日々のことを徒然に

地域や仲間とのふれあいの中で何かを発信出来るよう学びます

氷の塊

2024年08月27日 | エッセイサロン
2024年08月27日 毎日新聞「男の気持ち」掲載

 今年の夏は今までにない異常な暑さを感じ、これほどエアコンに頼ったことはないように思う。そんな暑さから、かき氷が飛ぶように売れるという映像を見ながら、氷にまつわるあることを思い出す。
 父の葬儀は58年前の初秋だった。その日は、残暑の非常に厳しい日たった。当時は自宅葬の時代で、葬儀は喪主の希望に沿い、近所の皆さん方の取り仕切りで営まれた。
 葬儀後にそんな皆さんに冷たい物を飲んでもらおうと思うが、その頃は冷えた飲み物など売っていない。そこで、当時ひと塊1貫目(3・75㌔)の氷塊を2個購入。風呂に水を張って氷塊を入れ、瓶ビールやサイダー、ジュースなどを冷やした。
 葬儀は滞りなく終わった。世話人さんが、飲み物を冷やしておいたことを「ええ思いつきじゃった」と声を掛け、グラスにビールを注いで祭壇に向けて軽くささけ、そして一気に飲まれた。その時の喉の動きは、今も目に焼き付いている。どれほどの暑さだったかがうかがえた。
 入院するまで、父は晩酌を欠かしたことはなかった。この世話人さんの飲みっぷりを、遺影の向こうからほほ笑みながら喜んで見ていただろう。時は過ぎたが、当時お世話になった近所の皆さんの顔を今も思い出す。

 (今日の575) 講うちの繋がり今は消え失せし
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