酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「行き止まりの世界に生まれて」~スケボーが紡いだ絆

2020-09-27 19:05:44 | 映画、ドラマ
 竹内結子さんが亡くなった。享年40である。最近では「ミス・シャーロック」のシャーロック役が記憶に新しい。自ら死を選んだ女優の死を心から悼みたい。

 カリフォルニア州ニューサム知事が、2035年まで販売される全ての新車を「ゼロエミッション車」に限定すると発表した。<頻発する山火事の原因は気候変動>と指摘し、環境への影響が大きい運輸部門の温暖化対策を急ぐ方針という。昨年10月、全米20州以上で排ガス規制を無効にしたトランプは、確実に対抗措置を講じるはずだ。

 気候危機対策のみならず、大統領選は今後に向けた分岐点になる。パレスチナへのアパルトヘイトを断行するイスラエルと、イエメン空爆を主導するUAEがトランプの仲介で国交を樹立した。まさに悪の三国同盟だ。民主主義を破壊するトランプだが、世論調査でバイデンに迫っているという。再選を期待しているのは、米国の失墜をともに願う習近平とプーチン、庇護されているイスラエルのネタニヤフ、そして日本の菅首相あたりか。

 シネマカリテで先日、「行き止まりの世界に生まれて」(2018年、ビン・リー監督)を見た。上記の「ミス・シャーロック」同様、配信はHuLuである。舞台のイリノイ州ロックフォードは繁栄から取り残されたラストベルト(錆び付いた工業地帯)に属している。失業率、犯罪率が高い街で生まれた3人の幼馴染み、ビン、キアー、ザックの12年を追ったドキュメンタリーだ。

 監督でもあるビンは中国系、キアーは黒人だ。3人を紡いだのは、形に囚われない自由、反抗のイメージが湧くスケートボードだった。リーダー格のザックは「普通の子供のようにアメフトに熱中し、勉強していい会社に入るなんて糞食らえだ」と吐き捨てていた。

 <オバマ前大統領が年間ベストワンに選んだ>が謳い文句だが、〝トランプのアメリカ〟を映したというのは的外れだ。ラストベルト化が進行したのはオバマ政権下で、前回の大統領選でヒラリー候補は民主党の金城湯池をトランプに明け渡している。本作は政治的背景と無関係に、ビンが幼い頃から撮っていたフィルムをまとめたドキュメンタリーだ。

 ビンが手にしたカメラの前で、キアーとザックは自然体に振る舞う。3人がスケボーに興じるシーンは疾走感に溢れ、スクリ-ンに瑞々しさが行き渡っていた。家庭に軋轢を抱える彼らにとって、スケボーはアイデンティティーの象徴、心を解放する手段、そしてバランスシートでもあった。ちなみに、原題“Minding the Gap”はスケボー用語で〝段差に注意せよ〟の意味だ。

 屈託ない表情を浮かべる3人だが、青年期になるにつれ孤独と絶望が滲んでくる。ザックは恋人との間に子供をもうけながら幸せな家庭を築けず、デンバーに移る。父や兄と確執を抱えていたキアーは絆の意味に気付く。父の墓を探し当て、和解した。継父のDVから守れなかったことを悔いる母の涙をフィルムに収めながら、ビンは心の揺れを隠せない。普遍的なドラマゆえ、見る側は癒やしと潤いを覚えるのだ。

 ビン監督はインタビューで、<暴力と、暴力によってクモの巣のように広がる影響は、大部分で永続されて、扉の向こうにとどまってしまう。僕の願いは「行き止まりの世界に生まれて」で扉を開いてくれた登場人物たちによって、同じように苦労している若者が勇気を得て、その状況を切り抜けること>(趣旨)と語っていた。

 63歳の俺は観賞後、自らの来し方を重ねた。ビンたちに限らず、人は齢を重ねるにつれ〝段差〟が広がっていく。足を取られそうになるが急いでも仕方がない。目の前に聳えるのは〝行き止まりの壁〟だ。無限の可能性を秘める若者たちが羨ましい。
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