真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「最後のラブドール 私、大人のオモチャ止めました。」(2010/製作:幻想配給社/提供:Xces Film/監督:友松直之/脚本:石川二郎・友松直之/撮影:飯岡聖英/助監督:貝原クリス亮・安達守・菅原正登/撮影助手:桑原正祀・玉田詠空・広瀬寛巳/アクション監督:猪俣浩之 助手:亜紗美/メイク:江田友理子/スチール:山本千里/特殊造形:西村映造/VFX:鹿角剛司/制作担当:池田勝/編集:酒井編集室/ダビング:シネキャビン/出演:吉沢明歩・しじみ・若林美保・亜紗美・原口大輔・畠山寛・ホリケン。・野上正義)。ポスターではホリケン。に、句点がついてゐない。怒られるぞ、そもそもそれはお門違ひでもあるのだが。
 江戸川工科大学機械工学科に通ふ、成績も容姿もパッとしないステレオタイプなアキバ系のボンクラ学生・秋葉章太郎(原口)は、学園のマドンナ的な存在・西条彩華(吉沢明歩の二役)に恋をしラブレターも認(したた)めるが、彩華はイケメン準教授・城咲ジョージ(畠山)に夢中であつた。イチャつく二人を前に何も出来ずに歯噛みする章太郎の携帯が、その時鳴る。恩師の高円寺義之(野上)からのメールで、重要な話があるので至急作業場まで来いといふ。ところが、いざ章太郎が向かつた作業場兼研究室では、高円寺は何者かに殺害されてゐた。数日後、サイバーコンバート技術開発研究所代表のプロフェッサー植草(ホリケン。)が、実も蓋もなくなるが友松直之が好んで繰り返し使用するモチーフともいふべき、「顔面身分制度」と「恋愛格差社会」の打倒を喧伝するテレビ番組を見てゐた章太郎の部屋に、高円寺から大きな木箱が届く。ひとまづ章太郎が箱を開けてみたところ、フォトジェニックに零れる緩衝材とともに、彩華と瓜二つでメイド服姿の美少女が現れた。極めて精巧な出来ではあるが、どうやら人間ではないらしきメイドの女陰に等身大のフィギアかと章太郎がとりあへずパンティ越しに指を挿れてみると、陰核がキーとなつてゐた美少女は俄に起動する。驚きつつも章太郎は、添付の取扱説明書を初めてRX-78-2に乗り込んだアムロ・レイの如く繙く。メイド服姿の美少女は、高円寺が開発した女給型人造人間・メイドロイドのマリア(吉沢)であつた。一方、イケメン消火器販売員(畠山寛の二役目)に誑し込まれ詐欺商法に加担させられる主婦(しじみ)、イケメン課長(畠山寛の三役目)に誑かされ業務上横領の共犯となるOL(若林)、イケメン同級生(畠山寛の四役目)にこまされ援助交際に手を染める女子高生(亜紗美)らの事件が頻発する。ところでこゝでOL嬢に問ひたいのは、画的には別に構はないやうな気もしなくはないが、幾ら何でも、一般職の制服のまゝホテルに入る無防備な女といふのはあんまりでなからうか。見境をなくした世界は、意外と広いものなのかも知れないが。自動的に城咲も御多分に洩れず、あらうことか彩華を泡風呂に沈めようとすらしてゐる現場に出くはした章太郎は、果敢に食つてかかるも、ルックスに正比例した戦力差の前にまんまと撃退される。とそこに、御主人様の危機に激昂したマリアが参戦、二連撃で圧倒した城咲もマリアと同様、何と人間ではなかつた。マリアは城咲改めホストロイドを激闘の末に大破させたものの、自身の機能も停止させられる。マリアを研究室に搬送した章太郎が、取説片手に悪戦苦闘してゐると、マリアの股間から、ダイイング・メッセージとして高円寺のホログラム映像が映し出される。高円寺が研究資金の援助を受けたプロフェッサー植草は、醜男ゆえの童貞といふルサンチマンを正方向だか逆向きにだかよく判らない勢ひで画期的に拗らせた、世界の転覆を本気で企てるいはゆる“悪の天才科学者”であつた。高円寺はマリアとともに、章太郎に植草の野望を喰ひ止める使命を託す。ダメ人間が美少女アンドロイドを宛がはれると同時に、世界の命運を握る羽目になる、何と麗しいプロットなのか。友松直之は、自ら今作のノベライズを官能小説レーベルから発表してゐるが、ポルノ小説といふよりも、寧ろラノベのお話といへよう。
 私選2009年ピンク最高傑作「メイドロイド」続作、といふよりはお話は全く別物のため、正確には第二作といふべきか。因みに同時進行企画のDVD題は、「メイドロイドVSホストロイド軍団」。サイバーパンクの意匠を借りたプリミティブな恋愛映画の大傑作たる前作に対し、正調特撮活劇を目指したと思しき一作ではある。何はともあれ顕著な点は、果敢な意気込みは確かに買へ、是非は一旦兎も角DVD鑑賞した際にはそれほど気にはならないのかも知れないが、全篇を通して多用されるロー・バジェットVFXの代償といふか直截には弊害として、小屋で観戦すると上映画質がフィルムとキネコ調との間をコロッコロコロッコロ文字通り猫の目のやうに変る点。それゆゑ清々しく変動的な画調と同調するかのやうに、全てがクライマックスの一言へと見事に収束して行つた第一作の完璧と比較せずとも、物語の軸も映画の首もどうにも据わらない。プロフェッサー植草はそれまでのイケメンをブサメンに、ブサメンをイケメンへと転化させる、「価値観転倒電波」―ところでそれは、男に対してしか作用しないのか?―を遂に完成させる。いよいよ稼働寸前の装置を前に、いふまでもなく植草と同じサイドに生きる章太郎が見せる逡巡は、形式的にも実質的にも落ち着かない展開の中数少ない、そして最大のドラマ上の盛り上がり処ではなからうかとも思へたものである。ところが、ホストロイドを倒すべく生み出されたメイドロイド・マリアには内蔵された「愛情回路」完成の件と同様に、章太郎が抱へたジレンマはその場の成り行きだけで何となく片づけられ、満足な形にはなつてゐない。マリアの最終兵器フルパワーラブラブアタックに関しても、描写共々恐ろしく唐突である。他方で、突発的な最高潮が炸裂する最大の見せ場は吉沢明歩のアクション・ダブルを務めたとの、亜紗美の手放しで素晴らしい身体能力が銀幕を轟かせる、マリアV.S城咲第一戦。屈んだ章太郎の背を起点にしての側転浴びせ蹴りと、城咲の首を人間ではあり得ない方向にまで捻じ曲げる後ろ回し蹴りは正しく電光石火、南無阿弥陀仏を唱へるどころか、顔が見切れる暇もない。斯様にとかく飛び道具には事欠かないだけに、全般的な粗さがもう少し改善されてあれば、決定的な姉妹の姉作を前に当然予想され得る負け戦も、まだしも健闘出来てゐたのではなからうか。あるいは、初めからコンセプトとして志向されたB級作であるとしたならば、ツボはガッチリ撃ち抜いてあるやうに思へぬでもないが。

 繋ぎの一幕として通り過ぎられ、若林美保的には、竹洞哲也の「若義母 むしやぶり喰ふ」(2009)に続く出演のすり抜け具合を披露する、ホストロイドに篭絡される女達のシークエンスに象徴的なやうに、主眼は明確にストーリーの進行に置かれ、然るべき煽情性の要素も極めて薄い。エクセスにしては、ピンクよりも完全に映画寄りのピンク映画である。


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コメント
 
 
 
はい。 (友松直之)
2011-06-30 10:16:15
 個人的には好きな作品ですが、ご指摘のいくつかはよく言われます(笑)。
 官能小説版もびっくりするくらい売れなかったんだとか。これは笑い事ではありませんが。
 若林さん演じるラブホOLの制服は、まあ記号というか、私服だと状況説明が台詞だけになってしまうというか。オフィスセットが使えたらよかったんですけどね。
 
 
 
>はい。 (ドロップアウト@管理人)
2011-06-30 21:07:10
>ラブホOLの制服は、まあ記号というか、私服だと状況説明が台詞だけになってしまう

 成程、さういふ論理にまでは思ひ至りませんでした。
 今後もピンクを観続けて行く上での、糧とさせて頂きます。
 
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