4月13日に北朝鮮長距離ロケットが発射された直後の日本政府の広報対応は、後手後手に終わってお粗末なものに映りました。ここでも北朝鮮長距離ロケット発射と日本政府の対応で報告したとおりです。
さっそく、政府の検証チームが結成されてその顛末を検証するとのことでしたが、4月26日に報告書が提出されたとのことです。
内閣官房長官記者会見(平成24年4月26日(木)午後)で「北朝鮮ミサイル発射事案に係る政府危機管理対応検証チーム報告書について」として紹介がありました。その中に、「北朝鮮ミサイル発射事案に係る政府危機管理対応検証チーム報告書が掲載されています。
報告書は20ページの書類ですが、何とも読みづらい書類でした。内容をわかってもらおうという熱意は全く感じません。何かを隠しながら書いているとの印象しか受けない書類です。
取り敢えず読んでみました。
事前に決められていた情報伝達要領は、以下のとおりでした。
(1) 米国が早期警戒衛星でミサイルの発射を探知すると、米国から防衛省にSEW情報(早期警戒情報)が伝達される。
(2) わが国の安全に影響があると判断される場合には、防衛省はこのSEW情報を官邸幹部及び官邸対策室(危機管理センター)に一斉通報する。
(3) さらに自衛隊等のレーダーによって当該ミサイルの飛翔経路が捕捉され、これがわが国に向かっていることが確認された場合に、防衛省は官邸対策室(危機管理センター)に「発射情報」として伝達する。
実際には、上記情報伝達要領はどのように実施されたのでしょうか。
(1) 米国は7時40分に防衛省にSEW情報を伝達しました。
(2) わが国の安全に影響はないと判断されたため、一斉通報されませんでした。
(3) 米軍はロケットを「ロスト」。自衛隊のレーダーでもわが国に飛来する飛翔体を関知しなかったので、「発射情報」は伝達されませんでした。
上記情報伝達要領で決められた情報伝達を、以下「正規の防衛省 → 官邸情報ルート」(正規ルート)としましょう。
結局、「正規ルート」での情報は一切発信されなかったわけです。
しかし、非正規ルートの情報はいろいろありました。
《危機管理監が受けた情報》
7時42分「別ルート」 → 危機管理監「何らかの飛翔体が発射された模様、現在確認中」
その後 防衛省リエゾン←危機管理監「わが国に向かう飛翔体のレーダー捕捉がないことを照会・確認」
8時00分 防衛省運用企画局長 → 危機管理監「報告」
《内閣官房長官が受けた情報》
7時42分「別ルート」 → 官房長官「何らかの飛翔体が発射された模様、現在確認中」
8時03分 防衛大臣 → 官房長官「何らかの飛翔体が発射、洋上に落下した模様。当該飛翔体については日本には影響なし。」
8時07分 防衛省運用企画局長 → 官房長官「状況報告」
8時13分 防衛大臣 → 官房長官 再度電話連絡
以上のように、情報がやり取りされた結果として、以下の広報がされました。
Jアラートは発信せず
8時3分 「Em-Net」で全国の自治体に「わが国としては発射を確認していない」(米村敏朗内閣危機管理監が判断)
8時23分 防衛大臣が記者会見「何らかの飛翔体が発射されたが洋上に落下」
8時37分 官房長官が記者会見
以上のような事実関係を明らかにしたうえでの検証チームの結論は、納得できるものではありませんでした。
第1に、上記「正規ルート」については、防衛省内で「わが国の安全に影響があると判断される場合」か否かの判断と、「当該ミサイルの飛翔経路が捕捉され、これがわが国に向かっている」か否かの確認を行うことになって、いずれも「該当せず」と判断されたらしく、結果として防衛省からは「一斉通報」も「発射情報」も発信されませんでした。
この防衛省内での判断がどのようになされたのか、そして、「一斉通報」「発射情報」ともに発信しないと判断したとしても、その判断経緯を即座に官邸に伝えることがなぜなされなかったのか、という点には全く踏み込んでいません。それがために、検証報告は何が何だかわからないレポートになっています。
第2に、「一斉通報」「発射情報」ともに発信されなかったとしても、危機管理監と官房長官には、7時42分から8時3分にかけてさまざまなルートから断片的な情報が入っています。これら断片的な情報に基づいて、しかるべき相手先と相談すれば、その時点でどのように対応すべきかは即座に判断できたはずです。なぜ、危機管理監と官房長官は、適切な判断ができなかったのか、その点については全く検証されていません。
第3に、「正規ルート」において、登場する主体は「防衛省」のみです。防衛省内のどのような部局のどのような責任者が何を判断し、誰の承認を得て、どのようなルートで情報を発信するのか、そこが判明しません。
そして不思議なのは、「別ルート」「防衛省リエゾン」「防衛省運用企画局長」「防衛大臣」などが非正規ルートとして登場するのですが、危機管理監も官房長官も、これら発信源からの情報を軽視しています。何でこんなに軽視しているのでしょうか。そこが不明です。
(追加)第4に、今回のように1段目の段階でロケット推進に失敗するような場合を、事前の検討では十分に組み込んでいなかったといいます。しかしそれは何ら言い訳になりません。想定外の事象が起きたときでも適切・迅速に判断し行動できてはじめて、危機管理体制が有効であるといえます。この程度の想定外に何ら対処できないということは、日本政府中枢が危機管理の素人であることを世界に公表したようなものです。北朝鮮はさぞかしほくそ笑んでいることでしょう。近隣諸国のうちで弱体部分を攻めるとしたら、日本が最適であることが白日の下にさらされました。
今回の検証チームにおいて、事務局長は内閣危機管理監です。
以上に述べた今回のいきさつにおいて、危機管理監は、検証される側の最重要人物です。検証されるべき人が検証チームの事務局長なのですから、満足な検証はできないものと最初から邪推されるようなチーム編成になっていたのです。
いずれにしろ、検証チームの報告書が公表されたのに、新聞紙上ではその検証結果について実におざなりの記事しか掲載されません。すでにとっくに、このニュースについては賞味期限が切れているのですね。
なお、ゴールデンウィークに突入し、このブログもGW明けまでお休みとなります。
さっそく、政府の検証チームが結成されてその顛末を検証するとのことでしたが、4月26日に報告書が提出されたとのことです。
内閣官房長官記者会見(平成24年4月26日(木)午後)で「北朝鮮ミサイル発射事案に係る政府危機管理対応検証チーム報告書について」として紹介がありました。その中に、「北朝鮮ミサイル発射事案に係る政府危機管理対応検証チーム報告書が掲載されています。
報告書は20ページの書類ですが、何とも読みづらい書類でした。内容をわかってもらおうという熱意は全く感じません。何かを隠しながら書いているとの印象しか受けない書類です。
取り敢えず読んでみました。
事前に決められていた情報伝達要領は、以下のとおりでした。
(1) 米国が早期警戒衛星でミサイルの発射を探知すると、米国から防衛省にSEW情報(早期警戒情報)が伝達される。
(2) わが国の安全に影響があると判断される場合には、防衛省はこのSEW情報を官邸幹部及び官邸対策室(危機管理センター)に一斉通報する。
(3) さらに自衛隊等のレーダーによって当該ミサイルの飛翔経路が捕捉され、これがわが国に向かっていることが確認された場合に、防衛省は官邸対策室(危機管理センター)に「発射情報」として伝達する。
実際には、上記情報伝達要領はどのように実施されたのでしょうか。
(1) 米国は7時40分に防衛省にSEW情報を伝達しました。
(2) わが国の安全に影響はないと判断されたため、一斉通報されませんでした。
(3) 米軍はロケットを「ロスト」。自衛隊のレーダーでもわが国に飛来する飛翔体を関知しなかったので、「発射情報」は伝達されませんでした。
上記情報伝達要領で決められた情報伝達を、以下「正規の防衛省 → 官邸情報ルート」(正規ルート)としましょう。
結局、「正規ルート」での情報は一切発信されなかったわけです。
しかし、非正規ルートの情報はいろいろありました。
《危機管理監が受けた情報》
7時42分「別ルート」 → 危機管理監「何らかの飛翔体が発射された模様、現在確認中」
その後 防衛省リエゾン←危機管理監「わが国に向かう飛翔体のレーダー捕捉がないことを照会・確認」
8時00分 防衛省運用企画局長 → 危機管理監「報告」
《内閣官房長官が受けた情報》
7時42分「別ルート」 → 官房長官「何らかの飛翔体が発射された模様、現在確認中」
8時03分 防衛大臣 → 官房長官「何らかの飛翔体が発射、洋上に落下した模様。当該飛翔体については日本には影響なし。」
8時07分 防衛省運用企画局長 → 官房長官「状況報告」
8時13分 防衛大臣 → 官房長官 再度電話連絡
以上のように、情報がやり取りされた結果として、以下の広報がされました。
Jアラートは発信せず
8時3分 「Em-Net」で全国の自治体に「わが国としては発射を確認していない」(米村敏朗内閣危機管理監が判断)
8時23分 防衛大臣が記者会見「何らかの飛翔体が発射されたが洋上に落下」
8時37分 官房長官が記者会見
以上のような事実関係を明らかにしたうえでの検証チームの結論は、納得できるものではありませんでした。
第1に、上記「正規ルート」については、防衛省内で「わが国の安全に影響があると判断される場合」か否かの判断と、「当該ミサイルの飛翔経路が捕捉され、これがわが国に向かっている」か否かの確認を行うことになって、いずれも「該当せず」と判断されたらしく、結果として防衛省からは「一斉通報」も「発射情報」も発信されませんでした。
この防衛省内での判断がどのようになされたのか、そして、「一斉通報」「発射情報」ともに発信しないと判断したとしても、その判断経緯を即座に官邸に伝えることがなぜなされなかったのか、という点には全く踏み込んでいません。それがために、検証報告は何が何だかわからないレポートになっています。
第2に、「一斉通報」「発射情報」ともに発信されなかったとしても、危機管理監と官房長官には、7時42分から8時3分にかけてさまざまなルートから断片的な情報が入っています。これら断片的な情報に基づいて、しかるべき相手先と相談すれば、その時点でどのように対応すべきかは即座に判断できたはずです。なぜ、危機管理監と官房長官は、適切な判断ができなかったのか、その点については全く検証されていません。
第3に、「正規ルート」において、登場する主体は「防衛省」のみです。防衛省内のどのような部局のどのような責任者が何を判断し、誰の承認を得て、どのようなルートで情報を発信するのか、そこが判明しません。
そして不思議なのは、「別ルート」「防衛省リエゾン」「防衛省運用企画局長」「防衛大臣」などが非正規ルートとして登場するのですが、危機管理監も官房長官も、これら発信源からの情報を軽視しています。何でこんなに軽視しているのでしょうか。そこが不明です。
(追加)第4に、今回のように1段目の段階でロケット推進に失敗するような場合を、事前の検討では十分に組み込んでいなかったといいます。しかしそれは何ら言い訳になりません。想定外の事象が起きたときでも適切・迅速に判断し行動できてはじめて、危機管理体制が有効であるといえます。この程度の想定外に何ら対処できないということは、日本政府中枢が危機管理の素人であることを世界に公表したようなものです。北朝鮮はさぞかしほくそ笑んでいることでしょう。近隣諸国のうちで弱体部分を攻めるとしたら、日本が最適であることが白日の下にさらされました。
今回の検証チームにおいて、事務局長は内閣危機管理監です。
以上に述べた今回のいきさつにおいて、危機管理監は、検証される側の最重要人物です。検証されるべき人が検証チームの事務局長なのですから、満足な検証はできないものと最初から邪推されるようなチーム編成になっていたのです。
いずれにしろ、検証チームの報告書が公表されたのに、新聞紙上ではその検証結果について実におざなりの記事しか掲載されません。すでにとっくに、このニュースについては賞味期限が切れているのですね。
なお、ゴールデンウィークに突入し、このブログもGW明けまでお休みとなります。