酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ウイズ・コロナの秋の雑感~TIME誌、卓球、将棋、ベンジー、闇に葬られた秩父事件

2020-09-23 22:09:27 | 独り言

 シルバーウイークに秩父を訪ねた。久しぶりの旅行をメインに、あれこれ雑感を記すことにする。

 TIME誌「世界で最も影響力のある100人」に、大坂なおみ選手とともに伊藤詩織さん(ジャーナリスト)が選ばれた。安倍政権の闇を継承する菅首相に忖度し、控えめに報道するメディアもあるかもしれないが、彼女の勇気は前稿で紹介したキャサリン・ガンさん以上ともいえ、称賛に値する。伊藤さんを支援してきたひとりが、菅首相の〝天敵〟、東京新聞の望月衣塑子記者だ。

 秋分の日は秋彼岸のさなかでもある。亡き父と妹に思いを馳せながら、四十数年ぶりに卓球に興じた。父が管理していた施設に卓球台があり、しばしば3人で楽しんだ。ペン専門で、シェイクしかなかった今回は勝手が違ったが、ラケットのせいにしても仕方ない。空振りしたり、体を捻り切れずアウトしたりで、肉体の衰えを実感した。

 「藤井聡太二冠 新たな盤上の物語」(NHK総合)は。AI時代を背景に藤井の斬新な指し手に迫ったドキュメンタリーで、トップ棋士たちの証言も興味深かった。その藤井を王将挑戦者リーグ初戦で破った羽生九段は、竜王戦挑戦者決定第3局で丸山九段を下しており、タイトル獲得通算100期を目指す。

 羽生を待ち受ける豊島竜王はA級順位戦初戦で敗れた。対局過多が心配だが、叡王戦第9局で永瀬叡王に勝ち2冠に復帰した。日本シリーズを含め藤井には5連勝している。豊島の謎めいた柔らかさに、藤井の鋭い鈎は掛からないのかもしれない。

 熱い勝負を生配信し、将棋ブームを後押ししているのがAbemaTVだ。囲いの基本も知らない知人の女性は、棋士のキャラに興味を持ってAbemaの将棋番組を楽しんでいる。佐藤会長、深浦九段ら〝堅物〟イメージだったベテランがサービス精神を発揮し、〝魔王〟渡辺名人も奥さんの漫画でおちゃめな素顔を晒している。女流棋士には美人が多く、棋界への注目はさらにアップするはずだ。

 「69号室の住人」(TOKYO MX)に浅井健一(ベンジー)が出演していた。MCは遠山大輔(グランジ)である。ブランキー・ジェット・シティ(BJC)、シャーベッツ、JUDEなどでフロントマンを務め、現在はインターチェンジキルズを率いるベンジーも55歳になった。輪廻転生を意識したのか、♪老人はこの世の中で一番始まりに近い……とニューシングルで歌っている。妙に共感出来るが、俺の場合、単にガキに戻っているだけだ。

 BJC時代は反米意識が窺える曲もあったが、シャーベッツでは絵を描くようにイメージの連なりを紡ぐ作詞の手法を確立した。楽曲には反映させていないが、ベンジーはある時期、右派的な発言が目立った。三島由紀夫、一水会の系譜を引く〝反米ナショナリズム〟が滲んでいて、現政権の米国従属とは一線を画している。

 遠山が芸人であることを意識した上で、<平和が危うくなっている。音楽や漫才が出来なくなる時代が来るかもしれない>(趣旨)とベンジーは表現の自由が侵されつつあるという危機感を訴える。<コロナ禍で様子が変になった人がいたら、周りが手を差し伸べるべき>と語るベンジーに、「ディズニーランド」(1982年)が蘇った。同曲では壊れてしまった友と一緒にいられない罪深さを歌っていた。たゆまぬ進化と深化により、ベンジーは今もロックの極北に位置する孤高のボヘミアンだ。

 秩父行きを決めた際、「秩父事件~自由民権期の農民蜂起」(井上幸治著、中公新書)を購入した。1968年に発表された名著で、満を持して「秩父事件資料館 井上伝蔵邸」に足を運んだ。だが、窓口で同世代と思しき男性から<映画「草の乱」(2004年)に使われた衣装などが展示されているだけで、価値はない>と伝えられる。

 ブログに書くと差し障りがある可能性を承知した上で、その男性の思いと井上の著書をベースに記したい。秩父事件は1884年10月末から11月上旬にかけ、負債減免を求めて起きた農民蜂起だ。生糸生産を生業にしていた農家が、横浜を舞台にした取引に翻弄されていく状況が、井上の著書にデータとして提示されていた。今風にいえば、グローバル経済に巻き込まれた生産者の困窮といえる。

 大宮、上州、信州、八王子と生糸生産で結びついた広範な地域の農民が、自由党の軛を脱し、秩父困民党に馳せ参じた。加わった博徒たちも山林での会議を一瞬で賭場に偽装するなど巧妙な作戦で寄与する。当時の農村には一揆の力学が維持されており、維新後十数年、革命と武力への志向は、現在と比べものにならないほど強かった。

 公憤と私憤が混在し、証書を焼くだけでなく、暴利を貪る高利貸への襲撃が相次いだ。困民党を抑えられなかったという理由で解散した自由党は、貧困に喘ぐ農民に寄り添えなかったのだ。窓口の男性によると、膨大な史料が残されているにもかかわらず、表に出てこない。<暴徒>として葬られた困民党は、秩父でタブーになっている。

 米民主党はサンダースの影響で、公平・公正を主張し社会主義を是認するオルタナティブが勢力を増し、欧州でもグリーン・レッド連合が伸張している。翻って日本はどうか。コロナ禍で格差は広がり、街に失業者が溢れることは確実なのに、野党の体質は困民党を見捨てた自由党と変わらない<脱成長コミュニズム>を提唱し、社会の枠組みを変えようとしている大阪市大・斎藤幸平准教授の声は届きそうにない。

 秩父事件関連の史料や展示には出合えなかったが、西武秩父駅-秩父鉄道秩父駅間を数往復するなど、歴史を感じる街並みを散策した。夜祭など繁忙期には観光客で溢れているに違いない。
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