真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「アラフォー離婚妻 くはへて失神」(2009/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影・照明:下元哲/編集:鵜飼邦彦/録音:シネキャビン/助監督:小川隆史/監督助手:加藤学/撮影助手:浅倉茉里子・松山潤之助/選曲効果:梅沢身知子/スチール:本田あきら/現場応援:桑島岳大/音響効果:山田案山子/特別協力:羽賀香織/フィルム:報映産業/現像東映ラボ・テック/協力:江尻大・国沢☆実・三陽編集室・《有》マジックアワー/出演:冴島奈緒・延山未来・上加Amu・金子弘幸・吉行由実・なかみつせいじ/友情出演:荒木太郎・樹カズ)。出演者中上加Amuが、ポスターには上加あむ。正確なビリングは、上加Amuと金子弘幸の間に友情出演の二人が入る。
 歳は離れてゐるものの、エステ学校で同級生だつた楠田リカ(上加)を共同経営者に、エステサロン「Kalon」を経営する百合原茜(冴島)は三度の離婚暦の末に、現在は初婚の際に産んだ大学生の娘・愛子(延山)との二人暮らし。結婚状態といふ関係性には最早囚はれず、フリー・セックスを謳歌する茜の男遊びは収まるどころかますます加速、そんな茜を、家事全般の全く出来ぬ母に代り家事を全て面倒見る愛子は、一体どちらが娘なのだか判らない温かい眼差しで見守る。そんな最中、処女を捧げた相手とそのまゝ結婚したリカが、夫・武(荒木)との夫婦生活の際に体験したとかいふ気絶してしまふほどの絶頂に、頭数だけは無闇に消化してゐる割に、未だそのやうな感覚を味はつたことのない茜は激しく好奇心と、女としての体面を傷つけられた嫉妬心とを刺激される。一方、互ひの距離を上手く調整出来ず彼氏の純(金子)と仲違ひした愛子は、授業を離れても仲のいゝゼミ教授・桂木惣一(なかみつ)に、その旨相談する。桂木は清々しく時代からは後れた、ファンシーなエリマキトカゲのイラスト入りブック・カバーを、この期に後生大事に愛用してゐた。
 殊に性的にエキセントリックで、炊事洗濯の類はからきしの女社長である母親と、しつかり者の娘とが織り成す恋愛騒動。といふと、要は渡邊元嗣の「ねつちり母娘 赤貝の味」(2003/脚本:山崎浩治/主演:谷川彩・佐々木基子)と、感動的によく似たお話ではある。娘よりも母の恋路により重きを置いた形式的以上の差異、それが女性監督ならではといふのも、逆に思慮が高床式に浅過ぎるやうに思へなくもないが、意識を失ふまでの激しい快感への渇望と悪戦苦闘、といふ茜の立ち居地。彼我を分ける決定的な特徴点の存在に、一旦この類似に関しては偶然の一致と通り過ぎるとして。小道具の使ひ方等にも、如何にも吉行由実らしい、誠実な娯楽映画への細やかな心遣ひが感じられる。これで致命的なミス・キャストさへなければ、素直にいゝ映画だつたと心豊かに小屋を後に出来たであらう、ところではあつたのだが。端的にいふが、兎にも角にも冴島奈緒のへべれけ芝居が、卓袱台を畳ごと引つ繰り返してのける。葉月螢との二枚看板を謳ふやうな素振りを見せながら、「色情団地妻 ダブル失神」(2006/監督・共同脚本:堀禎一)にあつては犯罪的にも脱がなかつたため、ピンクのフィールドに限定すれば実は乳尻を見せるのは「痴情報道 悦辱肉しびれ」(1998/監督:池島ゆたか/未見)以来十一年ぶりともならう、御歳四十一歳(今作封切り時当時)の冴島奈緒―吉行由実は更に三つ上―が、ひとまづ戦へる体を作つて来た、あるいは維持してゐた点に関しては、無論その限りに於いて評価するに吝かではない。とは、いふてもだな。よくよく考へてみれば昔からさういふキャラクターであつたやうな記憶の残らなくもないが、素の状態に近いと思はれる基本ガッハッハ調の半分酩酊したかのやうな、正しくへべれけとしかいひやうのない冴島奈緒の口跡は、正攻法で穏当な吉行由実の作風と、親和しないどころか完全に壊しに行つてゐる。年齢層にもよらうが、依然一定以上の訴求力を持つに違ひないネーム・バリューについても、当然否定はしない。さうはいへ幾ら何でも、目に余るものは目に余る。色々ぎこちない延山未来に関しては御愛嬌の範疇にしても、ピンクの出演も二作目で、主演といふ重圧から解放されたのもあつてか、いふまでもなく吉行由実前作「裸身の裏顔 ふしだらな愛」(2008)の主演女優・Amuと同一人物である上加Amuが、見違へるやうに伸び伸びしたお芝居を見せるのに対し、キャリアだけならば大ベテランの筈の主演女優が、逐一を台無しにしてのけてはどうにも頂けない。こゝは茜役には吉行由実が自ら最前線に出陣するか、あるいは思ひ切り開き直つてみせて佐々木基子。そもそも、酒井あずさといふ熟女戦線最強のワイルド・カードすら未だ残されてゐるではないか。尤も、堀禎一の映画では決してそこまで酷くはなかつたのを見ると、吉行由実が演技指導といふ形での、駄馬を大人しく御する努力を怠つたといふ見方もあり得るのかも知れない。何れにせよ、もう少し他の可能性は見当たらなかつたものか。相手役になかみつせいじを擁したところまで含め、主題たる大人のラブ・ロマンス自体には本来何ら遜色はなかつたであらうだけに、最も基本的かつ破滅的な釦の掛け違ひから、2009年最も惜しい一作候補の最右翼となつてしまつた残念作ではある。

 一言の台詞もないまゝに、リカからエステを受けるオッパイを観客に堪能させて呉れる吉行由実は、Kalon客としてエクストラな裸要員。改めてこの人は、完全に二度目の絶頂期に突入した感が強い。樹カズは、失神エクスタシーを何とか体得せんと、茜が愛子もゐるといふのに自宅に連れ込んだものの、まんまと先に陥落する繁。協力の中から、江尻大と国沢☆実は劇中に登場してゐたやうな気もしつつ、確認し損ねた。候補としては、茜の男性遍歴回想中に首から下だけ見切れる男役か、茜とリカの二人を取材に訪れる二人組の記者。ところで因みにマジックアワーといふのは、変名松原一郎こと下元哲の制作プロダクション。


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