酒乱


LEICA X1

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家族でお寿司屋さんのカウンターで食べていた。
少し離れた席に、僕と同年代の男性が座った。
ポロシャツを着てメガネをかけている。
僕と大差ない格好で、ごく普通の人だ。

やけににこやかに、カウンターの中の店員さんに話しかけている。
メニューはないかという。
店員さんがメニューを渡し、何か説明している。
店員さんと二三、言葉を交わすうちに、急に客の顔色が変わった。

大した理由ではないのだと思う。
最初に紹介したものが、安いものばかりで自分を馬鹿にしているとか、そんな理由らしい。
男の目つきが急に変わり、顔が赤くなった。
そして大きな声で、口汚く怒鳴り始めた。

酒乱というやつだろう。
どこかで既に酒を引っ掛けてから入ってきたのだ。
最初から、誰かにあたるきっかけを探していたふしがある。

店員さんは困った顔をして、隣で握っている別の店員さんと顔を見合わせている。
店内が静かになり、他のお客も気まずそうにしている。

僕は何よりその酒乱の男が、自分と変わらない年齢であることが衝撃であった。
格好もそう変わらない。
酒乱の男といえば、よれよれの背広を着て、最初からそれとわかるような、情けない姿を想像していたのだが、そういう時代ではないらしい。

この男が、普段会社で仕事をしている姿に、恐らく自分と大きな違いはみつけられないだろう。
そう思うと、男が酒に飲まれて感情の制御不能に陥っている姿を、人前で晒していること自体が恥ずかしく感じられた。

家に帰って酔いが醒め、自分の行動を省みた時、多少の反省はするのだろうが、またやっちゃったという程度にしか考えないのではなかろうか。
男の姿を見て、そんな風に想像した。
そして明日も飲んで、また当り散らす相手を探して歩くのだろう。
迷惑な客である。
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