酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

競馬は世相を映す~POGドラフトを終えて

2013-06-18 23:21:49 | 競馬
 競馬が文化だった頃、作家たちの予想や観戦記がメディアを賑わせていた。<競馬に市民権>なんて低いレベルではなく、ギャンブルに付きものの狂おしさや魔性も行間に滲んでいる。代表格は寺山修司だが、前々稿で紹介した古井由吉も「優駿」などに寄稿していた。

 競馬サークルはある時期まで職人社会だった。馬主から騎手変更を求められてもはねつけ、愛弟子を守る調教師も多かった。だが、<社台にあらずんば人にあらず>という現状で、競馬界の構造は大きく変化した。世間よりずっと前に、<勝ち組>と<負け組>の差が鮮明になっていた。

 <1%>のど真ん中にいた武豊に異変が生じる。ケガもあったが、社台との絶縁によって<99%>の側に落ちてきた。WOWOW製作のドキュメンタリーでは、苦悩する武の姿を追っていた。武は言葉を選びつつ、以下のように語っていた。

 <離れていく人が悪いのではない。そういう状況をつくった自分が悪いのであって、取り返していけばいい。一番つらいのは、離れずに見守ってくれる人たちの馬で結果を出せないこと……>

 その馬とはキズナだった。弥生賞で結果を出せず(5着)、「再スタートのためには負け慣れることも必要」と悄然とした面持ちで語っていた武だが、2カ月後に喝采を浴びる。「武で駄目だったら諦める」と語る前田晋三オーナー、「いつも通りの戦法(後方待機)で差し切れなかったら仕方ない」とコメントする佐々木調教師……。武=キズナのダービー制覇を支えたのは、一昔前の義理と人情だった。

 競馬界で侠気といえば、まず思い浮かぶのが藤田伸二騎手だ。最新刊「騎手の一分 競馬界の真実」は、岩田と福永に対する批判が注目されるなど暴露本との評判だったが、競馬界の現状を憂う藤田の思いが込められていた。大金が動くビジネスである以上、関係者は利潤を追求する。そこで生じる歪みの是正を怠るJRAに、藤田は警鐘を鳴らしていた。

 こわもてで知られる藤田だが、安全な騎乗に定評があり、フェアプレー賞を15度も受賞している。本書は引退を決意した上での〝遺言〟で、とりわけ各騎手の技術分析には説得力があった。藤田が<柔らかく先を見据えた騎乗>と絶賛する横山典はダービー直前、コディーノから降ろされた。藤沢和調教師は自身の決断と公言したが、事情通によれば社台サイドの指令という。発刊が1カ月後だったら、藤田は怒りの一文を書き加えたに相違ない。

 角居調教師が来年、2歳馬を預からない旨を発表した。JRAによる馬房制限により、委託馬の管理が限界にきたというのが理由である。角居厩舎は社台の信頼が厚く、勝利の積み重ねで馬房数を増やしてきた。JRAに対する抗議といえるが、経営が立ち行かなくなっている中小の調教師たちは、決定を了承しているはずだ。推定でしか語れないが、現在の日本が抱える格差問題とリンクしている。競馬界は世相を映す鏡なのだ。

 先週末、POGのドラフト会議が開催された。今年は改修のため夏の札幌開催が行われないため、入厩馬、馬名決定馬が例年より少なかった。会議は手詰まりになり、予想以上に時間がかかった。俺の指名上位10頭を以下に記す。

①ステファノス(ディープインパクト/牡・藤原英)
②シュタインベルガー(ディープインパクト/牡・国枝)
③Ice Mintの2011(シーザスターズ/牡・西園)
④トップオブスターズ(シーザスターズ/牡・戸田)
⑤エルノルテ(ディープインパクト/牝・音無)
⑥スウィートレイラニ(ディープインパクト/牝・二ノ宮)
⑦ライザン(ネオユニヴァース/牡・矢作)
⑧テスタメント(ディープインパクト/牡・小島茂)
⑨レッドラヴィータ(スペシャルウィーク/牝・音無)
⑩ディスキーダンス(ステイゴールド/牡・手塚)

 供用3年で死んだチチカステナンゴの1年目は失敗だった。社台は来年以降、ハービンジャーとワークホースで勝負するが、ともに欧州の重厚な血統で、日本の軽い馬場に向かない可能性もある。産駒が振るわなかった時、競馬ファンは「驕る社台は久しからず」と呟くだろう。一方のマイネル軍団(ビッグレッドファーム)はアメリカの2冠馬アイルハヴアナザーで対抗する。岡田繁幸氏の勝算やいかに……。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 安保の精神は何処へ~起点は1... | トップ | 「ヘヴン」に感じた川上未映... »

コメントを投稿

競馬」カテゴリの最新記事