「やさしい手」(2010/企画・制作:ミューズ・プランニング/製作:ファインフィルムズ/監督:関根和美/脚本:保坂延彦・関根和美/製作:加藤義久/企画:新田博邦/エグゼクティブプロデューサー:赤井航/プロデューサー:高中義光/撮影監督:下元哲/助監督:山口雄也/録音:飴田秀彦/美術:黒須康雄/編集:新居あゆみ/スチール:小阪和則/制作担当:高橋誠喜/撮影助手:斎藤和弘・浅倉芙里子/照明助手:榎本靖/録音助手:清水オサム/制作進行:綿貫仁/演出助手:新居あゆみ・市村優/スタイリスト:本多徳生/ヘアメイク:相場広美/助手:矢澤睦美/制作デスク:清水由佳/脚本協力:仁瀬由深/メインテーマ:光士老/EED:丸山正浩《エムジェイ》・千葉康将《エムジェイ》/MA:スワラ・プロ/整音:星一郎/整音助手:森田祐一/効果:伊藤克己/選曲:鈴木潤一朗/撮影協力:ハーベスト・厚生水産・SENTO CORPORATION・club Calme Kisarazu・ホテル コスタルーナ・NPO パートナシップきさらづ/衣裳協力:秋本商事株式会社・Angela、他二社/協力プロダクション:株式会社オスカープロモーション・青年座映画放送株式会社・有限会社三輪事務所・株式会社太田プロダクション・株式会社ぱあとなあ・株式会社メロウリップス・株式会社パーティ企画・株式会社ダブルフォックス・原田オフィス・石田企画/制作協力:関根プロダクション・有限会社マジックアワー/出演:水沢アキ、風祭ゆき、大竹一重、白須慶子、志水季里子、原絵里、三上剛史、山口真里、花井美代子、今井和子、すぎ。《インスタントジョンソン》、ゆうぞう《インスタントジョンソン》、じゃい《インスタントジョンソン》、松本勝、SATOMI、日堂圭子、甲斐太郎、なかみつせいじ、弓田和彦、秋本昇一、秋岡妙子、池田知世子、石井淳一、市川美枝子、GYU、サファリ・マジー、芝崎薫、瀬戸晴江、立石武昭、永塚忠弘、畑中靖則、芥善人、前田めぐみ、山口佐智世、吉原英子、渡辺和文、天川真澄、吉田祐健、宮川一朗太)。衣裳協力の他二社が、ポータブル・プレイヤーのチンケな液晶ではロゴを判読出来ず。あとオーラスにはⓒで、「やさしい手」製作委員会がクレジットされる、製作委員会方式なんだ。
夕日や橋の画に加藤義久と新田博邦をクレジットした上で、鴎の飛ぶ空にタイトル・イン。明けて特に不穏な雰囲気も感じさせない、ニュートラルな港の風景に赤井航と関根和美の名前が続く。パート主婦の岩崎葵(水沢)が、ママチャリで快活に出勤。顔見知りと挨拶を交す何気ないカットに、よもやまさかあの男が潜んでゐようとは、後述する。特段重きを置かれるでなく志水季里子含むパート仲間計六人と、葵の前に現れた工場長(天川)は出て来るなり深々と頭を下げ、不況の煽りを受けての水産加工場閉鎖を言明して即座に退場。ピンク映画に於ける女優部三番手も斯くやと思はせる、鮮やかな御役御免が清々しい。とりあへず帰宅、義母・豊子(今井)に失業を報告した葵が夫で漁師の潤一に電話してみると、携帯はハンガーにかゝつた作業着の中で鳴つてゐた。翌日、結局潤一は連絡も取れないまゝ戻らなかつた岩崎家を、かつて潤一の弟子筋で十五年前突然姿を消した島村圭太(宮川)が訪ねて来る。潤一不在につき一旦そゝくさ辞した圭太は、桟橋まで追つて来た葵に青天の霹靂を告げる。圭太が社長を務める(有)ハッピーローンから潤一が三百万を借り、岩崎家家屋も担保に入つてゐるといふのだ。
配役残り、闇雲な頭数に関しては潔く白旗を揚げる。豊子も脳梗塞で倒れ、職探しの要に迫られた葵は電車で街に出る。風祭ゆきは、葵がいきなり門を叩く個室ビデオ「オアシス」の女主人・天地洋子。仕事内容に葵が一晩考へさせて貰つたオアシス二日目、大竹一重が手コキを指南する美香。手しか客には見せないといふのに、服もメイクもキッメキメの藪蛇か頓珍漢な造形が香ばしい。泣きだしてその場を飛び出した葵が、その後あちらこちらで求職に爆死する一連。SATOMI名義の里見瑤子が客を見送つたスナック「とらい」の表で、葵に一瞥呉れるホステス役で艶やかに投入されるのが、天川真澄(ex.綺羅一馬)に続くピンク隊第二の矢。では実はなかつたんだな、これが、だから後述する。更にその翌日、再々度葵がおめおめ出直したオアシス三日目。サファリ・マジーは、洋子が葵を連れ3番個室のブースに入る間、受付を任せられるマジセルフ。ナードなお眼鏡が狂ほしい白須慶子が、控室にもう一人登場するオアシス嬢・るみ。えゝと、僕はるみさんで・・・・黙れ、そして息するのをやめろ。僅かな時間差でまとめて投入されるインスタントジョンソンは、まづじゃいが仕事終りに洋子が葵を誘ふ、バー「HARVEST」のバーテンダー。すぎ。とゆうぞうは遅れて「HARVEST」に来店するサラリーマンと、レオナルド熊風の鉢巻男。頭に来たのを脊髄で折り返し何度でも繰り返すが、徒に句読点を名詞に入れるなアホンダラ、文が乱れるのが気持ち悪くて仕方ない。閑話休題、三人には鎌田・片山・掛川と銘々固有名詞も用意されてゐるやうではあれ、全く以て特定不能。豊子を見舞つた葵は同じ病院の敷地内で、矢張り老婆を見舞ふ圭太を目撃する。また狭い町だな、とついついツッコミたくもなるのは、いはぬが花といふ奴だ。圭太らに声をかける医師が、なかみつせいじぽく思へなくもない―にしては少し若いかなー?―が明らかに録音が遠く、抜かれるのも背中からゆゑ確信には至れず。その直後、葵から呼びとめられるや患者の情報をペラッペラ開陳する、エクスキューズ看護婦が山口真里。関根和美―もしくは保坂延彦―が何も考へずに書くのは勝手だが、山口真里は脚本を渡されて首を傾げるなり匙を投げなかつたのか。と、いふかだな。脚本協力でもう一名加はつてゐたりもする、どうしやうもない地獄の体たらく。船頭多くして山に上るはおろか、船沈めてどうするのか。気を取り直して劇中最強かつ、電撃のワイルド・カードが吉田祐健。手を差し込む穴の開いた、ビデオ個室の薄い壁越し。客の洩らす呻き声で男が顔見知り(吉田)であるのに気づいた、葵が愕然とする件。葵が想起する吉田祐健の笑顔に、何処に出てゐたのかと大慌てでタイトル直後、葵の出勤風景に戻つてみたところ、確かに祐健イタ━━━(゚∀゚)━━━!!ピントも合はせられず、明らかに背景に埋れ。単なる無作為の結果棚ごと牡丹餅が落ちた比類ないウォーリーぶりが、場外馬券売場に紛れ込むのも通り越し極々自然に溶け込む、超絶のステルス性能を誇る新田栄をも凌駕する。それでも探せば見つかるだけ、吉田祐健はまだマシ。あゝも濃い、特濃のオフェンシブな面相を見落とす方が難しい御仁であるにも関らず、何故か甲斐太郎がどうしてもノッファウンドなのが重ね重ね残念無念。といふより寧ろ、直截には心の底から不思議。よしんば音声情報のみでも、逃がしはしない自信ならある。
旧物件デモリッションに伴ふ、必ずしも非といふ訳でもないが半自発的転居後、純然たる業者都合で呆れる勿れ三週間強、新居に通信回線が固定電話分すら繋がらない新ならぬ珍生活。折角なので随分前にレンタル落ちをポチッてはゐた関根和美のVシネで、まさかのフライングを仕出かした、五人目の感想百本に到達するフィフス・ハンドレッドを改めて仕切り直し。なほ、クレジットには2010年制作とあるが、さうすると2010年の何作目に入れたらよいのか判らなくなるため、当サイトのインデックスはピンクの封切り日同様、あくまでDVDの発売日(2011/7/8)に従つた。
パケ裏面に仰々しく躍る惹句が、“女優水沢アキ主演”ד映画初ヌードを披露し”ד衝撃の濡れ場を熱演!!”。尤も、よくある“劇場公開作品”の文言が見当たらない点を見るに、箔づけ上映も端折つた、純粋無垢のVシネである模様。失職と配偶者の借金に、姻族一親等の昏倒。何れもヘビーな、悲運のジェット・ストリーム・アタックに見舞はれた五十路の人妻が、手で扱いて男をイカせる、風俗店の敷居を跨ぐ、初手から。とかいふ、ぞんざいなメロメロドラマ、メロが一個多かつた。そこ、で。水沢アキの“映画初ヌード”ないし“衝撃の濡れ場”を謳ひながら、まあ何はともあれ、何が衝撃といつて水沢アキ映画初ヌードとやらを衝撃的に出し惜しむ。何が何でも出し惜しむ、凄まじく出し惜しむ。驚天動地、空前絶後に出し惜しむ。尺の折返し間際、二度目のシャワーシーンでいはゆる半ケツを拝ませる。のと、宮川一朗太の背中で正常位を頑なに隠し抜く、確かに衝撃ではある締めの濡れ場をも、しかも中途でブッた切つての通算三度目となる事後の矢張りシャワーで、正直あまりでなく有難くもない、萎びた横乳を僅かに覗かせるのが正真正銘関の山。勿体つけるにもほどがあるのか、それともそもそも、満足に見せられる素材では最早ないとする賢慮の働いた、苦渋の落とし処であつたのか。何れにせよ裸要員が木に竹を接ぐのも厭はず狂ひ咲くでさへなく、裸映画的な満足度ないし誠実さは、驚異的もしくは絶望的に低い。それ、でも。然様な痒いところを鎧の上から掻くやうな代物で、代物でも胸が一杯になる水沢アキに捧げられた殆ど信仰にすら片足突つ込みかけた、深く激越な関心を当サイトは別に持ち合はせてはゐないし、その欠如に不明を恥ぢるつもりも無論毛頭ない。そんな中でのまづ撮影部的な見所は、加齢を否応なく感じさせる、葵の目元をレス・ザン・容赦で捉へる非情なカメラと、先に挙げた有難みのない、横乳に続くショット。半分開けた扉を間に挟んだ引きで女優を狙ふ、如何にも下元哲らしい画角。反面目も覆はんばかりなのが、件の、逆の意味で“衝撃の濡れ場”を彩らない、下元哲的に平素のソフトフォーカスから斜め上だか下に箍をトッ外した、紗をかけるどころか大概派手にくすんでゐるのがビデオも褪色するのかと目を疑ふ、兎に角正体不明の画期的な画像処理、氷の世界かよ。蒸し返すととそれは果たして見せたくなかつたのか、見せられなかつたのか。
これまで映画について語られて来た幾多の言葉の中で、当サイトが最も好きなのはヨドチョーこと淀川長治大先生の、大意でどんな映画にも、何かしら一つくらゐチャーミングな箇所があるとする慈しみ深い眼差し。渾身か捨て身の、肉を斬らせて骨まで断たれる覚悟のポリアニズムで果敢に―蛮勇だろ―優しくない不毛の荒野から、“よかつた”の萌芽を探し出さんとするならば、見えない角度から飛んで来る戦慄のロシアン・フックの如く、見えなくて当然の角度から飛び込んで来る我等が吉田祐健。自らはバレてゐないともいへ、顔見知りがオアシスに来た―のとチンコに触つた―ショックを引き摺る葵が、何時ものやうに潤一の舟「清新丸」で黄昏てゐると、当の祐健が素知らぬ顔で現れる。そのスッ惚けた表情自体にも最高以外の讃辞が俄かには思ひ浮かばないのだが、顔見知り氏が出し抜けに切り出す“大事な話”といふのが、知人の目撃情報に基く、潤一がマグロ漁船に乗つてゐるとするシャーカな噂。地味に重大な外堀を埋めるだけ埋めると、高速のヒット・アンド・アウェイで話の火蓋を切る工場長に勝るとも劣らない、煌びやかなまでの慎ましやかさで顔見知り氏はチャッチャと捌けて行く。関根和美と、吉田祐健。各々、量産型娯楽映画の前貼りで疑似精液を拭ふ苛烈な煽情もとい戦場で長年培つて来た、地力と互ひに対する信頼とが結びついて初めて火を噴き得よう、一見他愛ないか便宜的に見せ、案外完璧な一撃離脱が今作のハイライト。それ、ヒロインの葵が単なる客体に過ぎないよね。あるいは、頂にしては随分低くね?的な至極全うな疑問を懐くのは黙つてて呉れないかな。流石に南風吹かすのも、これが限界なんだよ。
タイトルにまで戴く割に、“やさしい手”なる主モチーフが口頭に上るのはオアシス最初の面接時、洋子が葵の手をさう評するのが最後の一度きりな、腰も砕ける無頓着。一種マクガフィンじみた潤一が遂に帰還―腕と脇付近を人影程度に見せはする―したかと思ひきや、ところてん式に葵は出奔してゐる無体なラスト。果てしなく長い回想と、出入りが雑で混濁する時制といつた主兵装は温存しつつ、端々に関根和美が関根和美たる所以も刻み込まれてゐなくはない、ものの。まあ水沢アキ目当ての堅気衆が触れるか踏む分には、途轍もなく詰まらないにさうゐない。限りなく苦難に近い八十分を空費したすゑ非感動的に呆気なく物語が終る、消極的に壮絶な一作。尼のユーザー評でも木端微塵にコキ下してあつたのが、ある意味微笑ましいがこつちには関係ない。兎も角漸く、元々最悲願であつた関根和美ハンドレッド。さうはいへ百本といふのは目的地でなく、あくまで通過点。既に泉の下につき、関根和美の新作を関門以西で首をキリンにして待ち望む酔狂は叶はない。けれども潤沢に弾を握る大蔵はもとより、片手で足りる程度なら持つてはゐる筈のエクセスと新東宝にも、小屋と配信に円盤の形を問はず、旧作を市場に放り込んで貰へると少なくとも当サイトは諸手を挙げ身銭を切る、喜び勇んで身銭を切る。世間一般的な、需要の如何は知らん。
神を宿さない細部を忘れてゐた、それを些末といふ。電車のカットで画と音が合つてゐなかつたり、洋子はすぎ。を持ち帰つた、「HARVEST」退店後。葵が帰途に就かうとするのを放さないゆうぞうを、要は葵を事実上ストーキングしてゐた圭太が、手荒く撃退するプチ修羅場。半殺しどころか、全殺ししかねない勢ひのブルータルな殴打音を鳴らしてみたりと、ちぐはぐな音効が散見ならぬ散聞される辺りも、この際別の意味で完璧。
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