真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「薄毛の色情女」(1998/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:下元哲/照明:代田橋男/編集:酒井正次/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/演出協力:木澤雅博/監督助手:小林一三/撮影助手:小山田勝治/タイトル:道川昭/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/協力:高円寺・稲生座、高円寺・古美術太文/挿入歌:『コルクの栓がふつとんだ』詞・曲・歌:木澤雅博/出演:田口あい・田口あゆみ・塚越レイナ・工藤有希子・池島ゆたか・木澤雅博・樹かず・神戸顕一/SUPECIAL THANKS:槇原めぐみ・西山亜希・堀禎一・須川善行・重田恵介)。監督助手の小林一三は、樹かずの本名。
 高円寺と屋号でググッてみても今や何も出て来ない、骨董屋「太文」の正面カットにタイトル・イン、品のない勘亭流で。そこに現れた後ろ姿でエロい体の女は、「太文」オーナーの妹・恵子(塚越)。客なんて来やしない―劇中ホントに一人も来ない―太文を、日がな本を読んで店番する江崎尚也(池島)は、恵子からの飲みの誘ひを勿体なくも断る。ところが断るに足る、理由が実際あつたんだな、今回は。ラブホで馴染みのホテトル嬢・マリア(工藤)を抱いた尚也は、次は部屋に呼んで呉れといふマリアのマイルド据膳も、家に人が来るのが苦手とグジグジ断る。一つめのアキレス腱に触れておくと、とかく煮えきらないこの御仁、常時万事こんな調子。ついでで急所といふほどでもない二つめが、二人ともスタイルは綺麗な反面、背格好のみならず馬面も似通つてしまひ軽く混同の否めない、形式三番手と四番手。
 そんな、ある日。太文を覗き込む少女を、店の中から抜く。何か買ひに尚也が店を空けた太文を、弟の娘で初対面の伶奈(田口あい)が訪ねる。訪ねて来れる程度のリンクが活きてゐるにしては、その事件を尚也が知らないといふのも、如何にも五代暁子らしい無造作か無頓着な無理が何気にバーストするのはさて措き、尚也の弟・シュンイチが交通事故死。間男を作つた母親とは、三年前の離婚以来音信不通。とりあへず夏休みの間、伶奈は役所のレコメンドに従ひ伯父である尚也を頼つて来たとかいふ寸法、福祉とは。一人の暮らしを騒がされたくない尚也ではあつたが、さりとて子供を無下に追ひ返しも出来ず、母親のかおりが見つかるまでといふ条件で渋々伶奈を家に入れる。マリアだけでなく、恵子も入れなかつた。
 配役残り、木澤雅博が親の遺産でも継いだのか太文のオーナーと同時に、バー「稲生座」のマスターでもある和彦、稲生座は現存する。最初の稲生座パート、カウンター席に座る尚也のほか西山亜希が画面手前に座つてゐる客で、重田恵介がその奥。既視感を覚えるシュンイチ遺影の主が、堀禎一といふのに遅れ馳せながら辿り着いた、この期に及ぶにもほどがある。あとこの兄弟、尚也は養子でシュンイチは実子。和彦と恵子は、腹違ひ。そして田口あゆみが件のかおりで、樹かずは酒浸りで仕事の続かない間男の達郎。パンツが細い気もしつつ、樹かずの幾度と目にしたオーバーサイズの一張羅は、これズートでいゝのかなあ。神戸顕一は牛乳の飲めない伶奈の加はつた江崎家を、訪れる牛乳の拡販員、クレジットでは牛乳屋。最初は、中々気の利いたフィックス俳優部の起用法かとも思つた、最初は。棚から牡丹餅を降り注がせる、もとい外堀を埋める、江崎家実家(総武本線佐倉駅最寄り)の御近所・ケンちやん(苗字はキクチ)は凡そどの人と知れるやうには映らない、定石で攻めると佐藤吏か。堀禎一の、此岸と彼岸を往き来する二役でなければ。終に恵子が尚也に告白した稲生座に、同伴で和彦が連れて来るカップル客は槇原めぐみと須川善行。
 サブスクに入つてゐないのを単品買ひした、池島ゆたか1998年ピンク映画第一作、薔薇族が一本先行する。互ひに一切交錯しない小屋の観客要員同士ではあれ、同じく池島ゆたかの1997年第四作「目隠しプレイ 人妻性態調査」(脚本:岡輝男/主演:真純まこ/田口みき名義)で母親の田口あゆみと一応共演した田口あいが、実の母娘(おやこ)で母娘(はゝむすめ)役。且つ当然―設定を真に受けると撮影当時十三歳、どう転んだとて十八歳以上には見えない―脱ぎも絡みもしないにも関らず、堂々とビリングの頭に座る話題作、ではあつた。あと、現状確認し得る田口あいのフィルモグラフィとしては、矢張り池島ゆたかで「ザ・痴漢教師3 制服の匂ひ」(1999/企画・脚本:福俵満/主演:里見瑶子)の生徒要員、それには田口あゆみは出てゐない。
 人との積極的な交はりを頑なに拒み、自閉した状態に平穏を見出す中年男の半ばモラトリアムな生活に、快活な小娘が転がり込んで来る。矢鱈絶賛してをられるm@stervision大哥のレビュウに目を通してみて、今作が超惑星戦闘母艦―あるいは戦闘巨人―もとい、あの「レオン」(1994/日本公開は1995/監督・脚本:リュック・ベッソン/主演:ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン)の翻案といふのには軽く驚いた、レオンしか合つてねえ。尤も、オッサン・ミーツ・ガール以外の共通点が、見当たる訳でも特にない。尤も二連撃、「レオン」の細部なんて、前世紀のうちに忘れてゐるけれど。
 さあて、天に唾でも吐くか。全体、何を御覧になつたm@ster大哥が首を縦に振られておいでなのか皆目理解に苦しむ。根本的な大穴は先に挙げた第一のアキレス腱に連動する、自発的には「太文」表の掃き掃除くらゐしかしないネガティブな主人公が、その癖なほかつ拒み倒しながらも、周囲の皆から暖かい南風を吹かせ続けて貰へる土台破綻したファンタジー。何某か超常的なギミックでも設けて呉れぬでは、底が抜ける抜けない以前に話が通らない。ヘッドハンターズな三四番手は兎も角、感情移入に甚だ難い尚也の惰弱な造形に劣るとも勝らない、三つめの致命傷が田口あいの画期的に覚束ない口跡。寧ろよくこれで商業映画を狙つたなと、呆れるのも通り越すレベル。どうせ現場では、アリフレックスが爆音を轟かせてゐる、潔くアテレコの選択肢は採り得なかつたのか。まだ、終らないよ。改めて大筋ないし構図を整理すると、尚也が伶奈を、かおりが見つかるまでの条件で不承不承家に入れる。それでゐて、かおり捜しにすら尚也が一切動かないのには流石に吃驚した。起動こそすれ、物語が満足に展開しやしない。そらさうだろ、主人公が微動だにしないんだもん。牛乳屋でなくて、神顕行かうと思へば雨宮でもイケたよね。田口あゆみの対樹かず戦と、尚也をイマジンした塚越レイナのワンマンショーを拝ませた上で伶奈同様、勝手にかおりの方から江崎家にやつて来るエクス・マキナな作劇には幾ら池島ゆたか×五代暁子コンビの仕業とはいへ畏れ入つた。一件を経て、それとも何時の間にか。伶奈が牛乳を飲めるやうになる、プチ通過儀礼的な娯楽映画に於ける正道の、首の皮一枚分程度なら辛うじて酌めなくもないものの、濡れ場以外には限りなく全く見るべきところのない惨憺たる一作。藪から棒に火を噴く、木澤雅博の一節でホッコリするのも当サイトにはハードルが高い。と、いふか。メタ的にそもそも、“薄毛の色情女”なる公開題はこれ誰のこと?

 たゞ、健気な片想ひを貫き通す、キャラクター的には正直不釣り合ひな、塚越レイナが右太腿に入れた結構大ぶりな墨を、かなり回避してのける神業カメラワークと巧みな艶技指導の合はせ技には感心した。任意に振り返れる動画―もしくはフィジカル―でなければ、気づかなかつたかも知れない。


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