化学兵器禁止機関の調査が始まる前、アメリカはシリアを空爆した。アメリカの正義は実に胡散臭い。イラク戦争で用いた劣化ウラン弾で被曝した自国兵も補償しなかった。「ファルージャ~イラク戦争 日本人人質事件……そして」(13年、伊藤めぐみ監督)には、化学兵器もしくは劣化ウラン弾がもたらした惨状が映し出されている。
先月末のイスラエル軍によるガザ虐殺について、国連安全保障理事会が調査を開始しようとした刹那、アメリカに阻止される。<アメリカ=イスラエル>、そして<ロシア=トルコ=イラン>の二つの〝悪の枢軸〟が中東で対峙しているように見える。
仕事先の夕刊紙(⒘日付)に興味深い記事が掲載されていた。<シリアの緊張長期化→原油価格高騰>は、シェールガス・オイル革命を推進したいトランプ、原油輸出を経済再建の軸に据えるプーチンにとって、最高のシナリオと分析していた。表面の諍いに目を奪われがちだが、米ソが裏で〝握って〟いても不思議はない。
自分たちが与り知らぬ力学で世界が回っていることを、2本のドキュメンタリー(BS1、ともに再放送)で実感した。前稿のタイトルは<供託金ゼロこそ民主主義のスタートライン>だったが、今稿は<監視社会が民主主義を殺す>。民主主義は危機に晒されている。
まずは「透明人間になった私」(2015年、フランス)から。「NSAが世界中のインターネット上にアップされた内容をチェックし、通信を傍受している」……。このスノーデンの告発で、薄々感じていた恐怖が実体を持った。
女性ジャーナリスト(本作のディレクター)、アレクサンドラ・ガンツは監視の網から逃れるため、透明人間(データのない人間)になることを試みる。自身のネット上の痕跡を削除するため様々な人々や機関の協力を得た彼女は、その過程で、グーグル、マイクロソフト、インターネットエクスプローラーが権力や企業と繋がっていることを知る。
中国がグーグルを遮断した時、「自由への圧力」と世界中で非難された。岸博幸慶大教授(小泉政権で安全保障を担当)が「ニュースの深層」(10年)で指摘したグーグルの恐ろしさは、本作と通底している。電通で情報分析を担当していた知人も、「反原発、辺野古移設、戦争法といった〝危険ワード〟をヒットしづらくすることは十分可能」と話していた。
SNSを交流のツールとして活用してきたアレクサンドラは、数カ月の実験で透明人間化に成功する。政治的メッセージの書き込みをやめ、「いいね」が嗜好や思想信条をチェックする材料になっているフェイスブックのアカウントを外す。各種カード類も破棄した。3年後の今、リバウンドしていないか興味がある。
「プリ・クライム~総監視社会への警告~」(⒘年、ドイツ)も「1984」的社会を抉っていた。映画「マイノリティ・リポート」(02年、スティーヴン・スピルバーグ監督)に登場するプリ・クライム(犯罪予防局)が現実になったことをシカゴとロンドンでリポートしていた。
シカゴ警察は大学と協力しヒートリスト(犯罪予備軍)を作成した。暴力事件を起こす可能性が高いとしてリストアップされた青年の親友は、銃撃されて亡くなった。確かに彼は賭博や薬物での逮捕歴はあるが、暴力的な傾向はない。ヒートリストの根拠になるアルゴリズムは公開されていないが、監視カメラ、カウンセリング歴、SNS、交遊関係、スマホのアプリも〝材料〟になっている。
アメリカでは企業が保持する膨大なデータが、民主・共和両党、政府、警察に流れている。個人情報蓄積に〝貢献〟しているのは、「透明人間――」でも指摘されたグーグルやアップルで、人々は数値化されている。先端を行っているのは中国だという。
シカゴ警察のヒートリストと同じ仕組みで運用されているのがロンドン警察のマトリックスだ。トットナムで暮らす青年が、危険人物としてリストアップされる。元警官によれば、ギャングと無関係な者もマトリックスに組み込まれているという。既に〝犯罪〟から〝政治〟に敷衍していることは言を俟たない。本作のディレクター、マシアス・ヒーターの厭世的なモノローグに共感を覚えた。
世紀が変わった頃、ある有力政治家は「インターネットは決して自由へのツールにならない。遠からず権力や資本を持つ側に収斂される」と話していたという。予言は的中した。俺はどうタグ付けされているのだろう? <反権力志向の強いスキゾ的な怠け者。危険度1>といったところか。
先月末のイスラエル軍によるガザ虐殺について、国連安全保障理事会が調査を開始しようとした刹那、アメリカに阻止される。<アメリカ=イスラエル>、そして<ロシア=トルコ=イラン>の二つの〝悪の枢軸〟が中東で対峙しているように見える。
仕事先の夕刊紙(⒘日付)に興味深い記事が掲載されていた。<シリアの緊張長期化→原油価格高騰>は、シェールガス・オイル革命を推進したいトランプ、原油輸出を経済再建の軸に据えるプーチンにとって、最高のシナリオと分析していた。表面の諍いに目を奪われがちだが、米ソが裏で〝握って〟いても不思議はない。
自分たちが与り知らぬ力学で世界が回っていることを、2本のドキュメンタリー(BS1、ともに再放送)で実感した。前稿のタイトルは<供託金ゼロこそ民主主義のスタートライン>だったが、今稿は<監視社会が民主主義を殺す>。民主主義は危機に晒されている。
まずは「透明人間になった私」(2015年、フランス)から。「NSAが世界中のインターネット上にアップされた内容をチェックし、通信を傍受している」……。このスノーデンの告発で、薄々感じていた恐怖が実体を持った。
女性ジャーナリスト(本作のディレクター)、アレクサンドラ・ガンツは監視の網から逃れるため、透明人間(データのない人間)になることを試みる。自身のネット上の痕跡を削除するため様々な人々や機関の協力を得た彼女は、その過程で、グーグル、マイクロソフト、インターネットエクスプローラーが権力や企業と繋がっていることを知る。
中国がグーグルを遮断した時、「自由への圧力」と世界中で非難された。岸博幸慶大教授(小泉政権で安全保障を担当)が「ニュースの深層」(10年)で指摘したグーグルの恐ろしさは、本作と通底している。電通で情報分析を担当していた知人も、「反原発、辺野古移設、戦争法といった〝危険ワード〟をヒットしづらくすることは十分可能」と話していた。
SNSを交流のツールとして活用してきたアレクサンドラは、数カ月の実験で透明人間化に成功する。政治的メッセージの書き込みをやめ、「いいね」が嗜好や思想信条をチェックする材料になっているフェイスブックのアカウントを外す。各種カード類も破棄した。3年後の今、リバウンドしていないか興味がある。
「プリ・クライム~総監視社会への警告~」(⒘年、ドイツ)も「1984」的社会を抉っていた。映画「マイノリティ・リポート」(02年、スティーヴン・スピルバーグ監督)に登場するプリ・クライム(犯罪予防局)が現実になったことをシカゴとロンドンでリポートしていた。
シカゴ警察は大学と協力しヒートリスト(犯罪予備軍)を作成した。暴力事件を起こす可能性が高いとしてリストアップされた青年の親友は、銃撃されて亡くなった。確かに彼は賭博や薬物での逮捕歴はあるが、暴力的な傾向はない。ヒートリストの根拠になるアルゴリズムは公開されていないが、監視カメラ、カウンセリング歴、SNS、交遊関係、スマホのアプリも〝材料〟になっている。
アメリカでは企業が保持する膨大なデータが、民主・共和両党、政府、警察に流れている。個人情報蓄積に〝貢献〟しているのは、「透明人間――」でも指摘されたグーグルやアップルで、人々は数値化されている。先端を行っているのは中国だという。
シカゴ警察のヒートリストと同じ仕組みで運用されているのがロンドン警察のマトリックスだ。トットナムで暮らす青年が、危険人物としてリストアップされる。元警官によれば、ギャングと無関係な者もマトリックスに組み込まれているという。既に〝犯罪〟から〝政治〟に敷衍していることは言を俟たない。本作のディレクター、マシアス・ヒーターの厭世的なモノローグに共感を覚えた。
世紀が変わった頃、ある有力政治家は「インターネットは決して自由へのツールにならない。遠からず権力や資本を持つ側に収斂される」と話していたという。予言は的中した。俺はどうタグ付けされているのだろう? <反権力志向の強いスキゾ的な怠け者。危険度1>といったところか。
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