真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 指使ひ感じちやふ」(2004/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・清水雅美/撮影:下元哲/照明:野口素胖/音楽:ザ・リハビリテーションズ/助監督:中村拓/色彩計測:海津真也/照明助手:小綿照夫/監督助手:吉行良介/出演:桜月舞・香取じゅん・紅蘭・江藤大我・城春樹・なかみつせいじ・竹本泰志・所博昭・兵頭未来洋・町田政則・谷畑聡/特別出演:華沢レモン・酒井あずさ・中村拓)。特別出演勢の内、酒井あずさだけがポスターに記載あり。撮影助手と、エキストラを拾ひ損ねる。
 開巻、 m@stervision大哥がリアルタイムで既に難じておいでだが、セット撮影にも関らず電車痴漢シーン以前に、電車が走行するショットからキネコなのは大いに頂けない。混み合ふ車中、後ろには華沢レモンが見切れる東西建設人事課長の向井一(なかみつ)に、見るからに痴女然とした坂本ルミ(桜月)が接近する。まんまとノセられた向井が盛り上がり、調子に乗つて「ホテル行くか?」と切り出したタイミングで、手の平を返したルミは「痴漢よ、誰か助けて!」と大声を上げる。ここで御存知関根和美の愛妻・亜希いずみが、華沢レモンの向かつて左で何事かといふ顔をして振り返る。とかいふ次第のアヴァン・タイトルが丸々キネコといふのは、幾ら何でもあんまりだ。タイトル・インから漸く本来の35mm主砲を換装、おぞましくも女装の上囮捜査中の足立政則刑事(町田)も間抜けに登場すると、憐れ向井は告訴まで持ち込まれる。今回町田政則が、濡れ場に与ることはない。
 「一人目のターゲット、告訴完了」、ルミは坂本泰三(江藤)に、擦れ違ひざま報告する。続けて歩いて来た老紳士(今度は関根和美)が、これ見よがしに泰三の足下に封筒を落として行く。封筒の中には同じく東西建設に勤務する二人目のターゲット・田島修一(竹本)を指定する資料と、ボスから指令を伝へるカセットテープとが入つてゐた。ボスの声が城春樹であることは、一目ならぬ一聴瞭然。行きがけの駄賃で高田直人(兵頭)にこちらは純然たる痴女行為を仕掛ける第二の女・河瀬晶(香取)に、泰三は接触する。
 大雑把に、あるいは大いなる蛮勇を以て整理してみるならば、要は城春樹がチャーリー、泰三がボスレー、ルミ・晶と後に登場する斉藤裕子(紅蘭)が三人の女探偵のポジションに相当する、痴漢電車版「チャーリーズ・エンジェル」である。幾ら何でも、滑らせた筆が空にも舞ふぜ。ボスの意の下泰三の指示で、ルミ・晶・裕子が過去にボスを陥れた男達に、馬鹿の一つ覚えの通勤電車ハニートラップを展開するといふ物語である。これ、今になつてよくよく考へてみると、標的が一人でも自動車通勤してゐた場合はどうするつもりだつたのか。何はともあれ痴漢電車なんだぜ、といふ鉄の決意で押し通すことにする。
 江藤大我と同じく、二家本辰己率ゐるアーバンアクターズ所属の所博昭は、冤罪事案―といふかそれ以前に、向井・田島は被害者ですらあるといへるのだが―を連発する足立のアシストも借りつつ田島も葬られたところで登場する、当然東西建設の三人目のターゲット・佐久間睦。実は本職はジュリといふ源氏名でデリヘル嬢であるルミの、常連客でもある。佐久間に関する封筒を泰三に手渡す金髪長髪のチャリンコ・メッセンジャーは、中村拓。向井らの悲劇だか喜劇だかを前に当たり前のやうに学習した佐久間が、罠を察知すると、ハニートラップを仕掛けようとした裕子を事前に「痴女だ!」と迎撃、それを慌てて泰三が救出する件は、突発的、あるいは瞬間的に映画が締まる。これは何時もの関根和美とは訳が違ふのかも、と期待しかけたのも束の間、強引も度が過ぎるとグダグダになつてしまふルミが佐久間を撃墜する件を経て、実は泰三・ルミ兄妹の、更に実は実は父親である英樹(城)がボスの正体である衝撃の珍実が明らかにされるに至つては、のんべんだらけるにもほどがある、矢張り何時も何時もの関根和美。とはいへ一ファンとしては、どうでもいいのんべんだらりとした映画を、どうでもよくのんべんだらりと楽しむ。さういふ志に欠けるルーズな映画の愉楽といふものがあつても構はないのではないか、などといふ破廉恥を心密かに思ふ次第でもある。勿論、賛同は一切求めない。面白いか面白くないのかといふならば面白い訳がない一作ではあるが、常連の面子や頭数だけでも妙に豪華な布陣が繰り広げる相変らずのチープ・ピンクに、それでもあくまで個人的には、惰弱な穏やかさや欠片も建設的ではなくとも安定感を感じぬでもない。一言で最終的にいつてしまふならば、ダメな観客の為に、ダメな映画があつてもいいのではなからうか。とかいふ塩梅である、開き直るのも大概にせんか。

 偶発的に鮮烈な役柄も含め一人気を吐くといへなくもない酒井あずさは、かつて向井らが英樹に差し向けたハニートラップ。杓子定規なカウンターに、向井達も初めから気付けよ。といふ常識的なツッコミが成立し得ない魔性が、蜜罠の蜜罠たる所以であるといへばいへるのかも知れないが。谷畑聡は、そこだけ切り取るとそれなりに娯楽映画を綺麗に締め括つてゐなくもないラスト・シーンを側面から飾る、ルミが誘惑するどころではなく毒牙にかける男前。
 最後に枝葉を二点採り上げておくと、佐久間が裕子を返り討つ場面では、邪魔だ何だと、華沢レモンが佐久間に何かとを通り越し矢鱈と柄悪くカラむ。ものの、そんな華沢レモンのアフレコは、明らかに別人である。さうなると、さうまでして盛り込むことも全くない別に不必要なシークエンスであるのは、関根映画の常であるともいへる。それと、英樹が泰三らに支払ふ成功報酬の金の、どうでもいいことこの上ない出所を明かすカットでは、紅蘭が「ガクッ」となるタイミングが早過ぎる。ネタが詰まらないの斜め上を行きろくでもないのも兎も角、しかもそれをいひ終る前からコケてしまつてどうする。ギャグとして、形式的にすら成立してゐない。火に油を注ぐか、止めを刺すつもりか。そんなこんなで、何処までも実に関根和美的な一作といへよう。


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