弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

弁理士会声明・弁理士法改正の方向

2006-03-24 00:07:10 | 弁理士
日本弁理士会が弁理士法改正の方向性という声明を発表しました。文章中では日付が3月14日となっていますが、公表されたのは3月22日のようですね。
「これはブログネタとして好適」と思って読んでみたのですが、どうも内容が具体的でなく、とらえ所がありません。ちょっと整理してみましょう。

まずは緒言です。
「日本弁理士会は、弁理士の基本を「技術と法律の素養を具えた国際的対応ができる知的財産の実務専門家」として捉えている。」
「平成12年弁理士法によって、弁理士間の競争を促して人材を育成するという考えに基づいた施策がとられ、弁理士試験合格者を急増」「当会は・・・、新たに弁理士となった者が・・・、基本的な業務能力を有していることが不可欠であると考える。」「基本的な業務遂行能力を持たない弁理士が多数輩出されていくことは、・・・資格制度の崩壊の端緒に他ならない。」

本論において、「見直すべき問題」「見直すべき具体的事項」を、以下の3つのテーマに分けています。
(1)弁理士としての業務遂行能力(実務能力)が十分でない弁理士の増加 - 実務経験のない合格者の大幅増、試験科目から条約が削除、制度改正に伴う変化や弁理士業務の拡大に十分に対応できない
(2)弁理士の業務実態に即していない利益相反規定、外国出願関連業務
(3)制度的制約が大きいため法人化が進んでいない

以下、「(1)弁理士としての業務遂行能力(実務能力)が十分でない弁理士の増加」についてのみ、内容を整理します。
 問題点を、「弁理士試験のみでは弁理士の実務遂行能力は担保できない」
「法律科目選択者は技術に弱く、技術科目選択者は法律に弱い」
「条約に弱い」
「弁理士会研修対応は限界、特許事務所OJTも限界」ととらえ、

具体的には、試験制度で「現行の知識偏重型の試験から、論理的思考力を考査することに力点を置いた試験に」「論文試験に条約科目復活」
登録前研修制度で「実務無経験者の最低レベル確保研修」
「法律系人材には最低限の技術の素養を」
「国が研修を制度設計し、弁理士会が国の委託で研修実施。イニシャル費用は国が負担」
既存の弁理士に「全弁理士を対象にした義務研修を制度化」
と提言しています。

ここからは、上記声明に即し、私の感想と意見を述べます。
「弁理士試験のみでは弁理士の実務遂行能力は担保できない」のは当たり前で、それは合格者100人時代(平成一桁)も現在(合格者700人時代)も変わりません。明細書作成能力を評価するような筆記試験が困難である以上、産業財産権法の法律素養を見る試験しかできないのですから。せいぜい「出題傾向として、そのための勉強が実務に役立つような問題を出す」という工夫ができる程度でしょう。実務遂行能力はやはりOJTで身につけるしか有りません。
声明で具体策として挙げられる「論理的思考力を考査」でなぜ実務能力が担保できるのでしょうか。「実務無経験者への登録前研修」にしても、従来から行われている新人研修とどこが違うのか不明確です。
登録前研修で法律系人材に技術の素養を、というのは訳が分かりません。そんなに簡単に技術の素養が身に付くのなら、理系大学などいらないでしょう。本当に弁理士を「技術の素養を備えた」と定義するのなら、理系学部を卒業かあるいは技術系選択科目合格を条件にする以外にないでしょう。
「特許事務所OJTも限界」ととらえていますが、特許出願件数年間40万件という数字は横ばいです。増えていません。従って、特許事務所の雇用状況は無資格者を含めれば変化していないはずです。新規採用の実務無経験者の中に占める資格取得者の割合が増えたというだけで、事務所のOJT負荷が増えているとは思えません。

この声明を離れ、私自身の意見を次回に述べたいと思います。
コメント
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