玄関のドアを開けた。高温注意情報が出ているにふさわしい青空。午後の日が照りつけるタイルの上に、少し大きめの虫がいる。背を下に、足を上にしている。虫の普通の姿勢ではない。
つまみあげてみると「セミ」。脱皮してそれほど経っていない、そう思わせるほど小さくてよわよわしい。右側の羽根が絡まったようになっている。絡まりをといて手のひらにのせる。わずかに足を動かすくらいで飛ぶ様子はない。しばらくして手のひらから腕のほうへ、ゆっくりゆっくり動き始めた。
根元からセミが生まれ出た実績のある庭のクロガネモチの枝に移した。動かない。蟻が寄ってきた。するとうるさそうに足を動かす。蟻は近づけない。セミは身を守っている。が、そこから動かない。とどまっているとこは葉陰で、鳥などに見つかる心配はないだろうとはなれる。
夕方、水まきの時に見ると、数時間たっているのに手の幅くらい場所を移動しているだけ。まあ、生きている。そっとしておいた。翌朝、探したが姿は見えなかった。
玄関のそばにあるのは鉢植えの小物ばかり。7年の土中生活をするような場所はない。どこから、どうやって、熱いタイルの上にやってきたのだろうか。なぜ羽根が絡まっていたのも不思議。どこかで生き延びて鳴いていることを信じたい。
(写真:クロガネモチの枝へ移した時の子セミ)