真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「好色女類図鑑 美味しい人妻たち」(1996/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/プロデューサー:中田新太郎/撮影:小西泰正/照明:多摩三郎/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:高田宝重/監督助手:松岡誠/撮影助手:高橋秀明/照明助手:多摩次郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:佐々木基子・原田なつみ・しのざきさとみ・野口四郎・山口精次・山本清彦・神戸顕一・山ノ手ぐり子・池島ゆたか・雅之新・飯田孝男・木澤雅博)。
 タイトル開巻、佐々木基子がテレフォンセックスに耽る。「夫のゐない昼間、私は2ショットダイヤルに電話をかけまくる」、「知らない男とかうして楽しむのが堪らないのだ」。文言からぞんざいな、モノローグ起動。早速思ひやられた先は、結論を先走るとまあそのまんま的中する。
 “PART 1 美奈子(29才)の場合”、気持ち悪くて仕方ないから直したが、原文は全角英数なんだな、これがまた。美奈子(佐々木)は2ショットダイヤルで捕まへた、役名不詳の野口四郎と大塚駅前でランデブー。少なくとも野口五郎とは似ても似つかない野口四郎が、誰になら似てゐるのか当サイトは未だ答へを出せてゐない。モスとマックどちらのハンバーガーが美味いか言ひ争ふ、ルンペン二人組(モス派の飯田孝男とマカーの木澤雅博)の前を通過して、美奈子とゴロもといシロンボは室内に矢鱈プレスリーが調度された、ラブホテル「PAL」に入る。人物そつちのけで壁のElvisを抜く、間抜けな画角が演出部のディレクションであつたのならば、撮影部は蹴ればよかつたのに。二回戦に突入したタイミングで、割と大きめの地震発生。帰りの身支度を整へてゐると、銃声らしき異音が鳴る。改めて振り返つておくと1996年といふのは、阪神淡路大震災の翌年にあたる。
 配役残り、“PART 2 カオリ(25才)の場合”。社長の倅(神戸)と計算尽くで結婚したカオリ(原田)は、夫を送り出すや“女王体質の女”―当人独白ママ、気質でなくて体質なのかよ―に豹変。矢張り大塚駅前で犬のミツル(山口)と合流、そして「PAL」に入る。多分一年程度の短い実働期間を駆け抜けた山口精次が、ダイエットに成功した伊集院光といつた風情の、素面で変態的ななかなかの逸材。“PART 3 弥生(35才)の場合”、弥生(しのざき)は繁華街でスカウト―の声は池島ゆたかの二役、混同も否めない―されAV女優に。かうなると最早勿論「PAL」にて、池島カントク(仮名)の「淫乱人妻天国」十本目の撮影、雅之新が鉢巻の照明部。あともう一人フレーム内に紛れ込む―後々高田宝重も画面最奥に見切れる―パッと見国沢実かと見紛ふ、見るから内向的さうな眼鏡が松岡誠なのかしらん。インタビューの最中、平然と闖入して来る山本清彦が業界随一の巨根を誇る男優部、その名もパワフル須藤。パワフルと、マシーンの激突が見たい。それはさて措き、アダルトビデオに出た理由の中で、レス・ザン・夫婦生活を語る弥生に対し、池島カントクが例によつての棒口跡で「ふうん、典型的寂しい人妻症候群て奴ですね」。幾ら五代暁子が書いて池島ゆたかがクッ喋る台詞とはいへ、流石に中身のなさが酷すぎる。あまりに凄まじい空疎に、CO中毒の如く卒倒するかと思つた。
 かといつて殊更豪勢な布陣が構へてある、といふ訳でも特にないものの。年の瀬スレスレ封切りゆゑ正月映画の扱ひであつたのかも知れない、池島ゆたか1996年薔薇族含め最終第七作。
 地震と銃声、ついでに池島ゆたかが元来大好きな―かつ元ネタ準拠の―エルビスで、同日同時刻同じホテルに居合はせた、三組の男女を繋ぐ。五代暁子にしては凝つた構成に、ググッてみるとジム・ジャームッシュ「ミステリー・トレイン」(1989)の翻案とのこと、いはれてみると確かに。それは、兎も角。よくいへば硬質なのか女の乳尻に対する拘泥を感じさせない、総じてフラットな撮影。所詮巨漢の原田なつみは触れる琴線を選び、しのざきさとみはビデオの撮影中を方便に、キネコ画質の泥水に沈む。有難さをさして感じさせない裸映画と、地味に脆弱な男優部、それは果たして地味なのか。今作固有の非力さに加へ、弥生は普通に愉しむ、独善的なボカーマンをやまきよが繋ぐ件にこそ、キャスティングの妙―他の選択肢としては真央はじめか平川直大―込みで面白さはあれ。結局、偶さか同じ駅のホームから銘々の帰途に就く以外には美奈子とカオリに弥生が掠りもしない、甚だ漠然としたグランド・ホテルには派手に拍子を抜かれた。尤も、土台ジャームッシュ自体そんなもんだろ、といつてしまへばそれまでにもせよ。火に油を注ぐのがオリジナルの新ならぬ珍機軸たる、アウトドアといふかノードア二人の木にオートマチックの接ぎぶりが割と衝撃的。この人等の遣り取りに、全体何の意味があるのだらうと首しか傾げずに見てゐたところ、まさか片方が銃を撃つて、もう片方が撃たれるためだけの、破天荒なギミックであるなどとは思ひもよらなかつた。百貫、もとい百歩譲つてカオリはまだしも、美奈子と弥生が、瀕死のゴジラや店長を見捨てて行く姿も、何気に娯楽映画を濁す。そもそも、銃声オンリーで別に事済むところを、わざわざ前年の大災害を明示までする地震を持ち出す、藪蛇なアクチュアリティは甚だ如何なものか。三本柱を纏めて抜く、印象的なロングで小西泰正が遅れ馳せながら漸く本領を発揮したのも束の間、カット尻も乾かぬうちに、街頭ビジョンのアナウンサー(山ノ手ぐり子=五代暁子)が蛇の足も生やし損なふラストが別の意味で完璧。ただ美奈子と弥生は知らないが少なくともカオリは、飯の準備その他諸々加味するとなほさら、七時の神顕帰宅時刻に足がつく気がする。

 オーラスは、地震で本郷二丁目の飲食店「キッチン 高田の厨房」―表記適当―が軽く焼けたとかいふしやうもない小ネタ。それはもしかして、当時高田宝重が本当に台所から火事を出したのか?


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