真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「恋愛相談 おクチにできないお年頃」(2021/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:植田中・小鷹裕/編集:中村和樹/音楽:與語一平/整音:小鷹裕/助監督:可児正光/監督助手:吉岡純平/撮影助手:赤羽一真/スチール:須藤未悠/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:あけみみう・詩音乃らん・しじみ・山本宗介・赤羽一真・細川佳央)。
 ロングでマンション外景を一拍抜いて、あけみみうと山本宗介が乳繰り合つてゐる。初美(あけみ)が優吾(山本)に「ねえ、もしも」と切り出す、人の心が判るとしたらとか出し抜けに随分底の抜けた会話から、大正義正常位の火蓋を切る。手短な完遂後、実際読んだ優吾の心を初美が口にしかけるや、「チキショウ!」と語気も荒く優吾は男前を歪める。のは、アバンの初戦を、決して力技でなく夢でオトす悪夢。スナップ代りに、初美のタブレットに表示された優吾の画像にタイトル・イン。こゝまで順調、こゝまでは。
 美しい劇伴で女の裸を飾る、主演女優のシャワー・シーン挿んで、初美と優吾も成員の、何処園大学(ウルトラ仮名)の料理サークル「インスタントラーメンを突き詰める会」、略称は有無から知らん。原田ミチタカ(赤羽)自作の辛味調味料を入れてみた、ラーメンの放つ異臭に藍(詩音乃)とミナミ(しじみ)の三人で悶絶しつつ、口に入れてみると味にハマつたミナミが、辛味調味料を果てはぐびぐび喇叭飲みする奇行―徴兵忌避か―に、藍とミチタカは呆れ果てる。その頃初美はといふと、大学ごと出て来ない、戸建の優吾自宅前。普通にシレッと外出する優吾に、初美が声もかけられず二の足三の足を踏んでゐると、ミチタカとミナミを二人きりにイン突会を離脱した藍が接触。中略してある過日のサークル部室、普段とは違ふ装ひでキメて来た優吾を、秘かに片想ひする初美が軽く褒めた、ところ。開巻のナイトメア同様、俄かに血相を変へ優吾は飛び出して行つたのだつた。その際、実は―時と場合により―他人の心の声を聞くことの出来る初美には、「チキショウ!」と切り裂くやうな優吾の悪態が聞こえてゐた。
 配役残り、当然メタルフレームの、金縁ツーブリッジ面積バカ広ウェリントン。なんて途轍もなく難しい眼鏡を、カッコよく完璧にかけこなす。オダギリジョーばりのファッション偏差値の高さを弾けさせる細川佳央は、ミナミの多分同棲相手・トモくん、調理系の人。しじみV.S.細川佳央結構長丁場の一回戦を、ミチタカがミナミから破廉恥な惚気話をさんざ聞かされた旨、初美と藍に愚痴る形で処理する。即ち大きな絡みを卒なく回想で賄ふ構成も、案外裸映画的に気が利いてゐる。等々そこかしこ、枝葉は満足に繁つてもゐるのに。
 2014正月痴漢電車、かつ今やすつかり大女優的な貫禄をも漂はせる、辰巳ゆいのピンク初陣「痴漢電車 いけない夢旅行」(脚本:小松公典)以来、小鷹裕が思ひのほか久々で竹洞組に参加した2021年第二作。ちなみに小鷹裕の戦歴がピンク全体でいふと、少なくともこゝ二年正月痴漢電車の運行を停めた、小関裕次郎第二作「痴漢電車 夢見る桃色なすび」(2020/脚本:深澤浩子/主演:佐倉絆)ぶり。と、いふか。この期に改めて振り返つてみるに、正月もクソもない。「夢見る桃色なすび」以降、痴漢電車は路線自体最低運休してゐる。もう、公開題に“痴漢”なんて入つた映画をおいそれと封切れる時代ぢやないんだよ、さういふ世の中なのだらう。我ながら、認識がうすらのんびりするにもほどがある。
 公開初日を基準に、公称で二十三の詩音乃らんはまだしも、次に若いあけみみうで既に二十六、赤羽一真は三十前。しじみと山宗に至つては普通にアラフォーの五人が、ミナミに対してタメ対応の大学生といふのは、如何せん些か―どころでない―画的な無理も正直否み難い、惚れた腫れたにセンシティブな異能力を絡めた青春恋愛映画。勝手に二人で充足か完結するミナミとトモくんは措いておくか放たらかすとして、四人の恋路が器用に交錯する四角関係を構築、しはしたけれど。ミチタカのベクトルが、結局何処に向いてゐるのか判然としない点―しなくもないのか?―は兎も角、矢鱈マクガフィンじみた含みばかり持たせる会話を延々延々、性懲りもない執拗さで代名詞だらけの遣り取りを垂れ流し倒した挙句、力なく辿り着いた他愛ないラストを、與語一平によるギターはエモく哭くメイン・テーマで誤魔化す。より直截には、頼りきりで助けて貰ふ。Blue Forest Filmの映画を観てゐて常々、もしくはつくづく感じさせられる疑問について、気紛れに筆を滑らせてのけるが小松公典が徒に書き散らかした、膨大なダイアローグを処理するのに一杯一杯で、最早竹洞哲也には、満足に演出する余力の残されてゐないのではなからうか。そのくらゐ、口数ばかり夥しい割に、中身は霞より薄い尺が淡々と進行して、やがて尽きる。ただでさへ凡そセイガクには見えない根本的な負け戦の火に油を注ぎ、チキショウ当日との判り易い対比が、諸刃の剣的に働いたのかファッションからダサい山本宗介が、堂々巡りに明け暮れるドラマツルギーに動きも縛られ、気持ちよく自由気儘に飛び回り、しじみと二人九州か岩手、あるいは明後日か一昨日へと軽やかに駆け抜けて行く、細川佳央の後塵を明らかに拝してゐる。二人と比べると誤差程度のついでで、本職は俳優部らしい赤羽一真も、この人最終的には表情に乏しいのが微妙に厳しい。反面、山宗同様、煮詰まり続ける展開に身動きを封じられるビリング頭に対し、ワンダーなワン・ヒットを放つのが二番手。皆の前に出て来るやう、藍が優吾に促すのも通り越し、半ば迫る件。藍役に際して、基本肩の力を抜いた造形を宛がはれた詩音乃らんの、さりとて一旦気持ちを込めるや、轟然と輝きを増す瞳の強さが印象的。惜しむらくは此処以外さういふシークエンスに恵まれないのが甚だ勿体ない、一撃必殺の決定力ないしエモーションを撃ち抜く。美人のギアも、幾つか一息に上がる。尤も、窮屈なポジショニングに阻まれ、ボリューミーなオッパイを御披露なさる文字通りの見せ場にも、恵まれないのは重ね重ね残念無念。所詮は一応場数は稼ぐヒロインもヒロインで、終に締めの濡れ場さへ、妄想で事済ますしかないといへばないのだけれど。相も変らず大蔵の寵愛を受けこそすれ、前作で起動した悪寒を引き摺る、竹洞哲也の不調を大いに窺ふか疑はせる一作。偶さか優遇されてゐるだけにせよ、撮らせて貰へる分現に撮つてみせる。今日日唯一人、量産型娯楽映画のならではな量産性を体現する、最低限の体力ならば評価に値するものの、もう少し、中身が伴つて呉れなくてはエースと目するには全く心許ない。


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