真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「巨乳看護師 白衣をもみもみ」(2006/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・水上晃太/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:水上晃太/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:桑原郁蔵/監督助手:渡辺翔太/選曲:梅沢身知子/効果:東京スクリーンサービス/出演:坂井あいり・片岡梨香子・華沢レモン・牧村耕次・千葉尚之・竹本泰志)。脚本に関しては、ポスターでは水上晃太の名前が先。
 判りにくい小ネタで日付を間違へつつ、慌てて初出勤に飛び出した新米準看護師の田村絵里(坂井)は、同じく朝を急ぐ大学生の小林武(千葉)と、出会ひ頭に衝突してしまふ。二昔は前の少年誌ラブコメを髣髴とさせる、オープニング・シークエンスをこの期に堂々と展開させる関根和美に、私は今後も何処までも追ひ駆けて行かうといふ意を殊更に強くした。勿論、一切賛同は求めない。
 思ひのほか見事なカメラ・ワークで派手に転んだ武は、歩行もままならぬ程に足を怪我する。担当医の石崎恵子(片岡)の制止も聞かず、前期試験があるといふ武は無理矢理病院を後に。責任を感じてといふ名目で、絵里は一人暮らしの武の部屋へ通ひ看護を始めるのであつた。
 林由美香亡き後、最強の五番打者の座に座つた華沢レモンは、絵里の先輩看護師・庄田萌、研修医の飯田純一(竹本)と結婚を前提に付き合つてゐる。とはいへ飯田は、大学病院勤務への推薦を出汁に、恵子に性奴隷として虐げられてもゐた。夜勤の夜、絵里は恵子に陵辱される飯田の痴態を目撃する。
 とかいふ次第で、序盤に女優陣三人の濡れ場をチャッチャと片付けたところで、今作の真の主役登場。絵里と二人いい雰囲気になりかけた武の部屋へ、息子嫁と喧嘩して家を飛び出して来た、と祖父の春樹(牧村)が転がり込んで来る。
 ボーイ・ミーツ・ガールの定番ラブコメに、三角関係の敵役として同世代の人間ではなく二世代離れた、しかも肉親の祖父を持つて来たところが今作の特色である。といふか、ここから先は、殆ど牧村耕次の一人舞台。絵里と武の恋物語は作劇上のいふなれば方便で、二作前の「四十路の奥さん ~痴漢に濡れて~」に於いても火を噴いた牧村耕次によるスチャラカ好色爺大暴れが、唸りを上げフル回転する。夢オチ妄想オチを臆面もなく多用する関根和美の大らかさに関してはひとまづさて措き、イマジンの中での絵里との絡みでは、股間に絵里に顔を埋められると「咥へて・・・、チョーダイ!」。“チョーダイ!”は、半ば声を裏返しながら。財津一郎の芸風の、21世紀版の進化形態を披露。絵里を巡つて孫の武と鞘当てしては、「かう見えても昔はダンディで、モーテモテよ!」。自由自在、且つ艶やかなコメディアンぶり。加へて牧村耕次には、前年の池島ゆたかの重厚なSM二部作で見せたサディズムの権化のやうな役までこなせることを、決して忘れてはならない。伊達ではない年季でなかみつせいじをも上回る、滋養すら感じさせる多彩な芝居には惚れ惚れさせられる。町田政則や上野太が出て来て、撮影は柳田友貴大先生である関根映画を最近観られないことには、ファンとしてはそれでも一抹の寂しさを感じずにはをれないが、近年の関根和美と牧村耕次との出会ひには、同時に実に豊かな幸福を感じる。後は、牧村耕次主演で観客の心を撃ち抜く、大人のメロドラマ必殺のマスターピースをモノにするだけであらう。
 要は「四十路の奥さん」の松作も今作の春樹も、キャラクター造型としては全く同一のものである。とはいへそれは、決して関根和美の怠惰にも、勿論牧村耕次の無芸にも因るものではない。今作は、さりげないスター・システムを採用してゐる。といふのは、武の部屋へ呼ばれもしないのに現れた春樹は、かう言ひ訳する、「智子さんと喧嘩して」。智子とは、「四十路の奥さん」で主演の三上夕希が演じた息子嫁の名前である。牧村耕次の名前が違つてゐる以前に、華沢レモンと竹本泰志は全くの別人になつてしまつてゐるが、本作が「四十路の奥さん」と、微妙に劇中世界を共有してもゐることを意味してゐるのではないか、考へ過ぎであることならば判つてゐる。

 ところで主演の坂井あいり、巨乳といふに明白な偽りではないが、より正確にいふならば巨体。とはいへ一回り小型の量産型森公美子、とでもいつた風情で、コメディの主演としては決して悪くはない。対照的な二人組の漫才師の、太つた方とでもいへばより伝はり易いか。演出上最低限、要求されるだけのお芝居もひとまづこなしてみせる。萌との更衣室でのショットでは、ポッチャリ体型の華沢レモンが痩せて見える、といふ映像マジックも可能ならしめる。
 絵里と武との交際を祝した夕餉の献立は、チラシ寿司、ポテトサラダ、に野菜の煮物、肉も魚も無い。ここから先は完全な邪推ではあるが、糖尿病を患ふといふ関根和美を慮つた、愛妻亜希いずみの関根家リアル晩御飯であるやも知れぬ。
 どうでもいいが、十一月封切りの映画で前期試験?封切りは十一月だが、劇中風景を見るに確かに撮影時期は初夏の頃合を窺はせる。グルッと回つて、上映時期が劇中季節に合致した。一方どうでもよかないのは、結局絵里をモノにも出来ず、春樹は自宅に戻る。その別れ際、絵里と握手を交はした刹那に、再び淫らな白日夢に囚はれる。その中で絵里を縛り上げさんざ責め立てるのだが、前作「欲望の尼寺 煩悩みだれ観音」と同様、非常に拘束感の緩い縛りでお茶を濁して済ませてゐる。短いショットとはいへ桃色的には極めて重要なところなので、ここぞといふ気合を示して頂きたかつた。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 欲望の尼寺 ... 色情団地妻 ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。