真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫獣捜査 夫婦暴行魔を追へ!」(1996『夫婦暴行魔 牝肉レイプ』の2019年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:岡輝男/企画:中田新太郎/撮影:稲吉雅志/照明:伊和手健/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:獅子プロ/出演:葉月螢・田中真琴・森下ゆうき・的場貴徳・熊谷孝文・小川真実)。jmdbには榎本敏郎とある助監督が、本篇クレジットでは抜けてゐる。それと矢張りクレジットからは等閑視されつつ、スチールは確実に津田一郎。
 土ワイな車列と、それを呆然と見やる葉月螢の横顔。道路にダイブせんとする、パジャマに足元もスリッパ履きの葉月螢を熊谷孝文がすんでで制止するのが、病院の屋上辺りかと思ひきや、よもや歩道橋といふ予想外のロケーション。の火にガソリンを注ぎ、新人女検察官の優子(葉月)が、大学の後輩(熊谷)とそんな突拍子もない形で再会しただなどとある意味画期的なシークエンスにクレジットと、限りなく確信に近い不安とが起動する。熊谷クン(仮名)に自宅まで担ぎ戻された、優子は茶色い酒を飲み始める。「アタシね、男に捨てられたの」、大雑把か大概な第一声で語り始めた優子と、熊谷の会話は畢竟噛み合はず。矢鱈な勢ひで杯を呷る優子に、熊谷が半ば匙を投げてペラ紙一枚のタイトル・イン。もう半分は、俺が投げよう。
 徹頭徹尾優子の会話中にしか登場しない優秀な上司と、優子は不倫する。優子の検察官としての初陣は、連続強姦事件。担当を優子に命じた、優秀な上司改め“彼”に認められたいと優子は燃えるものの、一人目の被害者・渡辺静香(田中真琴/ex.田中真琴で西藤尚)はモデルの仕事で人気雑誌と専属が決まつたゆゑ。一ヶ月後二人目の被害者である町田明代(森下)も交際相手から求婚されたため、それぞれ告訴取消。公訴に持ち込めず、優子は梯子を外される。さうは、いふけれど。薬物で水のないプールして連れ去つた上で、津田スタに数日間監禁する。静香と明代で各々が元ゐた場所しか違はない犯行の状況を窺ふに、刑法第225条(営利目的等略取及び誘拐)は同177条(強制性交等/ex.強姦)同様、一昨々年の刑法改正までは親告罪であつたにせよ、第220条(逮捕及び監禁)に該当してゐる時点で、非親告罪のセンも残らなくはない。
 配役残り、ダーリン石川(ex.石川雄也/a.k.a.石川ゆうや)と澤村清隆を足して二で割つた感じの、活動の痕跡が今作以外に見当たらない謎の俳優部・的場貴徳が、件のレイプマン・三枝ゲンタ。三年前まで精神科に入院してゐた、優秀なプログラマー。小川真実はその際担当看護婦であつた、目下三枝の妻・キリコ。諦めきれない優子が独自捜査を進める過程、別宅設定の津田スタに聞き込んだ際の、耳の遠い住人は津田一郎。この、玄関口で優子に応対するツダイチを背中から抜いた画を観てゐて発見が一点。かつて、深町章三十一作後の未亡人旅館第三作に新田栄が見切れてゐるやうな気がして首を捻つてゐたのが、あれは、案外背格好の似た津田一郎であつたのだとこの期に思ひ至つた。尤も、あるいは要は。勝手に見誤つたものを、ゼロに復旧しただけのマッチポンプではある。
 小屋オンリーで辿り着いた、最強の番組占拠率を誇る“無冠の帝王”新田栄。以降ex.DMM戦も絡めた、浜野佐知渡邊元嗣。深町章1996年第四作で、四人目の感想百本となるフォース・ハンドレッド。ex.DMM戦で百本を通過する、半ドレッド戦は結局回避した格好。とかいふのは、当該映画の中身とは一欠片の関りもない、純然たる私事にして些事に過ぎない。
 裸映画的にはとりあへず安定、どころか相当に充実する、ビリング頭をさて措けば。前半戦を支配する静香と明代に対する牝肉レイプは、津田スタ和室を記憶にないほど暗く歪める、ハードな描写が大いに下賤な琴線を激弾きする。些か面相はオッカナイ系ではあれ、森下ゆうきのパンチの効いた肢体は、卓袱台を引つ繰り返しての変型大の字拘束に激越に映える。疲弊した隙を突かれた優子も遂に囚はれ、突入する後半戦。優子に関しては手短に通り過ぎながらも、小川真実のこちらも見た覚えのないくらゐたをやかなオッパイを、潤沢に尺も費やし丹念に堪能させる。問題が、そこからいよいよ舞台を劇中現在時制の優子宅に戻しての、広げた風呂敷の畳み処。優子が完全にブッ壊れるのは、ある意味葉月螢にとつて十八番に近いものもあつたにせよ、映画ごと命運を共にデストロイドされてしまふんだな、これが。ガッバガバにダダッ広い行間をマキシマムな想像力で補ふと、三枝夫婦から凌辱された結果―キリコは華麗にペニパン装着―“彼”の子供を流産した優子が、何故か部屋の中に転がつてゐた金属バットで二人を撲殺。最終的には“彼”が事態を収束、心神を喪失した優子は責任能力を問はれなかつた系。と、いふか。そもそも“彼”の存在―なり“彼”との関係―自体甚だ怪しいサスペンスを通り越したサイコ・スリラーを、観客が諒解可能な状態で解決か着地させる営みを一切拒否。ケラケラと優子が狂ふばかりで、ちつともエロくない締めの濡れ場―締まつてない―をファンファンファンのサイレン音で締め括る。だから括れてゐない、六十分にも三分強余した強制終了。さんざトッ散らかしたまゝ放り投げるラストが、一見のんべんだらりとしかしてゐない始終を、実は周到に外堀を埋めての狙ひ澄ました一オチで、鮮やかに幕を引く。最後まで観ないと判らない終劇の魔術師・深町章にしてはらしからぬ、最後まで観てもサッパリ判らない一作。反面、もしくは一方。そこだけ切り取るつもりで掻い摘めばらしい切羽詰まりぶりを振り抜くのが、文脈とか最早どうでもいい優子の「“彼”がアタシを捨てるのよ、捨てたのよ!」のシャウト。葉月螢が持ち前の突破力で、一撃必殺を振り絞る。


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