富貴豆


D3 + AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G

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先日、仕事で人形町に行った。
帰りに富貴豆を買おうかとハマヤに寄ってみた。
人形町に行ったら、お土産はハマヤの富貴豆にするのが、昔からの我家の風習であった。

しかし人気があり、すぐに売切れてしまう。
今日はどうかなと思いのれんをくぐったが、平日であるためかまだ残っており、無事購入することができた。
箱に富貴豆だけを詰めたものを、ふたつ作ってもらった。

包んでもらう間、店内の窓際にある座布団の乗った椅子に座って待った。
格子になった窓から淡い光が射し込んでいる。
ふと、祖父のことを思い出した。

祖父が生きている頃、よくこのハマヤに富貴豆を買いにきた。
祖父の大好物だったのだ。
しかし予約なしで行くと、売切れてしまうことも多かった。

すでに高齢であった祖父は、杖をついて駅からハマヤまで歩いた。
人形町の駅から歩くと、年寄りには少し距離がある。
やっと辿り着いて、富貴豆を注文したところ、今日の分はもう終わってしまったという。

がっかりした祖父は、ふーとため息をつき、少し休ませてくださいと椅子に腰掛けた。
祖父にしてみれば、歩いて疲れたのでちょっと一休みしただけだった。
しかし高齢者が売り切れと聞きショックを受け、椅子にへたり込んでしまったように、お店の人には見えたらしい。

慌てた店員さんが
「わかりました。ひとつだけお作りしましょう」
と言って、無理に一箱作って売ってくれた。

祖父は喜び勇んで富貴豆を持って帰ってきた。
椅子に座った姿が、よほど哀れに見えたのではないかと、家族は困ったように話した。

だいぶ以前の話だが、この椅子はあの時祖父が座ったものだろうか・・・
そう思いながら、カバンからライカを出して、記念に椅子を写しておいた。
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