【1968年のビンボール】

【1968年のビンボール】

1968 年 9 月 18 日、甲子園球場の阪神-巨人戦。
その年はまだ中学 2 年生で、静岡県清水市旭町にあった母が営む飲み屋、店舗兼用住宅 2 階のテレビでそれを見た。

ピッチャーのバッキーが左打席に立った王選手の頭めがけてビンボールまがいの球を投げた。

自宅の和室で王選手に日本刀を素振りさせて一本足打法を完成させた(そんなドキュメンタリーを見た記憶がある)鬼の荒川コーチが激怒してグラウンドに飛び出し、バッキーに飛びかかろうとしたらスパイクを履いた足で顔面を前蹴りされるという前代未聞流血の乱闘騒ぎがあった。

中学 2 年生はひどく驚くとともにプロレスよりもっとリアルな流血を見て興奮した。

当時はそろそろアンチ巨人に転向しつつあり、テストを受けて阪神に入団し、思い切りの良いピッチングでぐいぐいのし上がったバッキーも憎からず思っていたのだけれど、いかんせんひどいと思い
「この野郎!なんて事をするんだ!」
と怒ったりもした。国民全員怒ったんじゃないかと思うけれど熱烈な阪神ファンはそうでもなかったのだろうか。

当時はモノクロテレビだったのに血が真っ赤だった記憶があり、そういう流血のプロレスを見てショック死した人もいた時代だった。血を見てあまりに興奮したせいかその試合結果を覚えていない。もしかすると大乱闘のせいで放送時間が足りなくなって最後まで試合中継がなかったのかもしれない。

その試合の結果がどうなったか、インターネットで検索して思い出の試合について語られた掲示板を読んで意外なことを知り、それを何年か前に自分宛にメモ送信しておいたのを見つけた。

血だらけになった荒川コーチは何針も縫う大けがだったので当然のこと、暴力をふるったバッキー投手も退場になる(実はバッキーもこの乱闘で利き腕の親指を骨折し、選手生命を短くしている。痛ましい)。ドラマはそれで終わらず、なんとリリーフに出てきた権藤投手が今度は本当に王選手の頭にボールをぶつけてしまい、球場は再び騒然となる。

そういうお膳立ての整った場面で必ず登場した運の良い男がいわゆるひとつのミスターこと長嶋茂雄であり、予想通り絵に描いたような3ランホームランを放ち、見事荒川・王師弟の敵(かたき)をとったのだという。

ここまででかなり感動してしまったのだけれど、ドラマは急に終わらない。

なんとマンガ『巨人の星』にはまだその試合の続きがあり、長嶋の3ランホームランによるリードを守って逃げ切るために、巨人は抑えに星飛雄馬を投入するがビンボールまがいの大リーグボール一号を投じて、また球場内が騒然となる異様なムード。そこに登場した大金持ちの色男が代打花形満。彼が大リーグボール一号をこれまた見事にホームランして幕切れになるのだという。

「知らなかった!」
とひどく感動してメモをメール送信し、数年後の昨日、ポケットに入るコンピュータの中でそのメモを見つけて
「そうだった忘れてた!」
と数年ぶりに感動を新たにした。「知らない」と「忘れている」は限りなく近い。

( 2009 年 3 月に閉鎖した電脳六義園通信所 2004 年 6 月 22 日、18 年前の日記に加筆のうえ再掲載。)

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