真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「発情物語 幼馴染はヤリ盛り」(2019/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/録音:丹雄二/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/制作応援:泉知良/撮影助手:赤羽一真/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:川上奈々美・工藤翔子・辰巳ゆい・櫻井拓也・細川佳央・ささきまこと・モリマサ)。
 十和田湖(青森県十和田市)湖畔、波打ち際に川上奈々美が佇む。何を持ち出したのかよく判らないが兎も角何某かを水に浮かべ、沈むと願ひ事の叶ふおまじなひ。十和田湖と背景の山々に更にその奥抜けるやうな青空とを、ドローンでドーンとパノラマぽく捉へたショットにタイトル・イン。ぼんやりした風情でドローンを操る尾田道夫(細川)と、てくてく歩く池田輝雄(以下愛称のテル/櫻井拓也)の背中。道夫が操作を失したドローンが、テルを直撃。映像系の会社に就職し先に上京したものの、遅れて進学したテルと行違ひになる形で、挫折し青森に戻つてゐた道夫は思はぬ再会を果たす。テルはといふと就活に失敗後、自由度の高い何でも屋「自分レンタル」でまあまあ充実した日々を送つてゐたところ、父親の腰痛を機に、実家の農作業を手伝ふため一時的に里帰り。一方そんな池田家では、テルの父・正勝(ささき)と母・貴子(工藤)が、だから正勝は腰をいはした筈であるにも関らずな夫婦生活。こゝで軽く度肝を抜かれたのが2018年第三作「人情フェロモン もち肌わしづかみ」(脚本:当方ボーカル/主演:友田彩也香)ぶりの工藤翔子、ではなく然様な些細なブランクなんぞ霞ませるどころか容易く吹き飛ばす、渡邊元嗣2002年第四作「女スパイ 太股エロ仕掛け」(脚本:山崎浩治/主演:デヴィ)以来実に十七年ぶりとなる相当な大復帰を遂げたささきまこと。家庭の事情で帰郷後、郷里の青森でも俳優活動を続けてゐる旨は公式サイトで見知つてゐたが、目を疑ふくらゐ結構お爺ちやんになつてゐて驚いた。口を開くと、口跡に特段変りはないが、ちなみに公称昭和35年生。閑話休題、尾田家にて手当てされたテルがレトルト飯を振る舞はれてゐると、道夫の父親で役所の偉いさん的な義春(モリマサ)が帰宅。また補足し難い名義のモリマサは、見た感じ本職の俳優部。義春マターの移住者募集CM制作に加はる格好となつたテルは、道夫を交へ三人の仲良しで、地方公務員に就職し今は義春の部下である木元雅美(川上)とも再会。ソフトフォーカスで予め明示する、淫夢もしくはイマジンを雅美に対し随時爆裂させながらも、テルは持ち前の底抜けな熱量で転がり込んだ仕事に取り組む。
 配役残り、地道に七戦目の辰巳ゆいは風俗嬢を本業に、ニックネームはリバたんのローカルアイドル活動に精を出す川野光、本名で動いてゐるのかも。僅かに洩らす呻き声を聞くに、光―源氏名不詳―の客が多分EJD、孤高のラッパーはもう沈黙したまゝなのか。そんな一昨日な与太はさて措き、単独デビュー作を、当サイトは未だ忘れても諦めてもゐない。その他後述する第一作の面子が捕まらなかつた反面、テルと義春が何かしら達成したらしき祝杯を交す隣のテーブルに、竹洞哲也やささきまこと同様青森出身の折笠慎也はまだしも、安藤ヒロキオのNSPならぬLSP“ラスト・関根和美's・ピンク”では男主役を張つた贅沢なコンビが、二人のアガッた様子を冷やかし気味に見切れる。
 小松公典が本名で脚本を担当するのは加藤義一2015年第一作「純情巨乳 谷間で歌ふ」(主演:めぐり)が二十日後には封切られつつ、竹洞組限定だと2015年第二作「四十路熟女 性処理はヒミツ」(主演:白木優子)以来の何れにしても五年ぶりとなる竹洞哲也2019年、この御時世何気に驚異の第六作。2017年第一作「レンタル女子大生 肉欲延滞中」(脚本:当方ボーカル/主演:彩城ゆりな)から連続する続篇かつ、この年夭逝した櫻井拓也にとつて、ラスト・ピンクにあたる。
 予告に目を通してみたところ、銘々悩みを抱へる田舎町に、絶対的にポジティブなバカが帰つて来る。判り易く趣向の酌めるよく出来たトレーラーで、個々の挿話が何一つ主軸を担ひ得ず、漫然とした「レンタル女子大生」を挽回する期待もそこはかとなく膨らんだ。何はともあれ、薄味な素の表情がもたらす印象からは意外と艶のある演技に長けた、ビリング頭の濡れ場はそれなりにエロく、完全に出来上がつた大人の女である辰巳ゆいが、タータンチェックに青い襟を大きくあしらつた、プリップリのピッチピチでおまけにスカートもキワッキワに短い、アイドル衣装に身を包むエクストリームな可愛らしさは比類ない。悔しがり歯噛みして呉れ、ナベ。側面的にはテルが自宅で風呂に入らうかとしたところ、リバたんver.―しかもノーブラ、ジャスティス!―の光が湯船に闖入して来るのに「これ明らかに夢ぢやん」。案外な斬新さを櫻井拓也の軽妙なビート感で加速する、明晰夢オチには普通にを通り越し大いに感心した。尤も、雅美が燻るのは道夫が塞ぎ込むいはば余波にほかならず、当の道夫の所以が、伝聞情報のみによる酷く苛められた―らしい―といふのは、漠然とか矢張り漫然とするにも度が過ぎる。寧ろ光の来し方の方が余程しつかりしてゐるのは、往々にして発生するちぐはぐ。雅美が今も抽斗に仕舞つてゐた、千切れた鞄の持ち手を鍵に、いはゆる日本一短い手紙で一撃必殺のエモーションを轟然と撃ち抜く、竹洞哲也がデビュー二本目に叩き出した最高傑作「美少女図鑑 汚された制服」(2004/脚本:小松公典/主演:吉沢明歩)と同趣向のシークエンスさへ繰り出す割に、要は女にも不自由しない出戻りニートを、総出で甘やかす他愛ない物語には噴飯するほどの片腹も痛まない。ヨシハル・エクス・マキナ頼みの子供も騙せない展開には都合のよさが否み難いといふか、凡そ否める訳もなく。テルと義春が飛び込みで戸々を回る謎行脚の目的と、光すなはち辰巳ゆいのそれもまた超絶なスーツ姿の意味がサッパリ腑に落ちないのは、どうせ一般映画版を見ないと通らない、例によつてふざけた相談だとしても。息子に向かつて、二言目にはバカバカ連呼するのをテルから難じられた貴子は、「子供つてのは、親にとつちやサイコウノバカヤロウなんだから」。OPP+題を上手く回収した、名台詞でも小松公典は書いたつもりなのかも知れないが、斯くも河島英五ばりにダサい文句を、この期に及んで工藤翔子に吐かせてどうするのよ。アホか、否、アホだ。もう一点、あれだけテルの彼女持ちを徒にフィーチャーするのならば、こゝは裸映画である以上、絡みのひとつも捻じ込んで然るべきではあるまいか。どうせ外様は概ね賑やかしのワン・ヒット・ワンダーと、括つた高があながち中らずとも遠からずであつた場合、本隊に新しい扉を抉じ開けて貰はないことには困る。といふか恐らく橋本杏子が最初に“最後のピンク女優”と称された時代からの、終る終る詐欺も性器を股に挿れて、もとい世紀を跨いでかれこれ幾星霜、遂にいよいよガチのマジで終(しま)へてしまふぞ。以下は間違つた認識を垂れてゐるつもりも毛頭ないが、世にいふ“閲覧注意”的な扱ひで、<若手男優部が決定的に不足し野村貴浩なり久保田泰也が煮ても焼いてもどうしやうもなかつた、一頃の惨状を櫻井拓也が細川佳央や山本宗介、可児正光らと劇的に改善した、未来をも覗かせる功績は当然当サイトも認めてゐる。さうは、いへ。申し訳ないが急逝した人間の結果的に最後の―ピンク―出演作などといふのは、決然と筆を滑らせてのけると偶さかな状況に過ぎず、当該映画単体の出来不出来とは、清々しいまでに全く別個の問題でしかない。>たとへばガミさんこと野上正義(2010年没)が、実際最後に撮影したのがどの映画になるのか判然としなくもあれ、工藤雅典の「お掃除女子 至れり、尽くせり」(主演:星野あかり)は論外。友松直之のメイドロイド第二作「最後のラブドール 私、大人のオモチャ止めました。」(石川二郎と共同脚本/主演:吉沢明歩)にせよ荒木太郎の非「映画館シリーズ」作「恋情乙女 ぐつしよりな薄毛」(主演:桜木凛)にせよ、だからといつて殊更ワーキャー涙を流して褒めそやすには、別に値しないのと同じである。ある、いは。敢へて積極的に構へるでなく、何時も通りの仕事ぶりが、偶々最期の作品となつた。大量生産大量消費を本質とするポップカルチャーの極北たる、量産型娯楽映画的には寧ろさういふフラットな態度の方が、より相応しくもあるのではなからうか。


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