日々のことを徒然に

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土に返る家

2020年06月02日 | エッセイサロン
2020年06月02日 中国新聞セレクト「ひといき」掲載

 棟梁の知人がいる。大工仕事に魅了され、脱サラした元同僚だ。大工に弟子入りし、また夜学に通って修業を積んだ。―級建築士の資格を得てから独立、もう20年余りになる。

 家には寿命がある。必ず解体される時が来る。彼はその時を考える。材料が土に返ることができるよう、「木の家」にこだわる。
 彼の建築現場に行くと、墨入れされた材木が、昔ながらの大工道具ののこ、かんな、のみなどで柱や梁に姿を変え、棟上げを待っている。昔の普請現場に近い。

 そんな彼がある店に立ち寄ったところ、たまたま古い大工道具の展示会が催されていた。その一つに刃の赤さびたかんながあった。彼は長年の大工が大切に使った物と直感、購入した。
 かんなの台は作りに狂いがなかった。刃を外して丁寧に研ぐとよみがえった。再び、刃を取り付けてかんな掛けをすると、きれいなくずが舞うように出た。

  「かんなを作った職人と、かんなを大切に使った大工の技がある」と彼は言う。私は、かんなも息を吹き返してさぞ喜んだろうと思った。

 土に返すこだわりは壁にも見える。「竹の木舞」を組み、壁土で仕上げる。柱や梁、ぬきなどのつなぎに金具はない。ほぞ穴に手作りした木製のくさびを打ち込む。木組みを知り尽くした造作に木の家を作るという細やかな気遣いがある。

 難点もある。彼の建築手法では時間かかかる。だからこそ、彼の手作りした家がいい。新築見学の案内を待ちたい。
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