳しい状況に身を置きながら笑みを絶やさぬブリュノとマリクの合言葉は「何とかする」……。だが、「正義の声」に厚生省の査察が入り、〝何ともならない崖っ縁〟に追い詰められる。  

 ブリュノとマリクは矜持、侠気、反骨精神に溢れ、子供たちを守るために体を張っている。本作は実話に基づいており、ブリュノ、マリクだけでなく登場する子供たちにも実在のモデルがいる。だからこそ、スクリーンに血の通った骨太のリアリティーが迸っている。

 電車の警報ボタンを押す癖があるジョセフは、試用期間(1週間)を設けられて工場で働くことになったが、他者への距離感を掴めず、正式採用は認められなかった。自損行為を防ぐためヘッドギアを装着したヴァランタンが、ディランが目を離した隙に失踪したことで、「正義の声」の存続は難しくなる。

 査察官とブリュノの直接対決が本作のハイライトだ。血の通わないデータや資料に拘泥する査察官に、ブリュノは怒りをぶちまける。「正義の声」に収容されている青少年の状況を説明しながら、「数十人の入居希望者を含め、あなたたちが全員引き取ってくれ」と迫るブリュノに、査察官は声を失くした。

 <官→民>は新自由主義の常道だが、フランスでは<官>に見捨てられ、たらい回しにされた重症の自閉症に苦しむ少年たちが、<民>すなわち「正義の声」にたどり着く。ブリュノたちの奮闘により法律が改正され、民間への委託が拡大する。ラストのチャリティーショー、子供たちがスタッフとともにバスケットやサッカーに興じるシーンに希望の灯が射していた。

 ブリュノがユダヤ人、マリクがイスラム教徒という設定も興味深かった。憎み合うはずの二人だが、世界観と高邁な目的を共有するから手を携えることが出来る。ちなみにブリュノは〝出会い系〟にはまっている。彼に思いを寄せている秘書の女性が気を揉んでいることに気付いていないようだ。

 ここ数年、関心が薄れていたNFLだが、今季は週に1、2試合見るようになった。贔屓のシーホークスが開幕5連勝と好調なこともある。HCはブリュノに似た熱血タイプのピート・キャロルで、2度目のスーパーボウル制覇を期待したい。
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