弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

日本での相対的貧困率の推移-再掲

2021-10-11 22:56:27 | 歴史・社会
2009年11月8日に「相対的貧困率データが意味するものは」として記事を載せました。この記事を一昨日再掲しました。

この記事に対して、「相対的貧困率へのコメント 2021-10-10」で再掲したとおり、びいのたけしさんから連合総研のレポートを紹介して戴き、ゆうくんのパパさんから80年代、90年代の相対的貧困率についてOECDのデータを紹介していただきました。

さらに2009年11月27日、「日本での相対的貧困率推移 2009-11-27」として次の記事をアップしました。2009年10月20日に厚労省が公表した「相対的貧困率」のデータから何を読み取るのか、という問題です。
以下に、この記事を再掲します。
--再掲----------------------
私がOECDのデータに直接アクセスすればいいのでしょうが、私はこの分野の専門家というわけでもないので、そこまではやらずに済ませました。そして取り敢えずは、判明した相対的貧困率のデータを1枚のグラフにまとめてみようと思います。
2009年に厚労省が公表した1998~2007年のデータ(pdf)、連合総合生活開発研究所による「公正で健全な経済社会への道」の124ページ図表Ⅱ-2-16「年齢階層別の相対貧困率推移」の中の「年齢計」のデータ(1995~2003年)、それにゆうくんのパパさんがコメントされたOECDデータによる日本の相対的貧困率(80年代:12%、90年代:13.7%)です。連合総研のデータは、グラフから読み取ったので数値は正確でありません。



厚労省データ、連合総研データ、OECDデータそれぞれで若干の上下がありますが、「1985年から2007年にかけて、日本の相対的貧困率は徐々にではあるが確実に増大している」という傾向を読み取ることができます。

吉川徹「学歴分断社会」によると、終戦後から現在に至るまでの経済状況を、三つの時代に分けます。1945~70年が戦後社会、70~95年が総中流社会、1995~現在が格差社会です。客観的にそのような時代であったというよりも、国民の気分がどのような気分だったかで区分けしているようでした。
ところが上記相対的貧困率の推移によると、「総中流社会」と言われた期間内において相対的貧困率は上昇傾向にあり、「格差社会」に名前を変えた以降も徐々に増大し、現在でもまだ上昇傾向が続いている、ということが事実としても言えるようです。

このように、20年以上にわたって日本の相対的貧困率が上昇傾向にあるという事実は、きちんと受け止める必要があります。このデータを「日本の年齢構成が変化したことによるものであり、実質的な格差の度合いは変わっていない」と見るのかどうか、それはデータをよく解析してみないと分かりません。少なくとも詳細解析によって真の姿を解明することは必須です。

また、「OECD諸国の中で、日本の相対的貧困率はワースト4位である」という事実も受け止めるべきです。なぜそのようになったのか、解明しなければなりません。

すべては専門家による詳細な解明が待たれるのですが、取り敢えずは私が六十有余年生きて来た実感を書き留めておこうと思います。
私が小学生だった1960年頃、日本全体が貧乏でしたし、その中での格差も今以上に強烈だった印象があります。テレビドラマ「若者たち」などで描かれていました。
その後、高度経済成長が始まりました。高度経済成長が終焉し、安定成長の時代に入るのが1975年頃でしょうか。「総中流社会」と呼ばれるのが1970年以降ということは、高度経済成長の最終段階で、日本全体が豊かになるとともに格差も是正され、その後25年間にわたって「日本は格差の少ない社会だ」という実感が継続されたことになります。
そして現在が「格差社会」です。

1960年以降の50年間の実感からいうと、むしろ1970~1995年の「総中流社会」が極めて異例の時代だったのではないかとの感想が得られます。日本の2000年間の歴史の中で、あの25年間だけがユートピアのような時代だったのではないかと。それ以前の日本は貧乏でかつ格差もありました。そして現在は、全体は昔ほど貧乏ではありませんが格差が拡大しつつある時代です。

高度成長期とそれに続く総中流時代は、世界の中でも日本が有する特質を生かせる時代でした。堺屋太一氏が「高度工業化社会」と名付けた時代で、日本人の勤勉さや組織を大事にする気質がフルに生かせた時代です。しかしその時代も終わり、現在は、日本がかつて担った高度工業化の部分は、賃金レベルが低い新興国が担うようになり、高賃金の日本はそれとは別の役割で生きて行かざるを得ません。
かつての総中流時代のような幸福な時代が再度到来し得るのかどうか、見通せません。
少なくとも、「総中流時代と同じレベルに戻れて当然」との認識は捨てた方が良いだろうと思います。


ところで、「現在の日本は、相対的貧困率がなぜ徐々に増大してきたのか。OECD諸国の中でなぜ日本は低位のレベルにあるのか。」といった謎を解明するためには、データを解析する必要があります。
先日、連合総合生活開発研究所「公正で健全な経済社会への道」の124ページ図表Ⅱ-2-16に示される年齢階層別の相対貧困率推移について、各年齢別において、例えば30歳未満の相対的貧困率を算出するに際し、中位数の人の所得とは、全年齢合計における中位数の人の所得なのか、それとも30歳未満の人の集合の中での中位数の人の所得なのか、その点が不明だったので、連合総研に直接問い合わせてみました。

結論は以前報告したとおり「年齢階層別の貧困率は、全年齢データの中位数の所得値(等価所得)の半分(50%値)を相対的貧困の基準値としたものです。この基準値を各年齢階層の所得データに当てはめ、この基準値以下の人数が、その年齢階層の人数に対して何%を占めるかという比率がその年齢階層の相対的貧困率です(OECDの相対的貧困率の作業)。」というものでした。

そして連合総研から上記回答を頂いたおり、併せて以下のコメントをいただきました。
「等価所得の計算は、個票データ(世帯単位の所得額を世帯員に配分しなおすため)が必要であり、日本の場合には所得データは国民生活基礎調査が利用されておりますが、個票データの利用には許可が必要でその条件は厳しいようです。」
即ち、国民生活基礎調査のデータを持っている厚労省がなかなかデータ使用許可を出さないので、一般のシンクタンクが有益な解析を行うことが困難です。従って、厚労省自身が独自で有益なデータ解析を行って公表しない限り、われわれは実態を正確に知ることができません。厚労省には態度を変えてほしいものです。
--再掲、以上---------------------

ところで、日本の社会における「格差」は、年々進行しているのでしょうか。そして、OECD諸国の中で劣等生なのでしょうか。
「格差」を調べる上で、以上のような相対的貧困率の他に、ジニ係数が知られています。昨日のテレビのニュース番組で、「ジニ係数で見ると、日本の格差は決して進行してはいない」というグラフが出されていました。
一方では、2009年に私が作成した上記のグラフを見ても、あるいは最近公表されている公的なデータを見ても、相対的貧困率は上昇カーブを描いています。
貧困統計ホームページ
子どもの7人に1人が貧困状態 18年調査で高い水準に 2020年7月17日 朝日新聞デジタル
世界で共通して議論ができる、きちんとしたデータを提示してほしいものです。
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相対的貧困率へのコメント

2021-10-10 09:20:19 | 歴史・社会
12年前の当ブログの記事「相対的貧困率データが意味するものは 2009-11-08」については、昨日再掲したところです。次に、上記当時のブログ記事に寄せられたコメントを再掲します。
--コメント再掲-------------------------
相対的貧困率のまとめ (びいの たけし)   2009-11-08 20:12:15
同じ連合でも、連合総研がまとめたレポートが包括的でスタンダードな分析をしていると感じました。
urlのリンク集にありますが、ネット上で無料で閲覧できます。
公正で健全な経済社会への道 連合総合生活開発研究所
高齢化の影響を除くには年齢階級別の相対的貧困率をフォローするのがよいと思います。

Unknown (ゆうくんパパ)   2009-11-09 10:20:03
貧困率は、3年ごとの国民生活基礎調査のデータで計算されており、一番古いデータは85年です。
政府は公表していませんが、OECDが公表している「80年代なかば」(85年と思われます)の貧困率は12%です。
また、「90年代なかば」(94年と思われます)の貧困率は、13.7%です。
これらのデータは、OECDのホームページのデータベースで見ることができます。
長期的に見ると、日本の貧困率は一貫して上昇傾向にあります。
ただし、貧困率は「所得中央値との比較」であるため、中央値が下がると貧困率が低下します。
これは、貧困層の所得が改善されたわけではなく、中間層の所得が落ち込んだために発生する「見かけの改善」です。
03年に貧困率が「改善」したのは、中央値が大幅に下がったためだと思われます。
貧困率の数字だけ見れば、97年以前の方が、上昇率は大きく、最近になって急上昇しているとは、必ずしもいえません。
しかし、97年以前の貧困率の上昇は、国民全体の所得が伸び、中間層の所得も伸びている中で、貧困層の所得も多少は伸びつつも、全体の伸びに追いついていかないという意味での貧困率の上昇でした。
97年以降の貧困率の上昇は、国民全体の所得が減少する中で、貧困層の所得はさらに低下していることを示します。
その意味では、最近の貧困率の上昇は、その数字以上に深刻な意味を持っていると思います。
日本の貧困率が高いのはなぜか。
最近の上昇の原因は何か。
これらを正確に議論するためには、単に貧困率の数字さけでなく、その計算のもとになったデータや、性別、年齢別、世帯業態別などの計算結果を公表することが必要だと思います。
国民生活基礎調査の公表データを使って、ある程度までは素人でも計算できますが、正式なデータの公表が必要だと思います。

相対的貧困率 (ボンゴレ)   2009-11-09 17:09:34
びいのたけしさん、コメントありがとうございます。
連合総研のレポートは1990年代からのデータを掲載しており、今回政府が公表したデータよりも長いスパンでデータを解析できそうです。

もしご存じだったら一点教えてください。
連合総研レポートの124ページ図表11-2-16に年齢階層別の相対貧困率推移が示されています。
ここで、中位数の人の所得の半分以下の所得の人を「貧困」とするわけですが、各年齢別において、例えば30歳未満の相対的貧困率を算出するに際し、中位数の人の所得とは、全年齢合計における中位数の人の所得なのか、それとも30歳未満の人の集合の中での中位数の人の所得なのか、その点がよくわかりません。
もしおわかりでしたら教えてください。

ゆうくんパパさん、コメントありがとうございます。
OECDデータによれば日本の相対的貧困率は、80年代:12%、90年代:13.7%、00年代:15%代ということになるのですね。
「70~95年は一億総中流、95年以降は格差社会」という区切りは、国民の気分を表しているのみではなく、実質的にも貧困格差が進行している、ということになるようです。
一方で、「小泉・竹中改革のせいで格差が拡大した」という短絡的な言い方はやはり本質を見誤るのでしょうね。

日本の貧困率が高いのはなぜか。
最近の上昇の原因は何か。
という点についてさらに深い解析を待ちましょう。

それにしても、私は理系のせいか、今回のような解析であれば、横軸が可処分所得、縦軸が頻度となるようなヒストグラムを見たくなります。そのような図表が絶無であるというのは、もちろん政府がデータを公表しないからでしょうが、そのようなデータを見たいという要望も少ないのでしょうね。
その点は不思議です。

データの秘匿の問題では (びいの たけし)   2009-11-10 05:27:29
urlに子供の貧困率について推計したものを載せていますが、統計データの個票データの情報を公開しなければ正確なものは描けませんので、その問題で、公開したくてもできないのだと思います。

ボンゴレさんお尋ねの件については、明確にはわかりませんが、年齢内の格差を論じているとすれば、中位数は年齢内のものと理解することで構わないように思います。分析の注などにあたってみる必要があります。連合総研に直接問い合わせてみるのが早いかと思います。きちんとしたシンクタンクなら回答をくれると思います。

年齢別の貧困率 (ボンゴレ)   2009-11-11 14:59:43
びいのたけしさん、ご返答ありがとうございます。
連合総研レポートでの疑問点については、ご指摘のとおり、連合総研に問い合わせました。返答がありましたらまたご報告します。

年齢別の貧困率 (ボンゴレ) 2009-11-14 22:52:19
連合総研レポートの124ページ図表Ⅱ-2-16に年齢階層別の相対貧困率推移が示されています。
ここで、中位数の人の所得の半分以下の所得の人を「貧困」とするわけですが、各年齢別において、例えば30歳未満の相対的貧困率を算出するに際し、中位数の人の所得とは、全年齢合計における中位数の人の所得なのか、それとも30歳未満の人の集合の中での中位数の人の所得なのか、その点が不明だったので、連合総研に直接問い合わせてみました。

その結果、すぐに回答をいただくことができました。連合総研さん、ありがとうございます。

結論は以下の通りです。
「年齢階層別の貧困率は、全年齢データの中位
数の所得値(等価所得)の半分(50%値)を相対的貧困の基準値としたものです。この基準値を各年齢階層の所得データに当てはめ、この基準値以下の人数が、その年齢階層の人数に対して何%を占めるかという比率がその年齢階層の相対的貧困率です(OECDの相対的貧困率の作業)。」
年齢層別に中位の人の所得を用いたのではありませんでした。

従って、連合総研レポートの図表Ⅱ-2-16は、各年齢階層ごとにその階層内での貧富の格差を見たものではなく、前年齢層の中で「貧困」と定義づけられた世帯が、各年齢階層ごとにどの程度の比率で存在するかを見たデータであるということになります。

この点は実は、連合総研レポート123ページの図表Ⅱ-2-15(可処分所得200万円未満層の構成比の推移)と、問題にしている図表Ⅱ-2-16との類似性からも、そうに違いないと推定していたところです。

慧眼ですね (びいの たけし)   2009-11-17 21:04:39
ボンゴレさん、ご報告ありがとうございました。なかなかの慧眼ですね。

厚生労働省から11月13日に現役世代の相対的貧困率が公表されましたね。前回の公表ほど騒がれていないようですが。

政府とOECDによる貧困率 (勉強中)   2010-03-18 13:21:47
こんにちは

相対的貧困率について調べていて当サイトに辿り着きました。
初学者にとっても勉強になるものでした。ありがとうございます。('-'*)♪

少し疑問なのですが、昨年厚生労働省が初めて発表した過去10年間の貧困率を出すのに利用したデータと、OECDが今まで公表している貧困率を出すのに利用したデータは違うものなのでしょうか?OECDが計算に使っているデータはおそらく各政府から公表されている数字を利用していると思うのですが、昨年厚生労働省が相対的貧困率を算出する際に利用した方法はOECDと同じであるとされているので、政府が今回出した数字と今までのOECDの数字とは何が違うのかが、よくわかりませんでした。ご存知でしたら教えてください。
また、調べる方法などもご助言頂ければ幸いです。
OECDのドキュメントをみてもよくわかりませんでした。

宜しくお願いいたします。

相対的貧困率について (ボンゴレ)   2010-03-18 21:35:19
勉強中さん、コメントありがとうございます。

私はこの分野については門外漢なので、残念ながらご質問についてお答えできる知識は持っていません。

ところでこの記事の後、「日本での相対的貧困率推移」と題して別の記事もアップしましたので、こちらもご覧いただければ幸いです。このアドレスです。
--コメント再掲、以上---------------------

2009年の上記ブログ記事に続いて、私は1985年まで遡っての相対的貧困率の推移解析を試みました。次に、そのブログ記事を再掲します。
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相対的貧困率とは

2021-10-09 10:32:45 | 歴史・社会
岸田新政権で、「成長と分配」がキャッチフレーズとなり、その中でも「分配」が大きく取り上げられています。「格差是正」は以前から言われていましたが、「分配」がこれだけ声高に主張されてはいなかったように思います。

国民の経済格差を表す指標である「相対的貧困率」を政府が初めて公表したのは2009年(民主党政権の長妻厚労大臣時代)でした。2007年調査(2006年対象)は15・7%で、算出を行った1998年以降で最悪となりました。経済協力開発機構(OECD)が昨年に公表した加盟30カ国の比較では、日本は4番目に悪かったのです。
このときは、1997~2006年のデータがアップされており、それよりも前の時期との比較はできませんでした。
今回、「相対的貧困率」で検索してみると、現在の厚労省発表では、1985年からのデータが見られるのですね。
貧困統計ホームページ
子どもの7人に1人が貧困状態 18年調査で高い水準に 2020年7月17日 朝日新聞デジタル

2009年に1997~2006年の相対的貧困率データが公表されたとき、私は、それ以前からの推移を知りたいと考え、いろいろ調査してみました。その結果のブログ記事を、ここに再掲することとします。

相対的貧困率データが意味するものは 2009-11-08
--以下、再掲---------------
貧困率、19年は15.7% 世界ワースト4位
『10月21日7時56分配信 産経新聞
 厚生労働省は20日、国民の経済格差を表す指標である「相対的貧困率」を初めて発表した。平成19年は15・7%で、7人に1人が貧困状態という結果。算出を行った10年以降で最悪となった。経済協力開発機構(OECD)が昨年に公表した加盟30カ国の比較では、日本は4番目に悪かったが、国はこれまで数値を出しておらず、労働者団体から「現状把握のために調査をすべきだ」との声が上がっていた。
 政権交代で就任した長妻昭厚労相が今月上旬に算出を指示、この日の会見で「来年度から支給する『子ども手当』などの政策を実行に移し、数値を改善していきたい」と説明した。
 相対的貧困率は、一家の収入から税金やローンなどを除いた自由に使える「可処分所得」を1人当たりに換算し、高い人から順に並べた場合の中央値の半分に満たない人の割合を出したもの。子供の相対的貧困率は、全体の中央値の半分に満たない子供の割合を示している。今回の調査は、3年に1度実施している国民生活基礎調査の結果の数値を使い、10年にさかのぼって3年ごとの値を算出。OECDが採用している計算方法を用いた。 最悪の水準となった19年は、年間所得の中央値が228万円で、相対的貧困率の対象となるのは所得が114万円未満の人。この比率が15・7%を占めた。
 OECDが公表した2000年代半ばの各国の相対的貧困率の比較によれば、日本はメキシコ(18・4%)、トルコ(17・5%)、米国(17・1%)に次いで4番目に高かった。』

10月下旬に上記報道がありましたが、その後、相対的貧困率という数値が今の日本の何を示しているのか、どうすべきなのか、といった議論が深まる気配はありません。

できる範囲内で調べてみました。
厚労省の発表については「相対的貧困率の公表について」にデータ(pdf)として上がっています。
調査対象年として、1997、2000、2003、2006年のデータがアップされています。このグラフを見る限り、「1997年から10年間、相対的貧困率は漸増している」と言えますが、「急激に貧困率が増大した」とは言えないでしょう。
1997年というと、拓銀や山一証券が破綻した年ですが、「貧困が急激に増大した」という認識は特に記憶していません。
2000年は森政権、2003年は小泉政権中期ですが、小泉政権になって貧困は若干改善したと見るのでしょうか。2006年に貧困率は一番悪い数字ですが、急速に悪くなったわけではありません。

マスコミでは、2006年のワンポイントの数値のみを話題にしていますが、1997年、さらにそれ以前からの推移についても解析してほしいものです。

次に、OECD加盟30ヶ国の中で日本は4番目に悪いということです。
対外比較では日本は所得が比較的均質な国であると、今までは理解していました。その理解が間違っていたのでしょうか。なぜ日本は貧困率が高いのでしょうか。以前(1997年以前)から、日本は貧困率が高かったのでしょうか。

ネットで調べてみましたが、なかなか統一的な解析を発見することができません。

勝間和代さんの発言を見つけました。勝間和代のクロストークにおいて以下のように主張されています。
「日本の貧困率が高い理由は、所得の再配分機能が他のOECD諸国に比べて弱いためです。市場所得ベースで比べると、相対的貧困率は他のOECD諸国と大きく変わりません。しかし、失業給付や生活保護など貧困層に対する政府からの社会保障が少ないため、税金・手当配分後の可処分所得ベースでは、差が開いてしまうのです。
 また、もう一つの要因として、パート賃金がフルタイムに比べて安いことが挙げられます。ひとり親家庭が貧困になりやすいのは、パート賃金労働者が多いためです。
 相対的貧困率が日本で拡大してきた背景としては高齢化も指摘されています。年功序列賃金が主流の日本では高齢者が高賃金になりやすい一方、若年層は失業率が高く、職があっても賃金が安いため、高齢者が増えるほど格差が数値上広がっていくのです。」

連合は、2005年9月にすでにこの問題を取り上げていました。日本の所得格差指数、貧困率は何故高いのかにおいて、以下のように論じています。
「日本の可処分所得ジニ係数、貧困率が高いのは何故であろうか。この「レポート」の分析から、以下二つの要因が指摘できる。その一つは、政府の社会保障給付(児童手当・失業給付・生活保護など現金給付のみを分析)および税による所得格差の縮小策が、日本は他のOECD諸国に比べ極めて貧弱なことである。税・社会保障給付を含めない市場所得のみによる貧困率と、税・社会保障給付を含めた可処分所得の貧困率の2つを比較した分析(原図14)を行なっているが、それによれば、市場所得の貧困率では日本は、フランス,ドイツ、ベルギー、デンマーク、イギリス、アメリカなど主要な欧米諸国よりは低い。しかし可処分所得における貧困率では、日本は米国を除いた他の諸国の貧困率を大きく上回る結果となる。つまり、ヨーロッパ諸国は、税および社会保障給付によって低所得者の可処分所得を引き上げ、貧困率を引き下げている。一方、日本はその再分配政策が極めて弱く、その結果として可処分所得の貧困率は高くなっているのである。
 二つめの要因は、日本における広汎な低賃金(パート賃金)の存在がある。子どもがいる片親世帯の貧困率は、日本よりも米国、英国、カナダ、オーストラリアまた地中海諸国が高いが、働いている片親世帯の貧困率は、日本がトルコとともに60%以上で群を抜いて高い(米国でも約40%)。また、生産人口における貧困層においても日本は2人働き世帯所属の貧困者がその4割弱、1人働き世帯所属の者が3割強を占め、無業者は1割強である。一方他の先進国の貧困層では、2人働き、1人働き世帯所属の貧困者の比率は大幅に小さく、無業層が中心となっている(原図12)。さらに高齢者の貧困層においても、日本の場合には約半数が働いており、他の先進諸国には見られない特異な特色を見せている。すなわち、日本ではパートなど低賃金労働が広汎に存在し、この勤労層が低所得層を形成し貧困比率の高さを生み出している。」

勝間さんの主張はこの連合の主張と一致しています。

本川裕さんとおっしゃる方のサイト社会実情データ図録の中に、相対的貧困率の国際比較が含まれています。2007年11月21日収録です。
「年齢別賃金格差と相対的貧困率との相関図を参考に掲げたが、対象国数は少ないものの年齢格差が大きい国ほど相対的貧困率も高いという結果になっている。このように日本は年齢格差が大きいから相対的貧困率も高く出るという側面があり、このことを無視して貧困度を論ずることは妥当ではなかろう。」

「日本は所得の再配分機能が弱い」という指摘ですが、所得税については十分に累進課税になっています。これ以上はないくらいです。「金持ちからたくさん税を取る」点は十分なされているものの、「貧困層にそのお金を還元する」点が不十分だということでしょうか。具体的に、OECD諸国の中で貧困率が低い国と対比し、日本がどの程度「貧困層への還元」で落差があるのか、数字で知りたいところです。

一方で、例えばVoice11月号で富山和彦氏(経営共創基盤)は「日本はいまだ、社会福祉や社会保障にしても理念的に大いなる勘違いをしています。弱者救済の論理で社会保障システムを作っている国は、OECD加盟国にはあまりありません」と発言されており、上記認識とは正反対です。

「正社員とパート・派遣とでは、同じ仕事をしても時給に大きな差がある」という点については賛成です。このような実態についてはできるだけ早急に問題を解決するよう、民主党連立政権には大いに望むところです。

日本の厚労省が相対的貧困率のデータを公表したのは今回が初めてですが、OECDは従来からデータを公表しているわけです。この公表データを用いて、日本の実態を解明する努力をぜひ専門家にはお願いします。
長妻厚労大臣も、単にデータを公表するのみではなく、深く解析して日本が進むべき道を指し示してください。
--再掲、終わり---------------

2009年当時、勝間さんは上記のように、
「日本の貧困率が高い理由は、所得の再配分機能が他のOECD諸国に比べて弱いためです。市場所得ベースで比べると、相対的貧困率は他のOECD諸国と大きく変わりません。しかし、失業給付や生活保護など貧困層に対する政府からの社会保障が少ないため、税金・手当配分後の可処分所得ベースでは、差が開いてしまうのです。
 また、もう一つの要因として、パート賃金がフルタイムに比べて安いことが挙げられます。ひとり親家庭が貧困になりやすいのは、パート賃金労働者が多いためです。」
とされていました。これが現在でも正しい解析なのかどうか、岸田政権の厚労省ではぜひこのあたりの解析をしっかり行ってもらいたいです。

次の記事で、上記ブログ記事に対して皆さんからいただいたコメントをアップします。
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