真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性犯罪捜査Ⅲ 秘芯を濡らす牙」(2011/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:金沢勇大/編集:有馬潜/監督助手:市村優/撮影助手:松原二郎/照明助手:榎本靖/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:倖田李梨・舞野まや・園田ユリア・甲斐太郎・天川真澄・なかみつせいじ・泉正太郎・牧村耕次・竹本泰志)。出演者中、泉正太郎は本篇クレジットのみ。撮影助手の松原二郎といふのは、まづ変名に違ひない。
 どうにも話の進めやうがないので最初に押さへておくと、第一作「性犯罪捜査 暴姦の魔手」(2008)、第二作「性犯罪捜査II 淫欲のゑじき」(2009)に続く、ナンバリング連作はオーピー映画では―大蔵時代は知らん―目下ほかに例を見ない、「性犯罪捜査」シリーズの第三作である。
 左から右に旋回する、ANA機のキネコ。挙句に、左上にREC表示のやうなものが見切れてゐるのは何なのか、横着をして済ますにもほどがある。依然ビデオ撮りの走行中の電車の画を挿んで、漸く35mm主砲が起動。車中、相田紗希(倖田)が痴漢(泉)の魔手に悶えるのは、有体にいふならば女痴漢捜査官。一頻り責めさせておいて、紗希が泉正太郎を検挙したところでタイトル・イン。
 当初新米刑事であつた紗希は、「暴姦の魔手」に於いて同僚を逮捕したことが警察組織に嫌はれ、「淫欲のゑじき」に際してはいはば閑職の性犯罪捜査課に追ひやられる。それでは今作の性犯罪捜査課はといふと、二年の間に紗希は性犯罪捜査課の課長に昇進したらしく、前作から連続出演の岩崎正則(甲斐)は、部下のポジションに甘んじてゐる。一体紗希は逆にどれだけの手柄を上げたのか、その話で映画を撮るべきだ。あるいは、岩崎が派手に仕出かしたのか。閑話休題、さうはいへ性犯罪捜査課は矢張り冷遇されてゐるらしく、人員は紗希と岩崎の二人きり。そこに、第一作では前科者の容疑者と、電話越しの本部長声を兼務。第二作では捜査四課長と、なかなか配役が安定しない牧村耕次が、今度は性犯罪捜査課を間借りさせる捜査一課の、土屋警視として大登場。闇雲でしかないが楽しいオーバー・アクトで嫌味を振り撒きがてら、事実上外遊目的で来日した、香港警察要人の娘でもある捜査官を一週間性犯罪捜査課が与ることを、半ばどころではなく強引に押しつける。本作最大の見せ場でもある、牧村耕次の素頓狂なシャウトが火を噴く「ヘーイ・プッリーズ・カミーン!」といふ呼び込みを華麗にでもなく無視し、母親は日本人といふ方便にて日本語で普通に話すスー・ウェイ(舞野)がシレッと登場。カットの根も乾かぬ現れたてなのに、出し抜けに岩崎のPCを借りたスーは警視庁のデータ・ベースを触らうとして、当然紗希からは見咎められる。関根和美らしさが爆裂する無造作なシークエンスには最早号泣しながら拍手喝采する―自棄を起こすな、俺―しかはないが、実はなほも恐ろしいのは続く一幕。諸々のイントロダクションを一応こなした性犯罪捜査課を通過、一拍夜景を噛ませ、僅かに開いたドアの隙間から洋式便座が覗くショットを見た瞬間、戦慄が走る・・・・!

 は、排泄か(;´Д`)

 本筋―本筋といふほどの筋か?といふツッコミは一旦禁止だ―とは半欠片たりとて本当に全く一切からきし関らない、排泄の喜悦に震へるスーの姿を、幾度に亘り膨大な尺も費やし描き抜いてみせるのは、ここだけ監督は松原一郎。なのだから、いつそ監督補だか何かでその旨クレジットにも明記しておけばいいのに。特技なりアクションならぬ、“排泄監督”とか。
 木端微塵に粉砕されたまま、終に物語が芯を取り戻すこともない以降を掻い摘む営みはほぼ力尽きた格好で放棄し、残りのキャストを登場順に整理すると、天川真澄は、終に目出度く結婚した、紗希の夫で外科医の相馬大樹。紗希以外では唯一役柄を固定されつつ、出番は清々しく少ない。カミさんは結婚式とやらで広島に空けた岩崎家を、スーが強襲しあれよあれよと自堕落に岩崎を篭絡するハニー・トラップな中盤を経て、残る園田ユリア・なかみつせいじ・竹本泰志が、園田ユリアを伴なつたなかみつせいじが竹本泰志に相対する形で一斉に登場。「暴姦の魔手」での別役の印象を払拭する―この邪推が正解であれば、牧村耕次にも当てはまらう―目的なのか、細めのドン・キングのやうな薮蛇な造形のなかみつせいじは、稲島会の桜井雄大。こちらは深澤和明みたいな髪型の竹本泰志は、日本名は長谷川ツヨシこと香港女衒のコン・ウー。説得力を有した殺陣など当然提供されはしないが、銃を構へた相手をも圧倒し得る、ナイフの名手であるらしい。園田ユリアは、ウーと取引したい桜井から“味見”に供される女・遠藤理沙。表情こそ乏しいものの、着衣時から大きく開いた胸元に深い谷間を誇示する、見事な天然巨乳はポップに下心の琴線を激弾きする。
 一言で片付けると、大幅に持ち直した第二作を間に挿み、第一作に劣るとも勝らない第三作。関根和美自身の前作ではちぐはぐな回避を試みた、舞野まやの左上腕を覆ふ大きな鯉の刺青を、支那人ならば刺青をしてゐてもおかしくはないだなどといふ珍理論で乗り切らうとした無理に、そもそも、それにしてもスーは正式に捜査を進めれば別によかつたのではないかといふ根本的な無駄が火に重油を注ぎ、関根和美持ち前のへべれけさが最加速、最早迷作とでもしか評しやうのない一作である。ポスターの上ではメインを飾るのは舞野まやにつき、ある程度は仕方もないことなのか、スーが正体不明の暗躍を繰り広げ展開を浪費する反面、本来はシリーズ主役の筈で、ビリングもトップの倖田李梨すらもが何時しか霞んでしまふ始末。寧ろ、濡れ場要員をそれはそれとして頑丈に果たした園田ユリアの働きは光る、といふ評価は相当するのかも知れないが、三番手が独り気を吐いてゐるやうでは、幾ら裸映画といへ満足には成立し得まい。いや忘れてた、舞野まやに関しては、松原一郎パートは松原一郎的にはパーフェクト。逐一が不自然と不合理とに埋め尽くされる不条理の中、唯一の見所は箍の外れた牧村耕次の過剰演技ばかり。それにしても、どうやら土屋にとつては恥づかしい過去らしき、スーの父親との因縁くらゐは明かしておいて欲しかつた。何時の間にか岩崎が土屋の腹心であつたりなんかする、劇中世界への無頓着さは事ここに至ると感動的だ。

 妙なところだけ十全に、エンド・マークは二段組の“終劇”と“THE END”とで、香港映画風に締めてみせる。それと、タイトルの“秘芯を濡らす牙”も、意味の判らないハッタリ感が清々しい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 小林ひとみ ... 私、大人のオ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。