いぶろぐ

3割打者の凡打率は7割。そんなブログ。

ロイヤルストレート告白フラッシュエブリディ(加筆)

2006-06-01 02:24:26 | せんせいとよばれて
Tくんという弾けた生徒がいる。
何が弾けてるってもう、言うことなすこと全部。
絶えず動いてる。じっとしてられない。
何かをブツブツつぶやきながらあちらこちらを忙しそうに駆け回る。
とっ捕まえて注意すると目が泳ぐ泳ぐ。早口で言い訳する。
まあ、俗に言う「いい子(=扱いやすい子)」ではない。
だが、決してアブナイヤツでも悪いヤツでもない。
むしろ自分の情動や衝動にとっても正直なヤツだ。
ただ、おおよそ左脳が働いているように見えないのだ。
100%右脳、感覚と衝動だけで生きている様なヤツなのだ。

例えば授業で当てる。すると、
「う~~~む、これはミステリーだ…」
と考え込むそぶりを見せるが、とにかく答えない。
宿題をやってなさそうなので問いつめる。
「先生…これは…名探偵でも解けなかったんです…ちくしょう…!」
と、何に対して怒っているのかよく解らない。
帰る時は誰に言うでもなく、
「じゃあな、あばよ!」
授業中なのに教室から出てきたかと思うと、
「先生!鼻くそをほじくってしまったので、手を洗ってきてもいいですか?!」
手を洗い、教室へ帰り、しばらくするとまた出てくる。
「先生!またしても鼻くそをほじくってしまいました!手を洗いに行ってもいいですか?!」
さすがに注意する。
「T、鼻くそをほじらないという選択肢は君にはないのか?」
「…は、はい!がんばります!」
…いや、努力の問題ではないと先生は思うぞ。
そして10分ほどすれば再び、
「先生!鼻くそを…………」

それで、勉強は出来る方ではない。
どちらかといえばいつも苦しんでいる方だ。
しかしそんな彼にも唯一ともいえる得意技がある。
国旗だ。
世界のどの国の国旗もすべて覚えているのだ。
国名を言うとその国旗の特徴を細かく答える。
国旗を見せてもたちどころに国名を言う。
ほんとうに、常軌では計り知れない可能性を秘めた男なのである。

そんなT君が恋をした。
彼の恋は激しく、熱く、そしてやはり衝動的で正直だ。
彼が恋いこがれるのは同じ学年のSさんだ。
小学生ならではのオールバック型ポニーテールをきちんとまとめあげた、
ややおとなしめの、勉強はきちんと出来る女の子。
その子に向かってTのパッションはほとばしる。
日々、投票前日の選挙カーのごとく、連呼するのだ。

「S~~(すでに下の名前呼び捨てなのである)!大好きだ!!」
「ああ、俺はSと結婚したいよ!」
「S~!!結婚してくれ~~!!」
「先生、俺はSと結婚できたら死んでもいい!」
「ああ、でも死んじゃったらSと一緒にいられない!」
「Aくん!席を交換してくれ!俺はSの隣がいいんです!お願いします!(途中から悲しいくらい敬語)」

ボリュームもテンションも選挙カーを超え、右翼の街宣車の域に達している。
しかも、いきなり結婚を口走ったかと思うとひたすらにそれを連呼する。
哀しいかな、小学5年生の想像力では男女の付き合いの途中過程がないのだろう。
つまり、

【スタート】好きだと告げる
→一緒に帰ったりとか出来る
→あ、あ、あまつさえ手をつないじゃったりなんて…
→ま、ま、万が一にでもキスなんてことになっちゃったらもうどうしたらいいんじゃろこりゃ
→やめろ!なんというイヤらしいことを考えるのだ!俺の気持ちはもっと清らかで…
→結婚だ…!結婚したいぞ!プロポーズしよう!【結論】

ということなのであろう。
しかしTの熱い思い空しく、Sの方はほとほと困り果てている様子。
そらそうだ。一生の問題だもんなあ。違うか。
そして正義感に燃えたSの友人たちは市民団体よろしく俺に訴える。
「先生、Sちゃん可哀想だよ!ストーカーされてんだよ、ストーカー!
いかに饒舌な俺といえども、小学生女子ならではの無邪気なるが故の残酷さというか、
庭の雑草をむしり取るかのごときあまりの無情さに、発するべき言葉が見当たらない。
「ん…まあ、その、ね。好きだって言ってるだけなら…勘弁してやったら…?」
「ひど~~~い!!先生、何とかしてよ!」
「いや、まあ、そりゃあ何か直接手出ししたら怒ってやれるけどさ、好きだって言ってるだけだし…」
「S、同じクラスになっちゃったらどうしようって言ってるよ~。どうしてくれんの~先生~?」
そんなこと申されましても。
てか、なんで俺が責任とらにゃいかんのだ。

ただ、現状では授業には影響するところがない。
学力別クラス編成なのでSは1組、Tは2組なのである。
今のところ学力が適宜距離を設けてくれているのだが、
恋のチカラとは侮れないもので、Tがめきめきと力をつけ始めているのだ。
よく高校生なんかだと、勉強も手に付かずにベタベタしたがる野郎を尻目に、
彼女の方が抜け目なく勉強して、彼女だけが合格、男は浪人、
1年待ってるとか何とか言ってる内に大学でちゃっかり新たな出会いが…
なんてことがよくあるが、それに比べて小学生の慕情はまっすぐで、力強い。
Tの思いは募る。
「ああ、もうこんな時間だ!先生、早く授業を終わらせて、俺をSと一緒に帰らせて下さいよ!」
Tよ、オマエのは「一緒に帰る」ではなくて「尾行する」と言うのだ…。

まあ、素直に感情を表せるというのは素晴らしいことだけどね。
俺はとてもじゃないがそんなことできなかったもんなあ。
フラれるのが恐くて告白すら出来なかった弱っちい思い出ばかりが頭をよぎるぞ。
すげー勇気だと思うよ、実際。尊敬する。
でも、言われる方はどうなんでしょう。
実はそんなに悪い気しないんじゃないかね?
まあ、でも相手にもよるか。結局そこなんだよなあ。
全く同じ行為でも恋人同士なら甘美なる愛の交歓で、
他人同士なら痴漢行為で、同意がなければ犯罪だ。

果たして、Tの恋の行方やいかに。
勤務の帰りに立ち寄ったビデオ屋で、
アメリカ進出も決まり、絶頂期だった頃のX(エックス)の、
その後の運命を暗示するかのようなライブビデオのタイトルが目に入った。

「破滅に向かって」。
気合い入れろコラァ!
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4 Comments

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その昔… (ポンセ)
2006-06-01 04:45:52
「44マグナムなんて大っ嫌いだぁ~♪」とライブで叫んでいた!息吹さんの某先輩にあたる…「九段下の駅で降りて~♪」と歌ったあの御方(バンド)。僕は大好きでした(照笑)…

そして「Xなんて大っ嫌いだぁ~!」と真似てみたものの?笑ってくれたのは?後の僕の彼女だけでした(照笑)…当時のですが(苦笑)

「恋」ってヤツはどこから始まるか解らないモンですよね?

初々しい気がしますが?「ストーカー?」なんだか?寂しい時代だなぁ~?「好きだ~!」って言える意思表\示は素敵な事と思うんですがね?

彼女が「私は○○君が好きなの~♪」とか「好きな人いるの~♪」とか意思表\示すれば?「ストーカー?」なんて言わなくてすむのになぁ。

「失恋」で終わるのに…時代なんですかね?

因みに、僕は「好きだ~!」って言う派です(照笑)
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うけた・・・ (えろもと)
2006-06-01 12:36:49
笑い転げました

近藤先生の手にかかると、どんな生徒でも、個性溢れる魅力ある生徒になっちゃいますね



普通の先生なら、T君はどちらかというと「問題児」の部類に入るんでしょうけど



近藤先生の「目」という、フィルターを通して見えるT君は、とても魅力的です



だから、Sちゃん、振り向いてやれよ~(笑)



またぜひ、途中経過を知りたいものです・・・
返信する
アハハ (神チャソ)
2006-06-01 20:50:49
笑えるね~!

T君に頑張ってもらいたくなるね(笑



SちゃんもT君を認めてやってくれ~!



しかしストーカーだけはやめたほうがいいぞ。T君よ。

女はそういうのを嫌がる生き物なのだ。



自分も乙女だからSちゃんの気持ちわかるよ・・・(笑
返信する
私としては (美佐)
2006-06-02 06:22:35
ハッキリキッパリSちゃんに言って貰って恋愛の押し引きを学んで欲しいモノです

じゃないとせっかく素敵な真っ直ぐさもTくんの損になっている気がして…苦



貴重な存在なので保護モノだとは私も思いますがこのまま行くと…いつか手錠かけられそうですよね…苦





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