真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性鬼人間第三号 ~異次元の快楽~」(2020/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:高橋祐太/撮影・照明:渡邊豊/撮影助手:渡邊千絵/録音:小林徹哉/スチール:本田あきら/ガンエフェクト:小暮法大/編集:渡邊豊/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/制作協力:野間清史/美術協力:いちろう/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:東凛・花音うらら・栄川乃亜・長谷川千紗・小滝正大・山科薫・野間清史・折笠慎也・森羅万象)。ファーストから助監督の名前が見当たらない、珠瑠美の映画みたいなクレジットは本篇ママ。
 セピア調の、苦み走つた小滝正大の止め画が発色して動きだす。事実上引退状態にある―漫具は捨ててない―マンガ家・小手先正馬(小滝)が、侘しいマンション屋上飲みの末、偶さかいつそ飛び降りかける。死神の前髪に触れた危なかしい小手先に、「星が見えませんね」、一週間前隣に越して来た星野ユイ(花音)が声をかける。制止して呉れた格好のユイを、借金の形に自室で客を取らせる闇金(山科)が拉致。呆然と取り残された小手先が、異音とともに夜空に浮かんだオーロラ状の怪現象に洩らした、「星・・・・!?」といふ呟きで暗転してタイトル・イン。乳尻の欠片もないにせよ、三人分の顔見せを手短に片付けるのと並行して、星で広げ星で畳む何気に小洒落た綺麗なアバンには感心した。今回の国沢実は、一味違ふ、かも。
 敢然と本篇の火蓋を切るのは花音うららの裸、キモい常連客(野間)から激しく突かれるユイの嬌声に起こされた小手先は、のちの線香花火から入るダサい回想に於ける遣り取りを窺ふに、恐らく病死したものと思しき亡妻・アケミ(東凛のゼロ役目)を想起。上に乗つたシックスナインの体勢から、顔面騎乗する形に身を起こす東凛のオッパイが狂ほしい在りし日の夫婦生活を完遂した上で、壁―に貼つた模造紙―に描かれたアケミ(小滝正大画)の目が赤く発光。すると異次元人・マーヤ(東)が小手先の部屋に出現、逆にといふか何といふか、輪郭のみ残してアケミの絵は消失する。
 印税収入も幾分かは予想されなくもない小手先の、目下の稼業はスマイル警備のやる気の感じられないアルバイト。配役残り、佐々木浩久ピンク映画第二作第三作を経て三本目の正直で初の本隊作―前二本は嘘か、四本目は竹洞哲也―となる栄川乃亜は、食パンこそ咥へてゐないものの、所謂「遅れちやふー」的に走つて来てポケーッと突つ立つ小手先と激突する、パラノーマル系の事件を専門に担当する特殊捜査機関「奇怪事件捜査研究所」こと略称「奇捜研」の新人・カオリ。森羅万象は昼行燈の小手先を古典的にどやしつける、スマ警社員・亀頭、もとい多分鬼頭。逆ナンして来たマーヤに御馴染の物置部屋にて喰はれつつ、最終的な生死は不明。唯一人、後述するシリーズ全作皆勤の折笠慎也が、奇捜研のキャップに昇進、は別にしてゐない本郷達哉。会話の中にしか出て来ない、森崎真紀(桜木優希音)は欧州支部に長期出張中、よくある手法もしくは方便が清々しい。下着までは脱ぐ長谷川千紗は、アケミとの日々を描いた善哉ならぬ『夫婦白菜』(KASSY COMICS)をそれなりにヒットさせたらしい、小手先元先生の復帰を願ひ自宅にまで足を運んだ挙句、膳をも据ゑようとする編集者・マリコ。あと、微妙な関西弁が他愛ない、異次元王天啓の主が詰めきれない余白。両方で通算三回メスを入れた、ぽんこつの視覚デバイスに劣るとも勝らず、節穴な当サイトの耳には国沢実の声とは聞こえなかつた。ついでにその際、マーヤの異次元人としての正装が、今作に先行する矢張り国沢実のVシネ「アウトレイジ・凛」(2020)の衣装と同じなのは微笑ましい御愛嬌。
 2021年は沈黙を守つたか強ひられた国沢実の2020年第二作は、「性鬼人間第一号 ~発情回路~」(2016/主演:桜木優希音)、「性鬼人間第二号 ~イキナサイ~」(2018/主演:南梨央奈)に続く奇捜研シリーズ第三作。ペース的に、第四号が今年来る?漠然か漫然とした予想ないし願望は兎も角、復習がてら、第一号と第二号の感想に改めて目を通してみたところ。他とは一線を画す地力に裏打ちされた、エモーションの重さを誇る細川佳央や、ジャスティス級色男の山本宗介らと、量産型娯楽映画らしい数打ち尽す出演本数の多さで男優部エースの座を争ふ、今を時めく折笠慎也のピンク筆卸が「性鬼人間第一号」であつた。と、ころが。気がつくと折慎が、青森に帰郷してゐるのね。ツイ曰く都合が合へば上京仕事も吝かではない模様ながら、果たして今後の推移や如何に。
 森崎真紀不在の奇捜研が弱体化甚だしく、随時脊髄で折り返すか息を吐くやうに得物を抜くのはおろか、身を挺した一般市民にも平気で発砲する出鱈目なへべれけさはそれは抜けてゐるのは底か、それとも間か。本郷が大仰に説明台詞を打つのが関の山で、狂言回しにも心許ない始末。そもそも、第一号第二号は概ね人造人間的な趣であつた、“性鬼人間”が前例に囚はれるならば登場しない盛大な羊頭狗肉。確かにゴリゴリ男を狩るマーヤの性欲は、鬼のやうであるともいへ。元来主たるモチーフである筈の、怪しみも奇しも明確に全般的な演出のトーンから薄く、代つて前面に飛び込んで来るのは、妻と同時に創作意欲も喪つた、小手先の物語。一旦翼の折れた中年男が、再起に至る過程を、勢ひ余つて彼岸にオーバーランする物語。異次元人による侵略、即ち世界の終末すら望みかねない小手先を、マーヤがぞんざいに鼓舞。パワー系の北風を吹かせての、ユイに対する下心も込みで、マリコが目を丸くする成年コミック『夫婦キャベツ』(原題)を小手先が一旦完成させる展開は愚直なエール映画として普通にエモーショナルなのだが、今回の国沢実は、その先に突き抜ける。編集から目をかけて貰へるほどにつき、再起動した小手先のマンガ家人生には勝算が期待出来、なほかつ新しい伴侶も得ての満更でもないハッピーエンド。ハッピーエンドの、その先に。アケミ以下役立たず、もとい奇捜研が取り残される、木にアダマンチウムを接ぐ唐突さこそある意味最大のワンダーといへなくもない、小手先がいはば現し世を捨て、夜の夢に消えるラストは激越にエモーショナル。大星雲を背負ふ宇宙規模に豪快な締めの濡れ場も、堂々と大完遂、赫奕と超完遂。凄え、正直吃驚した。視覚的、あるいは表面的な画のチャチさなど、取るに足らない些末。イメージの強さ―だけ―で勝負する、嘲笑上等、捨て身のプリミティブな正面戦が見事にキマる。どうしたの国沢実、消える前の蝋燭かといふのは使ひ古された憎まれ口に過ぎず、要は、久々に脚本をプロが書いてゐるからにさうゐない。などとサクッと結論に達してしまつては、実も蓋もない、別に構はんけど。裸映画的にも縦横無尽に飛び回る主演女優と、限られた組み合はせの中で、懸命に手数を稼ぐ二番手に対し、栄川乃亜の濡れ場がコッテコテの夢オチによる一発勝負なのは、トラディショナルな三番手観に従ふならば寧ろ正解。無理矢理気味に野間清史から菊を散らされたルイが、小手先を訪ね後背位での塗布を乞ふ、ドリーミンなシークエンスには本気で感動した。長く深く、湿る通り越して凍りついてゐた国沢実が放つた、久方振りのスマッシュヒット。性鬼人間―今んとこ―最高傑作は第三号を、断じて推すものである。

 最後に、よく判らないのが単なるCG以外に、これといつたマズルフラッシュも弾着も、これといふほどでさへなくまるで見当たらないガンエフェクト。よもや、プロップ用意しただけとかいふまいな。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (通りすがり)
2022-05-09 09:23:05
山科薫の悪役ぶりが不変でビックリします。
今だからこそもっと出て欲しいなあ。
 
 
 
>山科薫の悪役ぶりが不変 (ドロップアウト@管理人)
2022-05-09 20:54:08
 山科薫と、平勘はホント大昔から完成されてますね(笑
 
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