真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「激イキ奥様 仕組まれた快楽」(2019/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:和田琢也/スチール:本田あきら/整音:Bias Technologist/選曲:友愛学園音楽部/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:優梨まいな・浅美結花・里見瑤子・津田篤・竹本泰志・安藤ヒロキオ・折笠慎也・なかみつせいじ)。和田琢也がピンク映画に参加するのは恐らく、関根和美の2007年第一作「やりたいOL 純ナマで激しく」(水上晃太と共同脚本/主演:瀬名ゆうり)ぶりとなるのではなからうか。
 団地外景に関根プロクレジット、新婚夫婦の出雲新一(津田)と沙紀(優梨)が、当選した公団に入る。優梨まいなの、服の上からでも堂々と存在を誇示する爆乳の破壊力が凄え。オッパイは、ジャスティス。世界の真理を、改めて再確認した。思ひのほか小綺麗な内装に感激した沙紀が、新一の頬にチュッとしてタイトル・イン。恵まれた天候も、かうなるとある意味諸刃の剣。燦々と室内に降り注ぐ外光が、無力か無造作に終始白々とトビ倒す。
 引越後の部屋を沙紀が連日一人で片付けてゐるのか、新居初夜なのか関根和美が自分で書いておいて、ある意味順調に二人の遣り取りが混濁する夫婦生活。結構ノーガードに漏れる沙紀の嬌声に、隣家の竹内直哉(竹本)・美香(里見)夫婦は生温かく対抗。美香が聞こえよがしにワーキャー啼くのに我に返つた沙紀は、営みを中断して新一を生殺す。家計の足しにとアルバイトを探す沙紀に、美香は相手が隠さうともしない気まずさをものともせずザックザク接触。美香の実家自家製を謳ひ、美白効果があるといふ梅酒を販売するサポートに沙紀を勧誘する。
 配役残り、登場順に最初は写真出演の折笠慎也は、遺伝子を研究する直哉の恩師・横内博士。なかみつせいじはセールス初日の沙紀が豪快なビギナーズラックを飾る、独居アル中老人の小野久司。そんな男が、ポンと二十万―ホントは二十一万―を支払つてしまふ、金銭感覚の底が抜けた浮世離れ具合も如何なものか。加藤義一九年ぶり三本目の正月痴漢電車「痴漢電車 食ひ込み夢《ドリーム》マッチ」(2019/しなりお:筆鬼一=鎌田一利/主演:桜木優希音)に続く、ピンク二戦目となる浅美結花は、売上に窮した沙紀が切札に手をつけようとする、高校時代からの友人・三輪悠里。残念ながら、浅美結花が―黒縁セルフレームの―メガネをかけてはゐないのが、地味な致命傷。といふか、派手なのがゴロゴロしてゐて、致命傷片手で足らない件、何度死ねば気が済むのか。安藤ヒロキオは、悠里の二年越し職場恋愛相手・山内孝弘。ここからが問題、だからここまでも問題だらけなんだけど。動いて台詞も吐く折笠慎也の二役目は、知らん間に沙紀が臨月に至つてゐた二十年後、直哉と交す会話から大学生の息子と思しきはじめ。遠目に見切れる謎のイケメン爺さん(不明?)挿んで、折笠慎也の三役目が、はじめを見送つた直哉が擦れ違ふ電気工事の人。因みにこの二十年後ラストに、入院してゐる模様の美香に対し、出雲夫婦は1mmも出て来ない、名前すら上らない。
 次作「おせんち酒場 君も濡れる街角」(主演:梨々花)公開前日に急死した、関根和美2019年第一作、享年六十五。愛妻の亜希いずみ(a.k.a.高橋靖子)に電話で泣きつかれた浜野佐知が、既に意識を失つてゐた関根和美といふよりも、寧ろ亜希いずみを見舞ひに行つた逸話も後に伺つた。時代が関根和美に追ひ着くまで筆の毛が全部抜けやうとも繰り返すが、当サイトが頑なに推すピンク映画最高傑作は、極私的な原体験じみた思ひ入れに多分に惑はされてゐるのは正直認めた上でも、関根和美の2000年第二作「淫行タクシー ひわいな女たち」(脚本:金泥駒=小松公典/音楽:どばと/主演:佐々木基子・町田政則)である。関根和美の撮つた映画がもれなく最高だ完璧だなどと、箍のトッ外れた妄言を申すつもりは、勿論毛頭ない、“勿論”とは何事か。それでも悲願のハンドレッド戦を目指して、一番追ひ駆けてゐた、今も一番追ひ駆けてゐる監督ではある。あちこち悪くされてゐたのはウッスラ伝へ聞こえてもゐたものの、現状最もその位置に近いかに思はせた御大枠に、終に辿り着くことなく逝つてしまふといふのも、何となく関根和美らしく思へなくもない。
 それはそれ、これはこれ。ついでに俺は、心の棚の上。NSP“ニュー・関根和美's・ピンク”ことそんな関根和美の新作が、脊髄で折り返すと腸も兎も角、脳がヤラれてゐたんぢやねえかとさへ呆れ果てるに足る、良くなくも悪くも凄まじい出来。詰まらない面白くない通り越して、端的に酷い。後藤大輔のチンケな実写とアニメのフュージョンの方がまだ―若干―マシな酷さ、そんなに酷いのかといふのと、俺はそんなに敵を増やすのが楽しいのか。
 何はともあれ折慎が増殖してゐる描写を窺ふに、実際実は結んでゐるらしきにしても、交通事故死した横内の遺志を継いだ直哉が確かに完成させたのは完成させたみたいな研究の内容は、不完全無欠に説明が不足してゐて何が何だか皆目理解不能。どんでん返しが卓袱台ごと映画を爆砕するSFミステリーで、十三分にも十四分にも大概であるにも関らず。それ以前に、催淫作用と中毒性のある梅酒を売り捌くだとか、厚生労働省よりも先に国税庁が黙つちやゐない隣人スリラーが、幾ら里見瑤子の決定力を以てしても如何せん呑み込み難い。要は端から、展開が体をなしてゐない。挙句最終的にヒロインの去就も、逆の意味で見事に等閑視。流石関根和美だ、何が“流石”なのか。裸映画的にも濡れ場は潤沢で一見総尺に対する女の裸の占拠率は極めて高げにも見せ、その癖完遂に至るのは実質三番手の一回戦のみといふ不可解か不用意な匙加減は、否応ない違和感を残す。しかも当の浅美結花がここだけの話―何処だけだ―ダブつき気味、ウエストを失しかけてゐる。乳が太ければ胴も太くて構ふまいとする風潮には、当サイトは断固として与さない。撮影部も演出部の暗黒面に引き摺られたのか、前述したまるでコントロールしきれてゐない外光に加へ、美香主導で沙紀と百合の花を咲かせる件に於いては、里見瑤子の顔に無調法な余光が浮き続ける。最早一切の加点評価を、拒んでゐるとでもしか思へない壮絶な一作。優梨まいなのオッパイを普通に拝ませるだけで、観客を眼福に微睡ませてゐられた筈なのに。この時点で既にな、錯乱と紙一重の大乱調を見るにつけ、重ねてビリング頭にエクセスライクが濃厚な、LSP“ラスト・関根和美's・ピンク”が俄かに風雲急を告げて来る感も否めない。


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