僕は泳いでいた。
どこかの室内プールだろうか。
一度、岸にたどりついて、そこで壁を蹴ってターンした気がする。
しかし、それ以降は泳げど泳げど果てがない。
水は深い紺色だった。
現実でもそうであるように、僕は平泳ぎしかできなかった。
泳げなかった子供の頃のトラウマか、
今でも水の中に顔をつけることが嫌いだ。
小学校低学年の頃、いやがる僕の頭を押さえつけて、
無理矢理プールの奥に沈めた先生の薄ら笑いの記憶。
冷たい水に顔をつけると、今でも心臓が止まるような錯覚に襲われる。
だから僕はいつも顔を上げたまま泳ぐ。
クロールは顔をつけざるを得ないし、息継ぎのたびに耳に水が入るので、イヤだ。
だからいつでも平泳ぎ。
のんびり、のんびり泳ぐ。
ところが夢の中では。
僕はちゃんと潜っている。
リズミカルに、潜っては吐き、顔を上げては吸い、
それはうまいこと泳ぐのだ。
ゴーグルをしている様子もないのに、水の中もよく見える。
ちょうどモーレアの海で生まれて初めて体験した、あのシュノーケルのようだ。
不思議と身体は疲れない。
潜る。吐く。上げる。吸う。
これをひたすら繰り返す。
繰り返すうちに僕は順序を間違える。
空気中で息を吐き、水中で思い切り吸い込んでしまった。
ヤバイ、と思った。
蘇る30年前の大阪の北の外れ、山間の小学校のプールでの悪夢。
鼻いっぱいに広がる塩素のにおい。
眼となく鼻となく喉となく広がる、独特の痛み。
…を覚悟したのだが…。
何ともない。
何ともないまま、身体は進んでゆく。
あれ?
水の中でも、呼吸ってできるんだ。。。
夢の中では理屈に合うかどうかなんて、まるで二の次だ。
起きてしまったことを実に抵抗なく受け容れてしまう。
いや、むしろこれこそが僕の本質なのかも知れない。
いつも理屈ばっかり並べているが、それは表層の鎧に過ぎず、
深層では、結局すべては受け容れざるを得ないのだ、
という諦念が支配しているような。
なんだ、じゃあ。
もう水の上に顔を上げる必要なんかないじゃないか。
このままずっと、紺碧の中に顔を埋めて身を沈めて、
どこまでもどこまでも・・・・・
と、手足を動かしている自分に気づいて、目が覚めた。
法事で帰った浜松の田舎の、草深い旧家での、午睡のひととき。
平日のこの時間帯はいつもなら繁忙の極みにあるところ。
ふと見回すと、眠る前に僕がたたき落とした蚊の死骸が、
いくつか畳の上に落ちている。
そのどれもに、小さな小さなアリがたかっていた。
縁側から続く、虫眼鏡でもないとその存在が確認できないような、
食べ物を一心に求める長い長いひとすじの列。
子供の頃と何ら変わらない光景と、
時の流れを思わずにはいられぬ祖父の遺影。
僕の生きる意味は。
僕の行く果ては。
この夢が象徴するものは。
それにしても、蚊が多いな。くそ。
どこかの室内プールだろうか。
一度、岸にたどりついて、そこで壁を蹴ってターンした気がする。
しかし、それ以降は泳げど泳げど果てがない。
水は深い紺色だった。
現実でもそうであるように、僕は平泳ぎしかできなかった。
泳げなかった子供の頃のトラウマか、
今でも水の中に顔をつけることが嫌いだ。
小学校低学年の頃、いやがる僕の頭を押さえつけて、
無理矢理プールの奥に沈めた先生の薄ら笑いの記憶。
冷たい水に顔をつけると、今でも心臓が止まるような錯覚に襲われる。
だから僕はいつも顔を上げたまま泳ぐ。
クロールは顔をつけざるを得ないし、息継ぎのたびに耳に水が入るので、イヤだ。
だからいつでも平泳ぎ。
のんびり、のんびり泳ぐ。
ところが夢の中では。
僕はちゃんと潜っている。
リズミカルに、潜っては吐き、顔を上げては吸い、
それはうまいこと泳ぐのだ。
ゴーグルをしている様子もないのに、水の中もよく見える。
ちょうどモーレアの海で生まれて初めて体験した、あのシュノーケルのようだ。
不思議と身体は疲れない。
潜る。吐く。上げる。吸う。
これをひたすら繰り返す。
繰り返すうちに僕は順序を間違える。
空気中で息を吐き、水中で思い切り吸い込んでしまった。
ヤバイ、と思った。
蘇る30年前の大阪の北の外れ、山間の小学校のプールでの悪夢。
鼻いっぱいに広がる塩素のにおい。
眼となく鼻となく喉となく広がる、独特の痛み。
…を覚悟したのだが…。
何ともない。
何ともないまま、身体は進んでゆく。
あれ?
水の中でも、呼吸ってできるんだ。。。
夢の中では理屈に合うかどうかなんて、まるで二の次だ。
起きてしまったことを実に抵抗なく受け容れてしまう。
いや、むしろこれこそが僕の本質なのかも知れない。
いつも理屈ばっかり並べているが、それは表層の鎧に過ぎず、
深層では、結局すべては受け容れざるを得ないのだ、
という諦念が支配しているような。
なんだ、じゃあ。
もう水の上に顔を上げる必要なんかないじゃないか。
このままずっと、紺碧の中に顔を埋めて身を沈めて、
どこまでもどこまでも・・・・・
と、手足を動かしている自分に気づいて、目が覚めた。
法事で帰った浜松の田舎の、草深い旧家での、午睡のひととき。
平日のこの時間帯はいつもなら繁忙の極みにあるところ。
ふと見回すと、眠る前に僕がたたき落とした蚊の死骸が、
いくつか畳の上に落ちている。
そのどれもに、小さな小さなアリがたかっていた。
縁側から続く、虫眼鏡でもないとその存在が確認できないような、
食べ物を一心に求める長い長いひとすじの列。
子供の頃と何ら変わらない光景と、
時の流れを思わずにはいられぬ祖父の遺影。
僕の生きる意味は。
僕の行く果ては。
この夢が象徴するものは。
それにしても、蚊が多いな。くそ。