酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

魔女が説くベーシックインカムの可能性

2018-04-24 23:08:46 | 社会、政治
 19日の放送(横浜対巨人戦)で声がかすれていたので心配していたが、衣笠祥雄さんが大腸がんで亡くなった。巨人ファンだった俺が10代後半、広島に〝浮気〟したのは、同郷でもある衣笠さんの存在が大きかった。フルスイングを貫き、何度も絶不調に陥りながら、そのたび復調する衣笠さんを応援していた。

 衣笠さんに惹かれたのは、〝影〟の部分だった。父はアフリカ系の米軍兵士で、子供の頃、差別されたこともあったはずだ。広島入団後も芽が出なかったが、根本陸夫、関根潤三、広岡達朗ら指導者に恵まれ成長する。記録では山本浩二に及ばないが、ジョーダンに対するロッドマン、武豊に対する藤田伸二のような記憶に残る存在感があった。〝不良の心〟がわかる衣笠さんと江夏豊との交遊は、「江夏の21球」に凝縮されている。

 心優しき鉄人かつ哲人でもあった衣笠さんの冥福を心から祈りたい。TBSチャンネルで横浜対広島戦を解説した牛島和彦氏は試合前、「きょうお会い出来ると思っていた。日本のロールモデルのような方」と評していた。タフな衣笠さんは「24時間戦える男」を象徴していたと思う。

 先週末、脱成長ミーティング第15回公開研究会「ベーシックインカムの意義と実現可能性を探る」(ピープルズ・プラン研究所)に足を運んだ。問題提起をされたのは堅田香緒里さん(法大社会学部准教授)で、サブタイトルの「魔女化に向けた序章」の意味は後半に明らかになる。

 当ミーティングでは質の高い議論が闘わされる。参加者のひとりは最近、有名私大の総長に就任された。一言居士の俺だが、大学教員、バンカー、官僚、市井の研究者の質疑応答を聞き入るしかない。「ベーシックインカム」、そして堅田さんについて知識がなかったのも俺ぐらいだったはずだ。

 だからというか、堅田さんの〝ギャル風佇まい〟に目を奪われる。「年(38歳)より若く見えるでしょう」と切り出し、来し方を語った。20代は多額の奨学金返済もあって超貧困で、バイトで配ったティッシュや道端の雑草を食べたという。自身の経験から反貧困の運動にも加わった。実践を踏まえ、社会保障とフェミニズムを研究し、ベーシックインカムが有効との結論に至る。

 ベーシックインカムとは<政府が全国民に最低限の生活に必要な現金を定期的に支給する>という制度だ。1970年代、カナダの自治体で実験的に導入され、フィンランドでは今年になって失業者対策として採用されたが、本格的に制度化したケースはない。ちなみに井出英策慶大教授は、ベーシックインカム(お金)ではなく、各種サービスや保障の充実を公平化の道程と考えている。

 導入の前提は格差の是正で、公正と平等が社会に浸透しない限り難しいという批判もある。ベーシックインカムだけでは不公平感は消えないから、法人税アップ、富裕層への支給制限を導入の条件と考える識者もいる。一方で安倍首相の懐刀、今井尚弥秘書官はベーシックインカムに前向きという。管理のツールとして、ベーシックインカムがマイナンバーとリンクする危険性も無視出来ない。 

 堅田さんは戦後日本の成り立ちを説明する。<福祉より環境より経済成長第一>は現在も日本のテーゼだ。自民党が1979年に発表した「日本型福祉社会」には、自主自助の精神を強調し、ナショナルミニマムに否定的だった。自己責任、福祉の効率化のための家庭という考え方は、40年後も変わらない。

 ジェンダー、フェミニズムに、軸は次第に移っていく。日本における女性の地位を、収入の格差だけではなく、賃金として支払われない家事(シャドーワーク)や感情労働という側面から切り取っていく。堅田さんは制度に組み込まれることに抵抗し、反禁欲を掲げる魔女になると宣言していた。シンプルな制度を希求する堅田さんは情念に満ちた研究者といえる。

 税制や社会保障がテーマになると、財源が議論になるが、堅田さんは「私たちは財務省ではない。気にしていたら前に進まない」と斬る。弱者切り捨てが進行しているが、その理由は<財源がない>。その一方で防衛費は増大し、高額な兵器をアメリカに買わされている。財源論は政府が国民を脅すための道具に用いられているのだろう。

 ここ数回、「脱成長ミーティング」に続けて参加している。そのたびに発見あり、驚きありで、自分の世界が広がっているような気がする。次回のテーマ候補は「都市問題」という。時間が合えば足を運びたい。
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