中外時評 負担の連立方程式を解けるか 育児支援拡充の落とし穴
論説委員 柳瀬 和央
2023年4月18日 日経新聞
『岸田文雄政権の少子化対策の実像は財源のあり方しだいで大きく変わる。負担を巡る連立方程式を解き、子育て世帯の支援にしっかりつなげることができるだろうか。
政権は小倉将信少子化相が公表した少子化対策のたたき台を踏まえ、6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で財源を含む対策の大枠を示す方針だ。
自民党の茂木敏充幹事長は4日のBS日テレの番組で確保する財源規模に関し、こども家庭庁の2023年度予算が4.8兆円だと説明した上で述べている。「最低でも半分はやると思う。2/3だとすると3兆円はやる。」
ではその巨額の財源をどこに求めるのか。茂木氏は「増税と国債(⑥)は、いま考えていない。」(①~⑥はブログ主が記入しました)
① 医療保険など既存の社会保険の運営者に少子化対策を目的とする拠出金の納付を求める。・・保険料にはいずれ反映される。
社会保険に少子化対策の財源を求めると、この構図(現役世代への社会保障の負担が重くなる)を強めかねない。
② 児童手当などの財源として企業から徴収している「子ども・子育て拠出金」の増額。これは事業主に化される税金である。
児童手当など育児世帯への給付を拡充しても保険料や賃金低迷で相殺される。こんな落とし穴を避けるには、現役世代の中だけで再配分するのではなく、高齢者に協力を求めることが欠かせない。
問題は所得で加入者の保険料をはじく社会保険の枠組みでは高齢者の負担が限られる点だ。・・・所得が少なくても資産を持つ高齢者は少なくない。
③ 資産も含めて負担能力に応じた協力を求める仕組みがいるが、それは消費税の方が優れている。
④(消費税の議論を封印するなら)所得だけでなく、保有する資産も勘案して保険料を決める。
⑤ 育児世帯が最も恩恵を受けるのは、年金、医療など既存の社会保障給付の削減で財源を捻出することだ。
関東学院大の島澤諭教授が子育て給付を6兆円増やす想定で財源別に出生率を上げる効果を推計したところ、最も大きい年3万人あまりの効果が期待できるのは、高齢者向け給付の削減(⑤)で賄うケースだった。次に効果があるのは消費税(③)で約7000人。将来世代の負担になる赤字国債(⑥)の約6000人を上回った。現状の社会保険料(①②)だと逆に出生率が5000人程度減るという。』
これから純粋に増加する歳出として、上記の「異次元の少子化対策」に加え、「防衛費のGDP比1%→2%」もあります。
私は常々、「歳出増加に見合う財源を確保する上では、高齢者向けの社会保障給付(年金、医療費)を削減することが最も必要だ」と考えています。年金制度を単独で見ても、現在の現役世代が年金世代になったときの年金崩壊を食い止めるためには、現在の年金受け取り世代の給付額を減らすことが最も重要です。
しかし、「現在の高齢者向け給付を減らそう」という意見は、政治家から出てこないことはもちろん、ニュースでもマスコミは口をつぐんでいます。
今回初めて、上記日経記事でその主旨の主張がなされました。しかし、論調としては決して強力ではありません。「そっと言い添えた」程度ですね。
高齢者のうち、「資産の多い人から多く徴収する」というのは、現在の相続税の累進課税制度によってなされています。上記「(高齢者の)保有する資産も勘案して保険料を決める(④)」は、相続税ではできますが、生きている高齢者の資産を毎年勘案することは難しそうです。
論説委員 柳瀬 和央
2023年4月18日 日経新聞
『岸田文雄政権の少子化対策の実像は財源のあり方しだいで大きく変わる。負担を巡る連立方程式を解き、子育て世帯の支援にしっかりつなげることができるだろうか。
政権は小倉将信少子化相が公表した少子化対策のたたき台を踏まえ、6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で財源を含む対策の大枠を示す方針だ。
自民党の茂木敏充幹事長は4日のBS日テレの番組で確保する財源規模に関し、こども家庭庁の2023年度予算が4.8兆円だと説明した上で述べている。「最低でも半分はやると思う。2/3だとすると3兆円はやる。」
ではその巨額の財源をどこに求めるのか。茂木氏は「増税と国債(⑥)は、いま考えていない。」(①~⑥はブログ主が記入しました)
① 医療保険など既存の社会保険の運営者に少子化対策を目的とする拠出金の納付を求める。・・保険料にはいずれ反映される。
社会保険に少子化対策の財源を求めると、この構図(現役世代への社会保障の負担が重くなる)を強めかねない。
② 児童手当などの財源として企業から徴収している「子ども・子育て拠出金」の増額。これは事業主に化される税金である。
児童手当など育児世帯への給付を拡充しても保険料や賃金低迷で相殺される。こんな落とし穴を避けるには、現役世代の中だけで再配分するのではなく、高齢者に協力を求めることが欠かせない。
問題は所得で加入者の保険料をはじく社会保険の枠組みでは高齢者の負担が限られる点だ。・・・所得が少なくても資産を持つ高齢者は少なくない。
③ 資産も含めて負担能力に応じた協力を求める仕組みがいるが、それは消費税の方が優れている。
④(消費税の議論を封印するなら)所得だけでなく、保有する資産も勘案して保険料を決める。
⑤ 育児世帯が最も恩恵を受けるのは、年金、医療など既存の社会保障給付の削減で財源を捻出することだ。
関東学院大の島澤諭教授が子育て給付を6兆円増やす想定で財源別に出生率を上げる効果を推計したところ、最も大きい年3万人あまりの効果が期待できるのは、高齢者向け給付の削減(⑤)で賄うケースだった。次に効果があるのは消費税(③)で約7000人。将来世代の負担になる赤字国債(⑥)の約6000人を上回った。現状の社会保険料(①②)だと逆に出生率が5000人程度減るという。』
これから純粋に増加する歳出として、上記の「異次元の少子化対策」に加え、「防衛費のGDP比1%→2%」もあります。
私は常々、「歳出増加に見合う財源を確保する上では、高齢者向けの社会保障給付(年金、医療費)を削減することが最も必要だ」と考えています。年金制度を単独で見ても、現在の現役世代が年金世代になったときの年金崩壊を食い止めるためには、現在の年金受け取り世代の給付額を減らすことが最も重要です。
しかし、「現在の高齢者向け給付を減らそう」という意見は、政治家から出てこないことはもちろん、ニュースでもマスコミは口をつぐんでいます。
今回初めて、上記日経記事でその主旨の主張がなされました。しかし、論調としては決して強力ではありません。「そっと言い添えた」程度ですね。
高齢者のうち、「資産の多い人から多く徴収する」というのは、現在の相続税の累進課税制度によってなされています。上記「(高齢者の)保有する資産も勘案して保険料を決める(④)」は、相続税ではできますが、生きている高齢者の資産を毎年勘案することは難しそうです。